小林ひろ美さんに習う_4
ここまで話を伺っていると、様々な香りのイメージが浮かんでは消え、消えては浮かんできます。ただ言葉で「こんな香り」というのはとても難しい。まだまだ具体的な花の名前とか、動物系のエッセンスを連想するまでは到底及びません。しかし、小林さんの「なにも知らないのを逆に活かして、どんどんご自分の発想で想像されてみては」というアドバイス、ありがとうございました(吉田十紀人)
ブランドと、人と、香りの関係
吉田:この企画は、今回の小林さんとのお話をスタートとして、最終的には自分のブランドの香りを持ちたいというのが希望なんです。
小林:いわゆるシグネチャー商品ですね。
吉田:ファッションブランドの香りについてはどう思われていますか?
小林:ブランドの香りは、そのブランドのコンセプトやイメージと直結するものです。アヴァンギャルドな服をつくっているブランドは香りも先鋭的ですし、フローラルだったり、ユニセックス的だったり、表される個性は様々です。香りは本当にヒストリーで、「どうしてこの匂いが好きなんだろう」というのには必ず理由があるんですね。愛煙家の女性はタバック系の香りを気に入ったり、子供の頃に好きで食べていた果物の匂いに惹かれたり。
吉田:私のつくる服は、アヴァンギャルドではなくリアルクローズといわれる世界観の中のものです。スーツを基にしたスタイル提案も大切ですから、容器のデザインなどもこだわりたいところです。フッと思ったのは、江戸切り子の瓶なんかいいですね。
小林:それステキかも。香りでいえば、ご自分の体験の中からいちばん特上な部分をイメージして、それを表現するエッセンスを刻印として1滴だけ入れるというのでも、立派なシグネチャーになりますよ。
吉田:でも、それは育ちが出たり(笑)、自分の生業がわかってしまう。怖いですね。
小林:人は本当に育った環境とか幼児体験で、好き嫌いの香りが変わってきます。
吉田:恋愛などもそうですね。
小林:はい、香りはメモリーですからね。
さて、次のステップへ……
吉田:香りをつくるためのアプローチはどう考えていけばいいでしょう?
小林:そうですね。まず最初はフローラル系ですね。お花から抽出するシングルフローラル系は、シンプルないい香りですが面白味がありません。それとお花の匂いだけだと飛びやすいんですね。それで、フローラルブーケというのがあって、それは花束を持っているみたいにいろんな花の香りが楽しめます。そこに、合成のものを入れていきます。オリエンタル系なら麝香(じゃこう)、ムスク、アンバー、バニラ、ナツメグなどを加えていくと、香りが立って奥行きと個性が出てきます。また、アルデハイリックというのがあって、合成香料なんですが、お粉(こな)の匂いで、和服に合うイメージです。
吉田:エッセンスの名前は聞いたことがありますね。
小林:「グランパルファム」と言われる名作香水は、シプレ系が多くて、それはフローラルブーケにギリシャのキプロス島で採れる月桂樹とかオークモスの香りを加えたもの。甘くなくピリッとして、屋久島で深呼吸しているように苔むした針葉樹の深い香りがします。
吉田:なるほど。
小林:一方、グリーンフローラル系は、素手で草をむしってすぐ嗅いだような爽やかな若葉のようで、薄い緑の芝生の上を走っているイメージです。
吉田:いや、すごいですね、表現が。
小林:本当に、香水は液体の宝石ですから、ルールを守れば、精神的にとても贅沢になれますね。
吉田:香りの選び方は、服のチョイス、着こなしにとても似ています。
小林:ですからルールが大切なんです。
吉田:私のこんなつたない知識で香りづくりに挑んで大丈夫でしょうか?
小林:それは大丈夫ですよ、いろいろ知らない方がきっと吉田さんのイメージ通りつくれると思います。次に私からご紹介するのは吉岡さんといって、香水が大好きで、ご自身で香水を輸入されています。たしか日本フレグランス協会の理事をされていると思うので、今の香水の市場の話やトレンドなど、データに裏付けられたお話を聞けると思います。
吉田:今日はありがとうございました。