第14回 香りの雑貨、香水のトレンドの現在とこれから
Beauty
2015年3月18日

第14回 香りの雑貨、香水のトレンドの現在とこれから

パフューマー新間美也さんと、
“日仏フレグランス文化” の違いを考える

その4
香りの雑貨、香水のトレンドの現在とこれから

さて、3回にわたって調香師の新間美也さんと香りにまつわる文化を語り合ってきました。最終回の今回は、新間さんの作品を紹介しながら、香水のこれからを見つめます。

text by NAKANO KaoriPhoto by Jamandfix

桜の花にインスピレーションを受けた 『香り玉・さくら』

タブーをおかして新境地に挑む、フレーバーグリーンティー

中野香織 新間さんは、香水以外にも、生活を味わいつくすための香りの雑貨をたくさん手がけていらっしゃるのですが……たとえば、このコロコロした真珠のような粒がたくさん入った箱はなに?

新間美也さん 香りの粒子で、木の箱を開けておくと、部屋が香ります。

中野 ポプリの和風バージョンのようなもの?

新間 洋風と和風のあいだぐらいでしょうか (笑)。キモノ地で作ったにおい袋もあります。

中野 レターセットも素敵ですね。一緒にはさむ花びらの紙に、香りがついている。たしかに、直接カードにスプレーするとあとから染みになっちゃたりしますけど (笑)、これならその心配もなく香りを届けられる。……あら、扇子まで?!

新間 ええ、扇子と一緒に、百人一首の歌を自分流に解釈してフランス語で書いた詩を添えています。たとえばこの 「Hana」 には小野小町の歌を。

中野 (わかる単語だけ拾い読みして) ああ、「花の色は移りにけりないたずらに…」 ですかこれは。つかのまの美しさって、ああ、エフェメールっていうフランス語になるんですねえ。さらにコスメも手がけていらっしゃって。ほんとうにバリエーション豊かな 「香り雑貨」 の数々。製造はパリですか。日本で買えないの?

新間 輸入制限があったりしてあまり広く展開はしていないのですが。でも、お茶は日本でも 「ディーン&デルーカ」 などで扱ってもらっています。

中野 お茶……ってこれ、ひょっとして、緑茶?!

新間 ええ、静岡の川根茶なんです。わたしの出身が静岡県で。

中野 フレーバー緑茶なんてはじめて見ました。

新間 実は静岡でも問題になったのです。緑茶は移り香を一番避けなくてはいけないのに、わざわざ香りをつけるのはなにごとか、ということで。そんなお叱りを受ける反面、ヨーロッパで緑茶が認められたのはすごいことだ、がんばれ、と応援してくれる方もいて。

中野 たしかに緑茶はヨーロッパ人にはなじみが薄いですね。

新間 抑揚のない香り、って言われるんですよ、緑茶は。コーヒーや紅茶みたいにはっきりした香りをもっていない。わかりにくいので、味わい方がわからなかったのですね。中国茶と緑茶の違いすら向こうではよくわかってない有様でしたけど、緑茶ならではの良さを伝えたかった。

中野 でも大胆ですね。緑茶に香りはタブーっていうのを知っているからこそ踏み込めないのがふつうかと思うんですが。どうしてあえてやってみようと?

新間 ヨーロッパにはフレーバーティーがありますから、ごく自然な発想でしたが……。ベースとなる緑茶のいい香りと、ほかのいい香り、いいものどうしのミックスというのが私としては楽しみだったんですよ (笑)。

中野 フレーバーをつけるのは、香水をつくるのと同じようなものなんですか? たとえば 「さくら」 なら香水の 「さくら」 と同じ香料を使うんですか?

新間 いえ、イメージでやっています。「ふじ」 の香りのお茶もつくりましたが、藤そのものは毒性がありますから、香料は使えない。あくまで藤のイメージで作っています。安全性、緑茶との相性、そのへんのかねあいも考えて。

中野 抹茶もだしてらいらっしゃるのですね。

新間 ええ、ちょうどパリで抹茶が流行していたんです。ただ彼らは抹茶は飲めないのですね。2000年ぐらいから、健康にいいし、色もきれいだから、お料理に使いましょう、っていうことで人気が出てきています。

京都の扇子職人とのコラボレーションから生まれた 『香扇』

『芳香緑茶』

パーソナルに向かう、香水のトレンド

中野 ネーミングはやはり日本を意識したもの?「緑の葉」 とか…。

新間 しているような、していないような、そのときの心境が大きいです。ただ、簡単なものが好きなんですよ。簡単な名前のほうが、時間が経っても、受け取るそれぞれの人が、それぞれの感じ方ができると思うのです。限定するというよりも幅を広くとって、自由に解釈してもらいたいと思っています。

中野 香水の名前も、出尽くしている感がありますから、新しいのを考えるのはなかなか大変だろうと思います。そういえば、“I Hate Perfume” (私は香水が嫌い) っていうブランドの香水が出たんですよ。新宿伊勢丹に入ったんですが。新しい方向を打ち出そうとすれば、そういう名前にいくかあ、と驚いたのですが。

新間 パリの家の近くに、セクシュアリティに訴えかけるような香水を専門に扱う店ができたんですけど、香水の名前は日本なら拒絶されそうな、ぎょっとするようなネーミングばかりなんですよ。

中野 フランスの香水って官能性と密接に結びついていますよね。

新間 雑誌が掲載する香水の広告写真も、濃厚です。もう、うぶ毛まで見えるようなエロティックな肌の写真だったり。アメリカはさわやかさを売り物にしますね、その点。イギリスだとまた違って、「1850年代から変わらぬ処方」みたいな歴史性が強かったり。

中野 きりっ、かちっと、端正なんですよね。官能などございませんわ、夜は湯たんぽ抱いて寝ています、みたいなね。それから天然成分の強調。フローリスやペンハリゴン、最近のジョー・マローンとかね。そうそう、新間さんは調香の学校で講師もしていらっしゃるのですが、調香師になりたいって人は、増えているんですか?

新間 ええ、増えてます。

飛鳥新社にて

中野 いま香水を作りたいっていう人が多いのでしょうか。新宿高島屋でパーソナルフレグランスを作るサービスが始まったり、ボディショップでも自分で調香できるキットが発売されたり。どうなんでしょう、この流行は?

新間 作ることでお料理と同じようにわかってくるから、いいと思いますよ。これだけ香水の数があるから何を選んでいいかわからなくって、自分だけのものを、っていう流行は世界的にありますね。わたしもクリスマス限定でオリジナル香水を作りますっていうのをやったら、申し込みが殺到しました (笑)。

中野 オリジナルではなくても、トム・フォードのとか、シャネルの限定版とか、ほんとうに限られた数の香水も人気が高いようですし。

新間 香りの力ですよね。ミステリアスで、なにかがあることを知っているからこそ、愛好家はのめりこむ。わからない人には永遠にわからないけど好きな人はどこまでも。

中野 個の香りっていうことでいえば、伊勢丹には細胞に浸透する香水まで出てました。「イル・プロフーモ」 っていうイタリアのブランドです。細胞まで浸透するから持続性も高いし、その人自身の香りとなって立ちのぼってくるんですって。でも、細胞に香りが浸透して大丈夫なの?

新間 もともとお薬でしたからね (笑)。それにしても、新しいことがまだまだできるんですね、香水には。

中野 なんだか香水の可能性は無限に広がるという気がしてきました。今日は楽しいお話をありがとうございました。

新間美也ホームページ
http://miyashinma.jp/index.html

           
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