Diary-T 190 温泉でも、
Lounge
2015年5月7日

Diary-T 190 温泉でも、

Diary-T

Diary-T 190 温泉でも、

文・アートワーク=桑原茂一

硫黄の匂いが記憶を呼び起こすから、いつもの熱い温泉を意気込んだら拍子抜けするほどやわらかくまろやかで体温のような温度にいつしか心もゆるんだ。というわけにはいかなかった。
ここは小布施温泉だ。

タクシー代の半分の六百円のお風呂が高いか安いかはさておき、地方都市に無数に生まれた健康ランド的な、いなたいムードの施設に少量の切なさもなかったわけではない。

都会の半額ほどのマッサージに惹かれれ、覗いたら、施術師がマッサージ機に座って自分を解していたので遠慮した。

うん?この言葉の感じは…もしかしてこんなところにも働きに来ているのか、たぶん東南アジアからと思われる数人の年配の女性たちがビニール袋をぶらさげて楽しげに会話しながら通り過ぎる。つかの間休息か。きっと日々きつい仕事をこなしているのだろうな、良いお正月を…。

なんだ露天風呂もあるのか、しかしたどりつくまでのこの階段は寒いな。そこに、こじんまりとした湯船に三人の先客がいた。寝ているのか?二人の男はまるで眠っているかの様に身体をひろげてまどろんでいる。もうひとりは物思いに耽っているようだの一番若い男、ではなくて、視覚障害の方であったったた。いい湯ですね。で、遠くに山が見える。それだけでちび少し救われる。あくまでも柔らかくぬるいお湯がゆるゆるとした時間を醸し出しているがこの感じに溶け込むには都会の垢は思ったより分厚い。そうそう、タクシーの運転手がどちらにしますか?と聞いたことを反芻してみる。ふたつあるんですか?そう、古い方と新しい方、ここは新しい方、うん、古い方を考えるのよしておこう。のんびり温泉でも、への道はそう簡単ではない。のである。

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