フェラーリの聖地、マラネッロを行く Vol.1|Ferrari
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2015年3月5日

フェラーリの聖地、マラネッロを行く Vol.1|Ferrari

Ferrari|フェラーリ

フェラーリの聖地、マラネッロを行く Vol.1

「ロメオとジュリエット」が働く、フェラーリのファクトリー

1947年、創設者エンツォ・フェラーリによって誕生した世界屈指の自動車メーカー「フェラーリ」。跳ね馬のシンボル“プランシング・ホース”とともに多くの名車を生み出し、数々の伝説とともにその歴史を刻んできた。人々はなぜいつの時代もフェラーリに魅了され続けるのだろうか。今回OPENERSは、イタリア・マラネッロにあるフェラーリ本社に潜入。全6回に分けてその全貌を明らかにする。

Text by Akio Lorenzo OYAPhotographs by Fabrizio Gremo

エンツォとおなじ正門をくぐって

モデナから南に約22キロ、筆者がフェラーリのマラネッロ本社ファクトリーを訪ねるたびにおもうのは、「このファクトリーはイタリアの歴史的旧市街に似ている」ということだ。歴史的旧市街の多くは、ルネッサンスやバロックなど、さまざまな時代の建築物が立ち並ぶ。だが、それらを囲んでいるのは、より古い中世の城壁である。

フェラーリS.p.A.(フェラーリ株式会社)もしかりだ。1997年以降建設が推進されてきたモダーンなファクトリー棟や研究棟も含め、さまざまな建築物が立ちならび、約3千人の従業員が働いている。

しかし会社の顔である正門はといえば、創業者エンツォや名エンジニア、ジョアッキーノ・コロンボたちの時代とおなじ姿で、今日も訪ねる者を迎える。

イタリア、モデナ県マラネッロに本社を置くフェラーリ。こちらはファクトリー側の正門からみた本社全景

本社のすぐ脇にあるフェラーリのテストコースがフィオラーノサーキット

ちなみに、フェラーリは、2012年から13年と2年連続で、英国「ブランド・ファイナンス」によって「世界でもっともパワフルなブランド」に選ばれた。それだけグローバルな認知度を得ながらもなお、昔ながらの門構えを維持しているのは、痛快でもある。

今回は、そのファクトリー・ツアーの一部を、読者諸兄にも体験していただこう。

参考までに今日でもフェラーリ本社の見学は、原則として各国の正規ディーラーを通じて車両を購入した顧客か、モータースポーツなどのスポンサー企業に限られている。

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フェラーリの聖地、マラネッロを行く Vol.1

「ロメオとジュリエット」が働く、フェラーリのファクトリー (2)

“ミュージアム”を見ながら組み立てるエンジン

まずは、エンジン組み立て棟だ。整然としたファクトリー内では、フェラーリの8気筒&12気筒にくわえ、マセラティのV6エンジンも組み立てられている。なお、その前段階であるブロックの鋳造も、フェラーリはイタリアの自動車工場では唯一敷地内にファクトリーを持っていて、そこでおこなわれている。

ファクトリー内では15年前から自動化がさまざまな工程で進められてきた。そのなかで、バルブシートを組み立て、液体窒素を用いながらヘッドに装着する工程では、2基の産業用ロボットが見事な連携で作業をしている。

ファクトリー内には、至るところに本物の植物が植えられており、騒々しく無機質な館内というイメージはない

エンジン組み立て棟内に2基並べられた産業ロボット。その愛称は「ロメオとジュリエット」

このファクトリーでは仲睦まじく働く彼らを「ロメオとジュリエット」と呼んでいる。産業用ロボットにニックネームをつけるのは珍しいことではないが、なんとも洒落ているではないか。

日本でいうQC(品質管理)サークルに値するプログラムも実践されている。ただし、そこも普通のメーカーとちがうセンスが光る。「ポールポジション」と名付けられ、各チームには「シュマッハー」「バリケッロ」といったように、フェラーリゆかりのパイロット名がつけられている。F1ファンが多いイタリア人従業員にとって、これなら自ずとモティベーションが向上するだろう。

エンジン組み立て棟の一角で。従業員のプライドと責任感を高揚すべく並べられた歴代のV8、V12エンジン

組み立て作業を待つV8エンジンのブロックの数々

ふと一角を見ると、エンジンの組立工場にもかかわらず、歴代フェラーリの実車やおなじく歴代エンジンが、さながらミュージアムのごとく展示されている。「ファクトリー従業員がいつも最終製品を眺めることによって、責任、そしてプライドを実感できるように」というポリシーからなのだそうだ。

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フェラーリの聖地、マラネッロを行く Vol.1

「ロメオとジュリエット」が働く、フェラーリのファクトリー (3)

“劇場”と見まごうかのような

次にアッセンブリーライン(艤装工程)を見学する。モデナにある系列のカロッツェリア「スカリエッティ」で造られたボディは、ここマラネッロに運ばれたあと、ファクトリー内で塗装がおこなわれる。

組み立ては、8気筒モデルが1階、12気筒モデルが3階で作業が進められる。手作業も、きちんと残っている。その代表が12気筒の艤装工程の一角に設けられた内装の製作工程である。75パーセントが手作業だ。また、そこで働くスタッフの40パーセントは女性である。「繊細な作業は、女性に得意な人が多い」という認識からだ。

無数の糸とテキスタイルレザーの束、そしてミシン。マラネッロ・レッドのユニフォームのスタッフがいなければ、まるでサルトリア(仕立て屋)に紛れ込んだようである。

塗装を終え別棟から運ばれてきたボディ。リフトで吊られ、艤装作業が進められていく

V12モデルのアッセンブリーライン

温度・湿度もファクトリー従業員に最適なレベルに管理されているほか、本物の植物が各所に配置され、さながら植物園のような雰囲気を醸し出しているのも、マラネッロの特徴のひとつだが、もうひとつ特筆すべきは静粛性だ。艤装工程で聞こえるのはモーターの静かな唸り音のみといってよい。広報担当者によれば、ファクトリー内の音は75デシベル以下にとどまるように設計されているという。

工場にありがちな搬送車のアラームのメロディなど聞こえてこない。街頭でも店内でもスピーカーから無用なBGMが昼夜を問わずひたすら流れている日本と、たまに教会の鐘の音だけが響くイタリア。音と静かな環境に対するリスペクトが現れている。

イタリアでは求人誌に「フェラーリがファクトリー従業員を募集」といった見出しが出ると希望者が殺到する。彼らの多くは「あのフェラーリで働けるかもしれない」という希望であろうが、この素晴らしい職場環境を知っているエントラントがいることもたしかだろう。

イタリア流にいうと、ボディとのマトリモニオ(イタリア語で結婚)を待つパワートレイン

インテリア用テキスタイル素材の縫製は、アッセンブリーラインのすぐそばでおこなわれている

あまりに一般的な自動車工場とちがう風景

入社して間もない女性広報スタッフが、筆者にこう打ち明けた。「最初このファクトリーを見たとき、フェイクかと思ったわ」。“本物”とは別に作った、ツアー用のアトラクションだと思った、というわけだ。

かくも劇場のような美しいファクトリーで、美しいフェラーリは造られているのである。

「フェラーリの聖地、マラネッロを行く Vol.2」へつづく

           
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