バイ リクエストから感じるジョンロブへのリスペクト(前編)|JOHN LOBB
JOHN LOBB|ジョンロブ
バイ リクエストから感じるジョンロブへのリスペクト
約100種類以上もの現行モデルやアーカイブコレクションから好きな素材や色、ソールやウィズを選べるパターンオーダーシステム「BY REQUEST(バイリクエスト)」。今年も3月16日から順次開催される各店舗5日間のフェア期間中のみ、通常30%のサーチャージが無料にて楽しめるまたとない機会がやってきた。創業して150年、ビスポークから始まり顧客のニーズに応えてきた紳士靴の老舗ジョンロブ。その魅力の一片を垣間見ることができるまたとないチャンスだ。
機械が忙しなく動いていては聞こえないはずの、職人の声が聞こえる。機械のオイルの匂いがしないから、革の匂いだけが広がっている。神秘的で芸術的な手作業が行われる静かなファクトリーで、190もの工程数を経て作られているジョンロブの既成靴。その中に自分の嗜好を融合する贅沢と喜びを体験した、ベドウィン&ザ・ハートブレイカーズのディレクター、渡辺真史氏にインタビュー。
Photographs by NAGAO MasashiText by OZAWA Masayuki
バイリクエストを通してブランドの世界を自分のフィールドに取り入れる
――渡辺さんにとって、ジョンロブとは?
渡辺 簡潔に表現するなら、とにかく靴の歴史を作ってきたブランドです。イタリアもイギリスも、アメリカの靴も分け隔てなく好きで、見ることも履くことも楽しんでいますが、ある時にオーセンティックな靴とは何だろう、と考えたことがあるんです。
結局、自分の中でたどり着いたのがジョンロブでした。質実剛健、という言葉がぴったりではないのですが、浮ついていない真面目さを持っているブランド。そしてトップ中のトップ、それが僕にとってのイメージです。
――これまでにジョンロブを履いたことはありましたか?
渡辺 興味はありましたが、実際に履いたことはありませんでした。そういう人、きっと多いと思うんですよね。だから今日の僕はその代弁者です。「バイリクエスト」を体験することが決まって、まず初めてのジョンロブを購入しました。まずはブランドの持っている魅力をそのまま味わうのが、自分にとっての第一歩と思ったので。
最初から靴のトップ中のトップの変化球より、ど真ん中のストレートを受け止めたい。その段階を経てから、何をリクエストするのかを考えたかったし、そうでないと、自分を表現できないと思ったんです。
――実際に「シティII」を手にして「バイリクエスト」への考えはまとまりましたか?
渡辺 カジュアルな世界でも活躍できる靴をリクエストしたかったので、ベースモデルはローファーの「ロペス」に。素材をパテントレザーにしてみたいなと。オーセンティックなデザインを素材の力で印象を変えてみたかったんです。
自分にとってパテントは、パーティやオペラとまではいかないけど、ドレスアップして楽しむ、華やかな場所に行くための素材。カジュアルなローファーでどこまでシャレを効かせられるか。最高のタンナーによる最高の革を使えるエルメスグループであるのにも関わらず、コーティングした革を選ぶなんて邪道かと思われそうですが、革だけじゃない縫製や生産背景へのこだわりを理解して、こんなの作っちゃいました的な方が、自分らしいかなと。直球な「シティII」を買ってこそ、その変化球を楽しめると思いました。
パテントの「ロペス」ならスーツを着たビジネスには不向きだけど、その分パーティやクラブに履いて行ってもいい。そしてストリートでも合わせられる。「この色が今までなかったから」とかいう理由より、純粋に奇をてらったもので自分の生活に取り入れたいんです。
――自分のフィールドにジョンロブを取り入れる発想ですね。
渡辺 一般的にジョンロブを履くことは、ジョンロブの景色が見えるところに魅力があると思うんです。確かにそれも欲しい理由の一つですが、ブランドの世界に踏み込むのではなく、逆に自分のフィールドに取り入れるってすごくワクワクすると思うし、スニーカーやアメリカのワークブーツが得意な自分が、むしろブランドとちゃんと向き合えるチャンスだと思うんです。それを多くの人とシェアしたいし、伝えたい。
渡辺 今の時点では、完成される靴に明確な着用イメージがありません。でも、それがこの企画へのリスペクトだと思っています。既にどこでどう履くなんてわかりきっているなら、既成靴で十分な気がするんです。
どうドレスアップし、どうカジュアルダウンできるかは、届いて履いてからのお楽しみですよ。スケートや自転車に合わせはしないだろうけど、雨の日にガシガシ履いてもナンセンスだと思わない。そういう新しい発見を楽しめる靴を作ったつもりだし、実際に楽しませてくれる靴を作っている究極のブランドだと思うから。
――接客を受けながらのオーダーに、発見はありましたか?
渡辺 マイサイズが思ったより小さかったことです。カジュアル畑にいると、パンツの太さや長さ、着こなし全体のバランスと靴との関係を考えてしまうので、実際の足のサイズって二の次になることも多いんです。
でも体つきやファッションは一度置いておき、自分の足にフィットさせると、最初はバランス的に小さいかな、と思ったのですが、すぐに鏡を見た自分に違和感がなくなってきました。
持論ですが、S、M、L、のどのサイズを着てもおかしく見えない服って、パターンがいい証拠です。逆にちょっとサイズが違うだけで、大きく印象の変わってしまう服は、そもそも全体のバランスが取れていない。それは靴にも言えることで、基本的なプロポーションが美しいジョンロブなら、どのサイズでもウィズでも美しく見える。それなら自分のサイズで作りたいなと思いました。
そして誰の足にでも似合う靴であることも、大きな発見でした。スーパーモデルや政財界のジェントルマンだけではなく、じつは誰が履いてもいい靴を作っている。それがオーセンティックであり続ける条件だと思うし、長い歴史の中で時代時代にフィットしながら、今の地位を築き上げて来たのだ、と実感しました。
――1足目で「シティII」を購入、2足目の「ロペス」のオーダー、次は何を?
渡辺 今までモンクストラップの靴に対して、好き嫌いを問われたら好きじゃない、と答えてしまうくらい苦手意識がありました。理由は合わせるパンツや服のイメージが湧かなかいから。でもスタッフのお話を伺い、ジョンロブを代表するモデル(ウィリアム)の一つであり、このデザインを考案したのがジョンロブだと聞き、初めて興味が湧きました。
キャップトゥやローファーに比べると難易度の高さを感じますが、この靴が似合う自分なりのメンズ像を探したいです。色々な場所で履けるオーセンティックな「シティII」に始まり、自分のフィールドに持ち込めるバイリクエストの「ローファー」。3足目は自分にまるでイメージできなかった「ウィリアム」を再びバイリクエストで。それができたら、もっとジョンロブと仲良くなれる。そんな気がしています。
渡辺真史|WATANABE Masafumi
モデルとしてキャリアを始動した後、イギリスへの留学などを経てデザイナーとして独立。2004年にベドウィン&ザ・ハートブレイカーズをスタート。ディレクターとして活躍する傍ら、アディダス オリジナルスなど世界的なブランドとのコラボレーションなども手がける。