第10回 「オトコ香る。」プロジェクトに迫る(3)
Beauty
2015年3月18日

第10回 「オトコ香る。」プロジェクトに迫る(3)

大ヒット“香り”ガム
「オトコ香る。」プロジェクト その秘密に迫る-3

text by NAKANO Kaoriphoto by TATSUNO Rin

希望小売価格150円(税込158円)

店頭インパクト勝負の「都会型」ガム

中野香織 その「いいコ」が店頭に並んだあとのお話を、次はお聞かせいただきたいのですが。

西 絵里香さん はい。ふつう、ガムは一週間に同じ店で10個売れればいいんですよ。10個売れれば、ずいぶん売れる方だと思います。

中野 1週間に10個……。すごく少ないような気もしますが、そんなものなんですか。

西 ガムは嗜好品ですからね。飲料のように、せっぱつまって買うということがない(笑)。ところがね、初代「オトコ香る。」は40個以上売れた、という店もあったんです。想定シミュレーションをはるかに超えていたので、てんやわんやでした。

中野 宣伝はどのように?

西 それが、ほとんど宣伝費を使わずに。インターネットや朝のテレビで話題が広まったことが大きかったようです。それに、ガムってCMの効果を受けにくいんですよ。店頭でのインパクトがものをいうんです。購入者の70%は店頭で決めるっていう統計もあります。

中野 たしかに、お店で並んでる中から、見た目やなんかでコレって決めることが多い気がします。で、出たばかりの新バージョンの「オトコ香る。」の売れ行きは?

カネボウフーズ 西 絵里香さん

西 好調ですね。発売した次の日に、20フェース(棚に1箱並んだ状態が、1フェース。つまりガムの棚に同じものが20箱並んでしまうと20フェース)並べて、特別のポップアップをつくってくれる店もありました。

中野 10億は軽く超える勢いですか。

西 まだ地区限定、首都圏だけで販売しているんですよ。首都圏だけでこれだけの売れ行きですから、販売地域を拡大すれば、20億もありえます。

中野 都会型ガム(笑)。それも「売り」になっているのでしょうか……。

商品開発者にとっての「ボーナス」とは

中野 これだけの成功をなしとげた功労者のSWATには、会社から特別なボーナスは出たんですか?

西 いえ、特別なボーナスなんて何も(笑)。SWATは任務が終わって解散しましたし。ただ、開発者としては、商品が育っていくのを見るのが何よりもうれしいボーナスなんですよ。

中野 商品が育つって?

西 売り場に並んでいてくれる……ってことです。売り場に行って、ちゃんとあれば、「いた、いた」ってほんとうにうれしくなる(笑)。

中野 あ、それ、わかります。自分の本が本屋にちゃんとあったら、「いた、いた」ってほっとする(笑)。本は売れないとすぐ書棚からなくなってしまいますけど、ガムの場合、廃番になる基準ってあるんですか?

西 お店の定番からなくなったら、廃番になる道は避けられませんね。週販(1週間あたりの販売数)が何個以下でカット、という基準が、店ごとにあるんです。ガムの場合は7個のケースが多いですね。

中野 1週間に7個売れなければ、店からなくなる……。シビアですね。

西 飲料の場合は、30本以上売らなくてはならないという、もっと厳しい競争になります。

中野 あれだけ新製品がひしめくなかで、30本。そりゃあ大変……。

西 けっこういろんなお店をこまめにチェックしにいくんですけど、この前、リアル購入者に出会ったんですよ。

中野 ドキドキしますよね。

西 ええ。30代くらいの、ごくふつうの男性でした。「オトコ香る。」だけをさっとレジまでもっていて、お金を払ったら、その場で紙をむいて、かみながら店を出て行ったんですよね。ふわっといい香りを漂わせながら。出会えてよかった~と、うれしかったなあ、すごく(笑)。

中野 このガムは包み紙をあけた瞬間にもけっこう強く香りが放たれますしね。レジ回りも、バラの残り香(笑)。

ヒットの要因

中野 ヒットの要因は、何だったと思われますか?

西 やはり時代をうまく拾えたこと、でしょうか。においに対して敏感な人が増えているっていう時代を読み取って、消臭プラス積極的な香らせ機能をもつ商品で応えたこと。手軽な食品でそれを表現できたことが、大きいと思っています。

中野 ターゲットは定めてましたか?

西 30代から40代の男性ですね。お客様相談室にお問い合わせをくださったのが40代の男性で、加齢臭を気になさる方が多かったんですよ。加齢臭が気になる世代から、下の積極的に香らせたいというおしゃれな30代にアピールして、そしてもっと若い世代の人にも広まっている感じです。

中野 西さんが出会ったリアル購入者、どんぴしゃだったんですね。ターゲット想定外の女性がかんでも、もちろん十分おいしいし。キャンディタイプは考えてないんですか?

西 男性は女性に比べて「お菓子を食べる」という習慣があまりないので……。男性の喫食(きっしょく)のシーンを想像したときに、やはりリフレッシュするためのガムはありえますが、キャンディは難しいかな。

担当編集者マコトくん フリスクバージョンがあればいいのに、と思いますよ。ミーティング中にガムをかんでると無礼な感じですけど、フリスク型だったら、人に会う前とか会議の最中にでも、さっとすぐに食べられるので。

中野 商談なんかでまずいな~という展開になったときに緊張して汗ばんでくると、バラの香りが漂い始める(笑)。雰囲気もなごやかになって、いい展開になっていったりしてね。

西 食べ物でそこまでの効用があれば、開発者冥利につきるでしょうね。考えときます(笑)。

中野 今日は興味深いお話をありがとうございました。

(了)
           
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