小林ひろ美さんに習う_3
前回、香水の正しいつけ方を教えていただいて、こういうハウツーこそ(もちろん商品情報も必要ですが)正しくインフォメーションされるべきだと思いました。特に私たち男性の場合は、誤解とか錯覚に陥りやすい生き物ですから、映画のワンシーンとか小説のなかのワンフレーズを自分なりに解釈してしまいます。女性には当たり前のことを、我々ももっと知るべきですね(吉田十紀人)
香りが嫌いになる理由(わけ)
吉田:鼻が麻痺するというと、かつては百貨店のエレベーターなどで、5メートルも先からプンプンと匂ってくるご婦人がたくさんいましたね。
小林:同じ香りばかり使ってると、自分の鼻は“もっと、もっと”と匂いを強めるように要求してくるんです。そうすると服にも匂いが染み込んで煮出したような匂いになったり、つけたてのフレッシュさが感じられなくなります。ですから、本当は好みの香りをいくつか使い分けることも大切なんですよ。
吉田:なるほど、そうすれば鼻も麻痺しないわけですね。
小林:そうですね。自分は良くても、相手が鼻をつまむようでは、香りの礼儀に反します。私はよく「香水はおしゃれの基本(ベース)です」と言ったり、書いたりしています。
吉田:ベースのルールはありますか?
小林:一番の基本は、香水をつけてから20分間は人と会わないことですね。
吉田:なぜ20分?
小林:つけた直後の20分間は“トップノート”といって、アルコール臭が一番鼻を突いて、香水の様々な匂いがひしめき合う時間です。調香師が本来の香りを表現するのは、その20分を過ぎて2時間ぐらいの間の“ミドルノート”なんですね。その時間帯の香りにさせたいために、ミドルを安定させるためにトップを作っているんです。
吉田:2時間を過ぎたら?
小林:あとは“ラストノート”といって、徐々に良いバランスが欠けてくる、いわゆる残り香ですね。
吉田:ということは、たとえばデートの直前にパウダールームでシュッ!というのは間違っているんですね(笑)。
小林:そうですね(笑)。外出するときは、下着を付けているときがいいですね。そうして服を着て支度して出かけると、アルコールがちょうど飛んでいる感じです。出かける前に玄関でシュッ!とすると、駅や電車内で臭いですね。
吉田:他に手軽なつけ方ってありますか?
小林:スプレー式でしたら、上に向けてシューッとアーチ状に吹いて、その下をくぐるというのも簡単ですよ。
小林さんからおすすめの香水を……
吉田:小林さんは今日はなにを使われているんでしょう。
小林:私は今日は「ロクシタン」のアロマコロジー効果を使ったシャンプーです。今女性に大人気のシャンプーで、3つのハーブの香りが一日中香るんですよ。夜出かけるときは、ディオールの「DUNE」とか、ジェニファー・ロペスの「JLO」とかを使います。自宅には好きな香水が何百本とありますね。
吉田:男は基本的に面倒くさがりやなので、たとえばシャンプーに自分の好きなエッセンスを加えるとかどうですか?
小林:それはできますね。たとえばヘアクリームに香りのエッセンスを加えて毛先に使えば、髪に良くて、匂いも持続して、一石二鳥ですね。それを携帯するのもいいと思いますよ。
吉田:こうやってお話ししていて思うのは、香りを言葉で表すというのは本当に難しいですね。
小林:ですから、吉田さんがおっしゃるように、スーツの時につける香りとか、時間軸やシチュエーションで選ぶ香りなど、ライフスタイルの中のポイントにフォーカスした香りって可能性があると思いますけど。
吉田:日本はそもそもドレスコードが非常に希薄で、私は日本には服文化はないと思っているんです。男のくせに洋服なんて……と言われた時代が長くあって、服を装う意味とか、おしゃれが社会的に貢献するという部分がすっぽり空洞化しているわけです。だから男の香りも華美なものという固定概念から抜けきれずにいるんですね。
小林:それは女性でもそうですよ。ちょっと香水のことを話すと、すごく知っているように思われますから。
吉田:男性の場合は、自分を上げるためにはこれがいいとか、ちょっと情緒的な蘊蓄が入ったアピールがいいんです。ですから、最終的には自分で自分オリジナルの香りをつくる、たとえば店に行くと調香師が香りをブレンドしてくれるというパーソナル・カスタムが理想なんですが……。
小林:そういうサービスはできると思いますよ。吉田さんにお似合いになる香りをずっと考えていたんですけど、イギリスの老舗ブランドの「ジョー・マローン」にすごく良い香りがあります。
吉田:どんな香りなんですか?
小林:香り自体は重くないのに奥行きを感じて、個性派だけど正統的。香りが好きなおしゃれな男性にぜひおすすめします。