岡部美代治|Vol. 5 フェイシャルマッサージの誤解と必要性
Beauty
2015年4月13日

岡部美代治|Vol. 5 フェイシャルマッサージの誤解と必要性

本当は簡単で、本当に必要だった

Vol.5 フェイシャルマッサージの誤解と必要性

大手化粧品メーカーの研究部門と商品開発部門にて、数々の優秀コスメ誕生にかかわってきた岡部美代冶さん。女性の美に対するあくなき探求心と鋭い視点、そして研究者ゆえの造詣の深さを活かして、さまざまな「美容の疑問」を、科学的見地から解説していただきます。

語り=岡部美代冶まとめ・イラスト=小林由佳Photo by Jamandfix

フェイシャルマッサージは難しい──そう感じているひとは多いのではないだろうか。さまざまなメーカーが、新商品が出るたびに独自のマッサージ方法を提案するし、日々画期的(または奇抜)なマッサージ方法が雑誌やテレビを賑わせる──結局、どれが本当に効果的なのかわからぬまま、フェイシャルマッサージはサロンで受ける“スペシャルケア”として位置づけてしまう。しかし、化粧品を使ったスキンケアが習慣であるように、マッサージもまた毎日つづけてこそ結果が出るものらしい。ならば、毎日無理なくつづけられて、確実に効果のあるマッサージ方法を、きちんと習得しておこう。

Q. そもそも、マッサージは毎日のスキンケアに必要なものなんですか?

ええ。マッサージには、化粧品だけでは担いきれない効果があります。化粧品の美容成分を肌に働かせるとかではなくて、マッサージというのは、肌の血液循環を良くすることと、リラクゼーションの効果を目的としています。もちろんマッサージクリームやオイルは必要です。でもこれは、皮膚と指の間になにかをおいて、指の滑りをよくするためのものです。

Q. なぜ、“化粧品”開発者の岡部さんが、マッサージという“動作”を重要視するのですか?

マッサージクリームやマッサージオイルに、血行やリンパに影響する成分が配合されているだけではありません。私は生物学出身なので、生物の基本原理や、皮膚組織がどういうものなのか、しっかり見てきています。そこから言えるのは、皮膚は、基本的にはからだの内部から酸素や栄養をとらないと生きていけない、ということです。さらに、実際に物理的に皮膚全体を動かすことが効果的、ということは生物の基本です。皮膚において、そのいちばんのベースとなるのは血液やリンパの循環です。だからマッサージは絶対に必要なんです。

Q. 化粧品研究の過程で気づきがあったのですね。

ええ。育毛剤がその顕著な例でした。どの育毛剤を見ても、頭皮の血液循環をよくするということが声高にうたっています。そして、頭皮の循環をよくする有効成分がたくさん入っていても、それに必ずマッサージの方法が付随します。また、化粧品カウンターやエステサロンに通う方々を見ていると、高齢者でも肌のキレイなひとは結構いる、ということに気づきました。

そしてこういうひとたちに共通するのは、やはりマッサージが好きで、定期的にやっているということ。理論的にも、血液やリンパの循環を良くするためには、肌を“もむ”とか“押す”という行為にかなう化粧品はないんです──歯の健康のために、歯ブラシで歯ぐきのブラッシングをするのもおなじことでしょう? 皮膚やそこに生えている毛髪などを元気にするには、やっぱりマッサージが基本。
だから、つねに肌にきちんと栄養と酸素をわたして、老廃物を除去するためにはつづけるしかない……これが私の結論です。化粧品の効果をうまく生かしたいのなら、マッサージは不可欠です。

Q. でも、日々の習慣に新たにマッサージを加えること自体、難しそうなんですが……。

マッサージって、効果的なスキンケアだと認識されながらも、実際はあまりされていない行為なんですよね。難しいものだと思われがちです。そこで、まず日常にマッサージをとり入れるにはどうしたらいいかというと、化粧品を肌になじませる日々の行為を、マッサージの一種だと考えればいいんです。

そうすると、丁寧に肌を触るようになるでしょう? その時は化粧品が肌に浸透することを願いつつ肌を触っていますが、均一に丁寧に化粧品をなじませようとする行為は、じつは肌全体をマッサージすることでもあります。だから化粧品の付け方を考えなおすだけで、日常的にライトなマッサージを行えるようになります。

Q. 好きなように肌を押したりもんだりしていたら、たるんだり小じわが増えたりしませんか?

それは都市伝説(笑)。皮膚は生物学的にみても医学的にみても、もともと丈夫な組織なんです。本来、からだを守るためにあるものですから、少々引っ張っても壊れないようにできていますよ(笑)。だから、普通にマッサージするくらいで、たるんできたりシワができたりということはありません。

Q. フェイシャルとは異なりますが、“セルライトをつぶす”というマッサージは、痛いけれど本当に効果があるんですか?

セルライトは、美容業界では認定されていても、医学界や生物学界には概念そのものがないんです。確かに、セルライトにはいびつで固い状態なものもありますが、美容業界が言うようにほぐせば崩れるものかというと、決してそうではないんです。だから、やっぱり「痛い」という動作は、マッサージとは別だと思いますよ。マッサージは、セルライトをつぶすものではありません。

Q. スキンケア商品やエステシャンが、いろいろな方法を提案していますね。

もちろん、各々それなりの持論があるのでしょうが、マッサージで気をつけるべき基本概念は、3つしかないんです。ひとつは「心地よくつづけられること」。化粧品をなじませるという動作も、自分が心地よいと感じられればどんな方法でもいいんです。指の動かし方や方向にこだわる必要はありません。

ふたつめは、「マッサージの目的は、真皮の血行とリンパの循環をよくする」ためにあるということ。そして最後は「マッサージは、こするか、押すか、もむの3パターンしかない」ということ。叩く(パッティング)というのは、“押す”という動作のうちにふくまれます。これらが気持ちいい状態で行えれば、効果が得られるんです。

Q. 最近は器具を使った方法もよく目にします。

器具を使ったマッサージはあまり薦めませんね。あれは一種のまじないですよ(笑)。さらにその器具がゲルマニウムだろうかなんだろうが、それが皮膚にいいという科学的な検証はほとんどされていないのが現状です。もっとも、丸いボールのようなものを皮膚のうえで転がしてそれが気持ちよければマッサージ効果といえますが、そもそも、自分の指で十分なんです。マッサージを指で行うことで、自分の肌の状態を実感することは大切です。ザラつきや硬さを知ったり、弾力の度合いに気づいたり。せっかく“指”という立派なツールがあるんですから、肌の状態を確認しながらマッサージすれば、それは一石二鳥でしょう?

Q. では、具体的に、岡部さんが推奨するマッサージ方法を教えてください。

部位別にマッサージの方法を紹介します。額は、指を回転させながら内から外へ進めます。額が狭いひとは、外から内でも構いません。眼は基本的に内から外に指を流す。これも強く押す必要はありません。まぶたは、皮膚を少し上げるような感じにすれば、むくみ防止になります。
目の下は乾燥しやすいので、アイクリームを使ってもいいでしょう。最後に目の横のツボを押さえます。皮膚が薄いところですが、マッサージでちりめんジワができる、なんてことはありません。目の下のクマは、血液循環の滞りやメラニンや骨格でできる影が原因ですが、マッサージをすることで血液循環はよくなるので、ある程度解消できるでしょう。

頬は、指を回転させながら上にあげる。回転は右回しも左回しも関係ありません。メーカーによってはどちらかを推奨することもありますが(笑) 回転させるのは、面積が広い頬を、まんべんなくマッサージするためです。上から下に回転させても問題ありませんが、下から上にあげたほうがその様子もエレガントですよね。

Q. 頬なら、リンパマッサージも必要なのでは?

皆さんが顎のラインに沿ってよくやるリンパマッサージは、リンパに直接働きかけているのではありません。皮膚ってそんなに単純なものではないし、リンパ腺は複雑に入り組んでいるので、下から上でも上から下でもすぐにリンパの循環に影響するわけではないんです。ただ、もんだり押したりして皮膚を動かすことで循環には影響します。巷でいうリンパマッサージは、あくまで理屈と見た目のエレガントさで説得力があるようにできています。皮膚構造はそんなに単純なものではありません。とにかくまんべんなくマッサージしていけば、最終的には循環はよくなる、と考えてください。

口もとやフェイスラインは、しゃべったり食べたりすることで口筋がつねに動いているので、どういうふうに押しても問題ありません。くちびる上下とも、くちびるのラインに沿って中央から外にむかって指を流し、最後に口角にあるツボを軽く押します。フェイスラインは、顎を両手で少しづつ上につまんでいく程度でしょうか。表情癖によるシワや、加齢による法令線を避ける必要はありません。“気持ちいい”マッサージなら、その線を太くすることは絶対にない。そんなに皮膚は弱くありませんから。むしろ、マッサージすることでその進行を遅らせることができます。

Q. どんなときにこのマッサージをすれば効果的ですか?

朝は化粧水を丁寧につけてなじませる、夜はメイクを落としながら、疲れて滞った血液循環を促し、肌により栄養と酸素が入るようにする……ただし、粗いスクラブとの併用は避けたほうがいいですね。肌の汚れをこすり落とすスクラブと、血行やリンパの循環を促すマッサージでは目的が別ですから。長時間する必要はありません。面倒くさくならない程度で十分。大切なのは、日々のスキンケアにマッサージをとり入れるという、気持ちの切り替えなんです。こまめに日中までする必要はありません。メイクが崩れるだけですから(笑)

化粧品がどんなに進化しても、マッサージの効果を代理するような効果を持つ商品は永遠に出てきませんよ。そしてどんなに新しいマッサージ方法も、プロから見たら基本はおなじなんです。

岡部美代冶オフィシャルサイト
「美」の科学 「ビューティサイエンスの庭」
http://www.kt.rim.or.jp/~miyoharu/

           
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