鏡リュウジ×中野香織 2008 SPECIAL対談(3)
Beauty
2015年3月18日

鏡リュウジ×中野香織 2008 SPECIAL対談(3)

鏡リュウジ×中野香織 2008 SPECIAL対談(3・全4回)
「コンピュータが及ばない領域」

文=中野香織Photo by Jamandfix

タロットカードの楽しみ方

中野 鏡さんがお書きになった「ソウルフル タロット」は、カードもついている豪華版。10歳のころタロットにめぐりあったのがこの世界へのきっかけとおっしゃっていましたが、タロットのどういうところにのめりこまれたのでしょう?

 タロットは占い用のカードだと一般に思われているんですが、もとは完全にゲーム用というかギャンブル用だったんです。

中野 そうなんですか!?

 トランプの原型になるカードが14世紀にイスラム世界からヨーロッパに入ってきて、それがトランプとタロットに分かれて進化してきたのです。15世紀のミラノでトランプに絵札を加えるということを発明した人がいて、それがタロットの原型になりました。

中野 古い歴史をもつんですね。カードは全部で何枚あるんですか?

鏡リュウジ×中野香織 2008 SPECIAL対談(3・全4回)<br><br>「コンピュータが及ばない領域」

鏡リュウジさん

 スタンダードになっているのは、78枚です。当時いろんな抽象概念、正義とか節制とかですね、それを絵にするのが大はやりだったんですよ。

中野 字が読めない人にも見てわかるように?

 いえいえ、使っているのは貴族なので。アトリビュート(attribute)などをつけて、一種の教養遊びをしたわけです。

中野 アトリビュートって、美術でいえば、ゼウスなら雷、エロスなら弓と矢とかの、神々の固有の持ち物ですが、タロットにもあるんですか?

 「正義」ならてんびんと剣をもつとか。イマジネーションをどうふくらませていくかのゲームですよね。ナポレオン遠征のころにパリを中心にエジプトブームが起こり、タロットにもエジプト起源説が与えられ、一気にカード化していきます。19世紀になって、イギリスとフランスのオカルティストたちが、占いとしてのタロットを作りあげていったのです。

中野 実は私も気がつけばついオンラインでタロット占いをしてしまっていたりするんですが(笑)。2枚を選んでなにかを告げられるじゃないですか。いいことにせよ、悪いことにせよ、なにかを告げられて満足っていう感覚は何なんでしょうね?(笑)

 外からの流れと、自分自身の人生とつながる……と実感できるからじゃないですか。イマジネーションで意味が生まれるタロットは、外と自分の内側をつなげる装置、ツールと思えばいいのです。

占い脳とはなにか?

中野 現実で合理的に説明してしまえるものだけじゃ埒(らち)があかない、すっと心に入ってくるイミがほしい……っていう人間の普遍的な需要を、タロットを考案した人たちは知っていたのでしょうか?

 その感覚をぼくは「占い脳」と呼ぶんですが。

中野 占い脳!(註:対談が終わって、さっそく鏡さんのご著書「『占い脳』でかしこく生きる」(河出書房新社)を買いに行き、読みました。占いの考え方、占いとの正しい付き合い方がわかりやすく書かれています)

 人間の思考法、脳の働きの相当深いところにインストールされていると思っています。中沢新一さんは「流動的知性」と呼んでいますが。なにかとなにかを類似によってくっつける、比喩の能力でもあります。

中野 文学でいう、アナロジー(analogy)ですね。棒を折って、右側が長かったら右へ行こう、と占ったりするのも、それですか?

 右が長ければ右、左が長ければ左、とみなすのは一対一対応ですよね。コンピュータでもできる。そうじゃなくて、たとえば亀の甲羅が犬のように見えて、犬は忠実な感じだから忠実さが大事、というような考え方です。「~のように」という考え方は、コンピュータの二進法にはできないことです。

中野 「~のように」の見立て、アナロジーは人間にしかできないこと。コンピュータが及ばない領域っていう意味で、占いって最後に残された人間的領域なんでしょうか?

 壮大な関係妄想だと思うんですが(笑)。壮大な関係妄想を作り上げる知性は相当、人間的で、それは脳の深いところにインストールされていると思っています。

鏡リュウジ×中野香織 2008 SPECIAL対談(3・全4回)<br><br>「コンピュータが及ばない領域」

中野 おなじ亀の甲羅を見ても、解釈する人によって意味が違ってきますよね。犬を食べる文化の人だったら、亀の甲羅が犬のように見えるからごちそうにめぐりあえる、と読むかもしれない。

 まったく恣意的か、文化によってちがうのかというと、完全にそうでもないんです。色とか音とか火とか土などには、人類共通の連想パターンがあります。ユングはこれをアーキタイプ(archetype)と呼んでいます。

中野 原型、という意味の。

 そういう人類が共有する連想関係のネットワークと、占いの思考法はつながっている気がしているんですよね。

無意識と占星術の結びつき

中野 ユングって無意識の底にはさらに集合的無意識がある、ってことを言った人ですよね。「外とつながる自分の内側」って無意識のことでもあるんですか。

 ユング以前の占いは「過去生」と結びついていて、過去生からの霊魂のカルマを読み解くなんていうエソテリック・アストロジー(esotheric astrogy、秘教的占星術)になっちゃたこともあったんですが。

中野 過去生なんてもちだされると、あやしいですよね。

 たしかに(笑)。そこからオカルト的要素を捨てて、ユングの無意識とむすびつくのが、20世紀はじめのことです。過去生が、という代わりに、無意識が、となる。

中野 無意識といわれるといくらかは納得できる気がする。

 無意識を知ることは苦しいし、目をそむけたくなる。そんな無意識に関する心理学的用語を、伝統的な星のイメージとくっつけていったのです。

中野 というと?

 たとえば土星がもっている「制限」「死」というイメージは、ユングでいう「シャドウ」と結び付けられます。自分が見たくないもの、ですね。でもほかならぬそのシャドウは、向き合えば、ものすごく力を与えてくれるものになる、と。

中野 まさに解釈ゲーム。知的なこじつけですね。

 でも今はそんな心の時代はピークを通り越したと見ています。現在では再び、伝統的占星術に回帰しようという動きがあります。17世紀の終わりに一度立ち消えていた、やや宿命論的な占星術なんですが、当時の細かいルールをちゃんと読んでそのまま復活させようという動きが出てきています。

中野 占星術の方法も時代に応じて変わるのですね。逆に占星術にくっついている考え方から、その時代に流行した主流の考え方の輪郭も見えてくる。ただ当たる当たらないという視点だけで見ていてはもったいない。こんなに知的なものだったとは!

鏡リュウジさんから新春プレゼント!への応募は 2008年2月15日(金)で締め切りました。
鏡リュウジさん著・監修の『ソウルフル タロット』(説話社)のサインプレゼント当選は、発送をもってかえさせていただきます。
多くのご応募ありがとうございました。(オウプナーズ編集部)

撮影協力|株式会社サイバード

鏡リュウジ公式サイト|http://www.ryuji.tv/

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