今を表現できる“リアルクローズ”を追い求めたい

ファッション雑誌やカタログのスタイリングをはじめ、東京・白金にある「ビオトープ アダム エ ロペ」のクリエイティブディレクターとバイイングを担当し、2013年春夏で4シーズン目を迎えるメンズブランド「ネサーンス」ではデザイナーを務め、写真家としては毎年個展を開催し、昨年11月に渋谷でおこなわれた「MHL.コミュニティマート」に写真を出展するなど、つねにクリエイションの現場で刺激的な活動をつづけている熊谷氏。

その原点となるファッションの視点は「この2～3年、こだわっているのはリアルクローズ＝売れる服です。ニューヨークもパリも出かけますが、僕の解釈のリアルクローズが買い付けの基本ですね。たしかにカラフルな色やショーツなど、流行りそうなものはありますが、自分はトレンドに左右される方ではないと自負しているし、この10年ぐらいはリアルクローズを使ったスタイリングがメイン。僕の言うリアルとは、ある程度のクオリティをもった手の届く服、売れる服です。今年の服は来年着てもいいというスタンスで、そういう意味では、マーガレット・ハウエルは、すごいブランドだと思いますね。ワードローブから10年前のシャツを出して今着ても決して色あせない強さがある」

女性デザイナーが見たメンズ服と、自身のブランドについて

2013年春夏のマーガレット・ハウエルの印象は、「昨年はロンドンブームがありましたが、今度のコレクションは全体的に優しい感じを受けます。シャツの素材感など、ロンドンから海を渡った感じが入っている。ブームを経て、マーケットが大きく広がったんでしょうね。スタイリングでとくに気に入ったのは、シングルトレンチの着こなし（上左）で、とてもイギリスっぽく、モッズ上がりの男の子が着ても、大人になったポール・ウェラーが着ても似合う感じがいい。それと、ショーツのコーディネイトは、女性が見たメンズ服のラインが守られていて、すごくまとまっているし、りりしく見える。マーガレット・ハウエルは、男性のデザイナーが作るメンズよりも男性目線のアプローチが効いていて、男っぽいのも魅力の一つですね」と熊谷氏。

自身の服作りでは、映画からインスピレーションを得ることが多いそうで、デザインする「ネサーンス」では、「自分の記憶、経験、そしてボキャブラリーが入った服を作りたい。ファッションブランドGDCのディレクションもつづけていますが、ネサーンスは自分が着たい服、一緒に歳がとれる服をつくれるブランドです」

「マーガレットは時代に抗わず、リアルに着られる服をずっとつくりつづけているデザイナーで尊敬しています。彼女の手がける服は、着るひとを選ばず、人間の品を良く見せてくれる。マーガレット・ハウエルというと、渋谷の神南のカフェの気持ちよさをみんな連想すると思いますが、MHL.コミュニティマートにもおなじような心地良い風が吹いていました。マーガレットの服作りはこのままでいいので、一つお願いがあるとすれば、マーガレットが監修する平屋のビーチハウスを作ってほしいですね。実現したら僕も一軒買います」と笑う。

熊谷隆志｜KUMAGAI Takashi
1970年生まれ。渡仏後、1994年スタイリストとして活動開始。1998年レイク･タホ名義にてフォトグラファー活動も開始する。2008年よりフォトグラファー名義を本名の熊谷隆志とし、広告・雑誌などで活動するかたわら、さまざまなファッションブランドのブランディング、 ショップ内装や植栽のディレクションなど幅広い分野で活躍中。
www.takashikumagai.com

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