第13回 香水文化低迷の背景に広がる習慣の違い
Beauty
2015年3月18日

第13回 香水文化低迷の背景に広がる習慣の違い

パフューマー新間美也さんと、
“日仏フレグランス文化” の違いを考える

その3
香水文化低迷の背景に広がる、習慣の違い

香りが文化として生活にしっかり根づいているフランス人と、メディアに乗せられて一過性のブームとして香りを扱う日本人。3回目の今回は、それを踏まえて、日常の習慣の違いを考察します。

text by NAKANO KaoriPhoto by Jamandfix

新間さんの商品の 『香り箱 (桐箱入り) 』 です

耳たぶにひとしずくは、ハグ文化あってこそ!?

中野香織 フランス的な香水のつけ方ってあるじゃないですか、耳たぶに一滴とか。あれね、挨拶の習慣が違う日本では有効じゃない気がするんですよ。

新間美也さん どういうことですか?

中野 フランス人は近づいてほおに擬似キスをしたり、ハグしたりという挨拶をふつうにするから、近づくと顔まわりからふわっとフレグランスが香ることになりますよね。でも日本人はそんなに近づくことは少ない。耳にかすかにつけても誰も気づいてくれないじゃん、っていうのがある (笑)。

新間 ふとしたときに近づいたときこそ、香りの力が最大限に発揮されるんですけどね。

中野 その香りが意外な香りだと、効くんですよねえ。でも、日本人はパーソナルテリトリーが広いから、かすかにつけた香水を感じられるほど近づくチャンスが、ほとんどない。

新間 挨拶の習慣と香水のつけ方の関係。なるほど、あるかもしれませんね。

中野 それに、握手することも少ないから、よい香りのハンドクリームも欧米のような意味はもたないんですよ。握手したときに相手の手に残り香が……なんて教えられるんですけど、そもそも握手する機会がめったにないじゃないですか (笑)。

担当編集者マコトくん 恋人同士でさえ、別れるときは、「じゃ」 であっさり終わりだったりしますからね。

新間 だから逆に、異性にアピールできる距離まで届くようにと、ばしゃばしゃつけすぎちゃうのでしょうか。

中野 そうそう、せっかく高価な香水をつけてるんだから気づいてもらわないともったいない、っていう発想がつけすぎに走らせる (笑)。

飛鳥新社にて

セクハラがこわい日本、味わいつくしたいフランス

中野 それにしても、いい香りに気づいたらほめあう、というようなコミュニケーションがもっとあれば、日本人の香水の使い方も上手になっていくんじゃないかなあ。

新間 フランスではごくふつうにほめ合いますよ。「いい香りだね」 って。

中野 そういう文化ですものねえ。でも、日本でそれを言ったらセクハラになる場合があるんですよ。

新間 えっ、そうなんですか!?

中野 ええ、ある会社のセクハラマニュアルのなかにそんな項目がある、と聞いたことがあります。上司や同僚がほめていいのは、たとえば服だったら 「きれいな色ですね」 とか 「夏らしい柄ですね」 とか、色柄どまりなんですよ。「そのドレス、似合うね」 はダメなんですって。ましてや 「その香り」 だなんて (笑)。その人自身からちょっと距離がある、色柄だったらほめてもいいそうなんですけど、その人の身体そのものに言及するようなことばは、NG。

新間 ……上品で奥ゆかしい感じではありますね (笑)。

中野 ほめようという心意気こそ評価しなくてはいけないのかもしれませんね。ただね、日本人ほどファッションやヘアメイクにお金をかける国民はいないと思うんですけど……

新間 たしかに、フランス人はふだん、それほどお金はかけないですよ。

中野 なのに、どんなにお金と時間をかけても周囲があまりにも無関心、無反応っていうのはいかがなものかと。日本人って、表面にものすごくお金をかけているわりには、それが人と人との関係に反映されてないんじゃないかと思うんですよ。

担当編集者マコトくん だから、おしゃれが自己満足に終わってるんですね。

中野 自分の虚栄心は満足しても、対人関係には不安を抱えたままっていうかね。

新間 みんなほんとうにおしゃれですよね。フランスでは、まつげとか髪型とか、もっと人間対人間の、いちばん大切な部分にふれて、そこをほめあって味わいつくす……みたいなところがありますよ。

中野 味わいつくす! さすが美食の国 (笑)。

新間 フランス人はお金をかけるところが違うんですよ。ふだんの装いにはそれほどお金をかけていないんですが、シチュエーションを一緒に楽しもう! となるとそれはどんっと太っ腹に使います。

中野 人と人と関係の味わいどころを知っているからこそ、ってことでしょうか。



<日本に香水文化が根付かない理由>

中野 そんなわけで、ほめあう習慣がないから香水文化も根付かないってことがあるかと思うんですが。

新間 でも文化や歴史を勉強してわかっているという人がいれば、日本の香水文化の向上も期待できるのではないでしょうか。日本人は覚え始めるとものすごく早いですから。

中野 たしかに、おしゃれの学習能力は世界一、高そう。

新間 調香の勉強の場でもね、日本人がいちばん上手に作るんですよ。

中野 フランス人よりも?

新間 ええ、書道の模写のように、有名な香水を再現したりするんですけど、フランス人は繊細じゃないんです。どうしてここでこんな荒っぽいことを、とびっくりするくらい。

中野 へえ……。そうなんですね。でもフランス人の名誉のためにいえば (笑)、再現と、その先の創造となるとまた違うのかもしれないですね。それから、気候の違い、湿度の違いっていうのも、大きそうな気がするんですが、どうでしょう?

新間 夏の湿度の違いっていうのは、たしかに大きいですね。日本だとにおい消しとして脇などに大量につける人がいますが、あれはかえってよくない。

中野 満員電車の中では、「香害」 になるんですよね。じゃあ、どうすればいいんですか?

新間 鼻から遠いところにつければいいんですよ。相手の鼻から遠いところに一吹きで、じゅうぶん。ハンカチでもいいし、ボディーローションでもやわらかく香る。構えないで、もっと自由に考えて、日常的にいろいろな楽しみ方をすればいいんですよ。

中野 生活を味わいつくす心構えで (笑)。

最終回「香りの雑貨、香水のトレンドの現在とこれから」に続く

新間美也ホームページ
http://miyashinma.jp/index.html

           
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