Leica|建築家 北川原温、ライカ M9-Pを愉しむ
Leica|ライカ
スペシャルインタビュー
撮り手をつき動かす、現代の名写真機
「ライカ M9-P」は、ライカ伝統のMシステムを搭載した高級デジタルカメラだ。今回その魅力を掘り下げるべく、世界的に活躍する建築家 北川原温氏に、自身が教授を務める東京藝術大学で撮影をしてもらった。北川原氏が感じた「ライカ M9-P」の魅力とは?
Text by OGAWA FumioPhotos by JAMANDFIX(北川原温ポートレイト、ライカ M9-P)
カメラも建築も、設計者の思想が感じられるものが優れている
ライカといえば、数え切れないプロフェッショナルに愛されてきたドイツのカメラだ。日本では、スナップショットの名手と呼ばれた木村伊兵衛(1901-1974)がライカづかいとしてよく知られている。写真の分野で優れた成果をあげた新人に「木村伊兵衛賞」の名を聞いたことのあるひとも多いのでは。もちろん、一般のひとにとっても、大いなる魅力をもっている。
ライカのよさは、レンズをふくめた品質の高い製品が生み出す写真のクオリティの高さである。いっぽう、ずっしりと手に重い、金属的な重量感と、素材の質感を活かした機能主義的なデザインも、モノとして大いなる魅力を感じさせる。手もとに置いておきたいカメラ、持ち歩いてみんなに見せたくなるカメラ……。そんな特長をもったカメラは、ライカをおいてほかにはない。
建築家として、「ビッグパレットふくしま」(1998年)や「中村キース・ヘリング美術館」(2007年)などを手がけている北川原 温氏も、ライカを愛するひとりだ。かつてはカメラを携えて世界各地をまわり、注目すべき建築を画像記録に残したこともある北川原温氏。建築家と写真機、という組み合わせから、いま、なにが生み出されるか──。最新のライカM9-Pを手にしてもらった。
──写真はお好きですか?
好きです。とくに20代は写真を撮ることにすごく凝っていて、アフリカ北東部とアラビア半島に挟まれた紅海に、建築写真を撮りに出かけたりしていました。山岳地帯にある民家を観てまわって、その写真を撮りまくりました。日干しレンガを積んで8階建てにする、タワー状の民家なんです。厳格な様式が確立されている、すばらしい建築だったのですが、僕が行ったとき、すでに消滅の一歩手前でした。
──画像として記録が大事なのですね。
でも僕は、カメラに頼ると、現場での印象が薄れて、とくに専門分野の建築では、大事な細部にいたる特徴が記憶に残りにくいように思うんです。むしろ、写真は表現手段としてとらえたほうが、ずっと楽しいのではないか、と考えています。 建築とカメラは似ているところがある、と言われることもあります。すぐれた建築には、哲学や文学の要素までふくまれます。カメラもおなじで、設計者の思想性が感じられるものがあります。それを受け入れると、撮る写真も変わってくる。その化学変化のようなものを楽しむのがいいと思うんです。
──ライカは、なにかを表現したくなるカメラですか?
作り手による背景を感じさせますから。ライカ M9-Pにしても、設計者は、スペック以上のものを追求したのだろうとか。手にとると、ずいぶん重い。デジタルカメラなのにこの重さ、というところから、作り手の思い入れが瞬時に伝わります。これは、パシャパシャと記録写真を撮りだめていくカメラでとどまっているものではない、と感じられます。
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撮り手をつき動かす、現代の名写真機
スペックを超えたものが与えてくれる感動が大事
──筐体はマグネシウム合金によるフルメタルで、トップカバーとベースプレートは無垢の真ちゅうから削り出したものですし、ライカ M9-Pの場合、LCDモニターはサファイアガラスを使っています。クオリティの高さが謳われるカメラです。それを使ってお撮りになったのは人物の画像ですね。
そうです。東京藝術大学の学生や卒業生の一連のポートレートを“キラッと。the hopeful young”と題して撮りました。さきに言いましたように、写真を記録でなく表現ととらえると、対象物との距離のとりかたとか、自分の考えかたを表明するのが楽しくなります。それでひとを選びました。 “この人物を僕はどう表現したいのか”という創作活動の原点ともいえる問いかけが、自分の内部からわいて出てくるんですね。
──道具が使うひとのモチベーションを高めてくれる、それが大事なのですね。
それこそ、スペックを超えたものが与えてくれる感動なのです。建築だって、満たすべき最低限のスペックがありますが、そこでとどまっていては、ひとの心を打つものにはなりません。カメラもおなじです。
──撮る立場としては使う楽しさ、表現するよろこびが感じられる。では、それを観る立場としては、どこに魅力があるでしょうか。
マチエール、質感でしょうか。たんなる画像情報でなく、撮った人間が、なにを表現したかったかが、ちゃんと伝わること。本来、写真は撮った内容だけでなく、どんな印画紙を使うかとか、プリント素材によって、だいぶ表現に幅がありました。デジタルカメラではその部分が薄れていたように思っていましたが、ライカ M9-Pの画像を見ていると、マチエールが存在していると感じられました。表現に奥行きがあるのに感心しました。
──使い勝手はいかがでしたか。
ライカ M9-PはISO感度にはじまり、絞りやシャッタースピードの設定が素早くできました。楽しかったです。マニュアル操作をおぼえているひとは、使いこなす楽しみもあります。ライカ M9-PのPは“プロフェッショナル”の頭文字ということですが、もちろん、一般人でも使えるわけで、カメラの魅力を再発見させてもらいました。
北川原 温|KITAGAWARA Atsushi
1951年生まれ。詩や音楽、現代美術などをモチーフにした個性的な発想や独創的なデザインで知られ、これまでにグッドデザイン賞金賞、ケネス・F・ブラウン大賞、日本建築大賞、日本芸術院賞など受賞歴多数。2007年には、ベルリンにヨーロッパ事務所を開設。また、東京芸術大学の大学院建築専攻北川原研究室では、科学や音楽、あたらしい表現芸術などの分野の専門家と協力し、建築・都市・空間にかんするさまざまな研究・創作活動を展開している。
ライカ M9-P|Leica M9-P
機能面ではライカ M9を踏襲しつつ、控え目なロゴマークや強度が高く傷がつきにくいサファイアガラスを採用したモニターなど、デザイン面で変更がくわえられたモデル。シルバークローム仕上げとブラックペイント仕上げの2種類を展開する。
イメージセンサー|24x36mmフルサイズセンサー
画素数|1800万
価格|81万9000円(ボディのみ)
ライカカメラジャパン
http://www.leica-camera.co.jp