ラ フェラーリを誕生させるまでの日々|Ferrari
Ferrari LaFerrari|フェラーリ ラ フェラーリ
ラ フェラーリを誕生させるまでの日々
F1譲りのテクノロジーを数多く採用した「ラ フェラーリ」の開発プロジェクト。フェラーリのエンジニアリングチームは、いかにしてハイブリッドシステムをロードモデルへと移植させたのか。フェラーリ社のアメデオ・フェリーザCEOに、山崎元裕氏がインタビュー取材をおこなった。
Text by YAMAZAKI Motohiro
1kgの重量増を、1psの出力増で相殺する
フェラーリにとって、約10年ぶりのスペチアーレ、すなわちVIPカスタマーのために限定生産されることを前提とした、特別なロードモデル「ラ フェラーリ」は、今年3月に開催されたジュネーブショーでワールドプレミアされた。
4月には、フェラーリの輸出市場として、年々その存在感を強める中国で開催されたオート上海で、また5月末には東京でジャパンプレミアのイベントも催されている。ちなみにラ フェラーリの生産台数は499台と発表されているが、フェラーリによればジュネーブショーの段階で、そのすべてにはカスタマーが決定済み。これはかつて誕生したスペチアーレの時と同様の事情である。
今回、ジュネーブショーの会場で、短い時間ではあるが、フェラーリ社CEOのアメデオ・フェリーザ氏にインタビューする機会を得た。かつては12気筒モデルのエンジニアリングチームを率いるなど、いわゆる技術者としてのキャリアを積み重ねてきた氏は、もちろんラ フェラーリの開発プロジェクトにおいても、それを直接指揮する立場にあったことは言うまでもない。
──ハイブリッドの実験車が初公開されてから2年、ついにラ フェラーりが誕生しましたね
「2010年のジュネーブショーで、我々は当時の12気筒2シーター、599GTBフィオラノをベースとしたハイブリッドの実験車、『ヴェットゥーラ・ラボラトリオ・HY-KERS』を初公開しました。ここからラ フェラーリを誕生させるまでの日々は、我々にとっては本当にチャレンジングなものでした。
もっも大きな挑戦だったのは、フェラーリの伝統であるパフォーマンスと、市場から要求される環境性能をいかに高い次元で両立させるのか。
それを評価するひとつの基準として、我々はまずハイブリット化による1kgの重量増を、1psの出力増で相殺することを考えました。この目標値が達成できないのであれば、HY-KERSを採用する意味はないということですね」
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ラ フェラーリを誕生させるまでの日々 (2)
必要とされる台数から、1台少ない数を生産せよ
──ラ フェラーリの開発で、エンジニアリンクチームがもっとも苦心したことは
「ラフェラーリのエンジニアリングチームは、重量物をホイールベース間に、どのように最適化して搭載するかにも、さまざまなチャレンジをつづけました。例えばスクーデリア・フェラーリ=フェラーリF1チームが製造するリチウムイオンバッテリーのセルは、トータルで約60kgの重量を持つものですが、これはカーボンモノコックのフロア後部に設けられた、専用のボックス型スペースの中に収納される設計です。
HY=KERSはハイブリッドのシステムとしては、非常にシンプルなものではありますが、それには重量はもちろん、サイズ面でも大きなアドバンテージがあります。バッテリーの熱対策を含め、ラ フェラーリのエンジニアリングチームは、実に素晴らしい仕事をしてくれました。
ラ フェラーリの生産台数は499台ですが、これは市場で必要とされる台数から、1台少ない数を生産せよという、創始者であるエンツォ・フェラーリの意思を反映したものです。
前作の『エンツォ』は399台を、また『F50』は349台の生産計画を掲げましたが、今回の499台という数字は、フェラーリの市場そのものが、この間にどれほど大きく成長したかを象徴するものといえるでしょう」
──フェラーリのハイブリッドモデルは、さらにラインナップを拡大するのでしょうか
「フェラーリに今後、ラ フェラーリと同様の、あるいはさらに別の技術的ソリューションを採用したハイブリッドモデルを市場に投じる計画があるのかどうかは、現在の段階でコメントすることはできません。あくまでも限定車であるラ フェラーリであるからこそ、ここまで革新的なテクニックを試みることができたのです。それを通常のプロダクションモデルに採用していくには、まだまだステップ・バイ・ステップでの検討を重ねていく必要があるとおもいます。
ですがフェラーリが、ハイブリッドの先にEVを計画しているのかといえば、その答えは間違いなく“ノー”ということになるでしょう。12気筒にせよ、8気筒にせよ、魅力的なエンジンサウンドの消えたフェラーリになど、カスタマーからポジティブな意見は得られないのではないでしょうか」