第12回 日本とフランスにおける香水の意味
Beauty
2015年3月18日

第12回 日本とフランスにおける香水の意味

パフューマー新間美也さんと、
“日仏フレグランス文化” の違いを考える

その2
日本とフランス、
それぞれの文化における香水の意味

日本とフランスのフレグランス文化の違いを調香師の新間美也さんと考える第2回。前回は新間さんのプロフィールをお聞きしましたが、今回はフランス人と日本人の国民性の違いからアプローチを試みます。

text by NAKANO KaoriPhoto by Jamandfix

新間さんが書かれた 『恋は香りから始まる』 と、おみやげにいただいた、新間さん調香の <さくら> の香りのハンドクリーム

どこにもないアリュールを求めるフランス、
横並びのフェロモン好き日本

中野香織 パフューマーの立ち位置が違えば、香水文化が違ってくるのも当然ですが、では新間さんの目には、日本の香水をめぐるカルチュアはどのように映りますか?

新間美也さん 日本で出ている香水カタログを妹に送ってもらったりしているんですけど。
う~ん、1年後2年後にはぜったいなくなっているなと思うものが並んでますね (笑)。日本独特のカルチュアだとは思うんですけど、ベースがないなあ、香水文化がないなあ、ということは強く感じます。

中野 おすすめは何ですか、って日本のジャーナリストは必ず聞きませんか?(笑)

新間 ええ。でも、カタログからは選びようがない。そういう聞き方じたいが日本独特というか。つける人自身に似合ってなくては意味がないのに、漠然と不特定多数向けに 「おすすめ」 と言われても……。

中野 「もてる」 とか、「愛される」 とかの分類も、日本的発想の延長上にありますね。

新間 フェロモン入り香水なんていうのも、聞いたことがなかった (笑)。フランス人はフェロモンって何かってことが、わかってますよね。そういう文化があるからこそ香水を使いこなせるのですが。

中野 ええっと、何なのか、教えてください、フランス人がよく知っているフェロモンのこと (笑)。

新間 フェロモンっていうことばも使わないんですけど。アリュール (allure)、ですね。その人独特の雰囲気とか魅力。フランス人は、異性をひきつける自分の魅せ方を心得ているんです。香りも、その魅力をつくる要素のひとつというふうにごく自然にとらえています。だからこそ、自分を引き立てる香りを選び抜いて、使いこなす。

中野 そういうことをどうやって学んでいくんでしょうか?

新間 フランス人は小さい頃から五感の教育をちゃんとしているんです。五感のなかでも嗅覚が、生活のなかで重大だということをわかっている。香りはミステリアスだったり実用的だったりしながら、人生の大きな部分を左右するっていうことを。

中野 日本では目と耳から入る感じでしょうか。雑誌の特集で見たとか、セレブが愛用と聞いて、香水を選ぶ。基準が自分ではなくて、外にある。あとはおまじないとして買う傾向も強いようですね。「結婚できる香水」 (笑) があると聞けばみんなそれにとびつく、とか。だから20代の女の子がこぞって 「ベビードール」 をぷんぷんさせていたりっていう珍現象が見られます。

新間 みんなと同じものにとびつくってこと、フランスではありえませんね。とにかく 「自分だけの」 ということを大切にしますから、「どこにもないもの」 を探します。誰かと同じものだとしても、必ず理由があります。結婚できるからっていう理由は、さすがに聞いたことありませんが (笑)。

中野 メディアというか売る側が、買わせる理由を一生懸命考えた成果でしょうか。

新間 日本人は素直っていうか従順なんですね。メディアの言うことに素直に従う。

中野 アイロニーをもって見ないんです。そっくりそのまま、まっすぐ受け取る消費者が、ほんとうに多いと思う。

新間 素直なのは人としての魅力でもあるのですが、自己主張をしなさすぎなのは、パリだと魅力を磨く努力を放棄してると解釈されますね。

中野 強く自己主張すると、いじめられるんですよ、日本では。

担当編集者マコトくん だから 「ちょいワル」 なんです。大ワルじゃなくて (笑)。

新間 日本のお香の楽しみ方にしても、空間をみんなで一緒に楽しみましょう、というスタイルですものね。「自分が香るぞ」 という自己主張型ではなくて。

飛鳥新社にて

香りの不一致には要注意

中野 フランスの男性はどうですか? 香水との付き合い方は。

新間 歯磨きと同じような感覚で香水を使いますよ。

中野 歯磨きと同じ!

新間 身だしなみとして、シャワーのあとには必ず。9割の人は使っています。そのくらいふつうに使うもので、あとは好みが強いですね。誰になんと言われようと、自分が好きだからこれ、というものをもっている。

中野 オレ様のにおいはこれ (笑)。そこまでいけば、香りはその人のパーソナリティそのものになりますね。

新間 ええ、フランスではそもそも、香水ってそういうものなんです。その人の香りでその人の性格なりが感じられてくるもの。香りと人がまざりあって、ひとつの人格ができあがってくるような。

中野 じゃあ、香水を贈るなんてことは、たいへんな冒険になりますね。その人のことをよくわかっていないと、とても選べない。

新間 ええ、親しい間柄で香水を贈りあうことはポピュラーなんですけど、それが別れの原因になることだってあります。

中野 ええっ!?



新間 お友達の話なんですが。男性が恋人にある香水を贈ったんですけど、それがふだん彼女が使っていたものとは違うものだったんですね。それが女性を怒らせちゃったんです。「私のことを何にもわかっちゃいなかったのね。別れるわ」 って。

中野 別れの原因が 「香水の不一致」

新間 私が好きなら私の香りも覚えて一緒に好きになってよね、ということです。

中野 そういう、人と一体になった香りって、別れたとたんに大嫌いな香りになるってことないですか?

新間 (笑)なのにどこかで残り香に出会ったら、ふっと思い出したりしてね。そうそう、香りの贈り物で素敵な思い出があります。贈り物に、ふわっと贈り主愛用の香りがつけられていたんですよね。その人の存在も一緒に届いたようで、うれしかったな。

中野 そんなふうに存在感を香りで伝えるのは、上級者ならではの高等テクニックですね。先日、ある男性誌の香水アンケートの結果を見る機会があったんですけど、そのなかに、女性からのすごい回答がありましたよ。「彼が帰るとき、オレがいなくてもさびしくないようにと部屋中に香水をふりまいていった。窓を開けてもなかなかニオイがとれなくてしばらく迷惑した」 って (笑)。パーソナリティに直結するものだからこそ、いやな香りと思わせてしまうと、その人自身まで嫌われることになるんだな、と。

新間 濃度も重要ですよ。その男性、たっぷり残していったんでしょうね。ジャスミンもそうなんですが、強すぎると、人が発するいやなにおいと同じになったりすることがあります。どんな香りも、濃さに気をつけて上手に使うことが大切。

中野 どんなパーソナリティも濃すぎると鼻につくのと同じですかね(笑)。

profile
新間美也(しんまみや)
調香師

1997年、調香師を志してフランスに渡り、Cinquieme Sens (サンキエームサンス) にてMonique Shelienger (モニック・シュランジェ) 氏に師事。
2000年にパリのデパート “ル・ボン・マルシェ” に作品が紹介されて以来、パリを活動の拠点にして、日本の美、自然、アムールをテーマにした香りの創作活動を続けている。
日本での活動は、香りの講座や香りのイベント開催など。
2003年、母校である香水学校の日本校、サンキエームサンス・ジャポンを設立して、香りの基礎からオリジナル香水のつくり方、食の香りまで、さまざまな講座を開催している。
(ホームページより抜粋)

新間美也ホームページ
http://miyashinma.jp/index.html

           
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