古きシトロエンDSでめぐるパリ|Citroen
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2015年7月21日

古きシトロエンDSでめぐるパリ|Citroen

DS Drive|DS ドライブ

古きシトロエンDSでめぐるパリ|Citroen

なにものにも似ない、目を惹く奇抜なスタイリングと先進的な機構をもって、いまだファンの絶えないシトロエン「DS」。いま、そのオリジナルのDSに乗って、パリの街を観光できるサービスがあるという。最新の「DS5」を試乗したばかりの小川フミオ氏が、その祖先たるオリジナルDSとパリの観光を満喫するドライブに出発した。

Text by OGAWA Fumio

DSでパリの名所観光へ

パリの観光名物はいろいろあるが、シトロエン「DS」で、というのはいかがだろう。1955年から75年まで生産されたパリ生まれの世界の名車。自動車のなかでも指折りの価値ある“遺産”だが、いまも現役で走っている。それでパリ観光ができるのである。

シトロエンDSは、読者の方は先刻ご承知だろうが、当時のフランス大統領をはじめ政府高官や企業要人がこぞって乗ったフランスを代表する高級サルーンだ。スタイルは、しかしながら、大変ユニークで、宇宙船にもたとえられたほどだ。フラミニオ・ベルトーニというデザイナーの作品で、おなじ人が「2CV」もデザインしているのだから、対比としてまことにおもしろい。

Citroen DS|シトロエン DS

Citroen DS|シトロエン DS

DSの画期的なところは、見た目だけでない。サスペンションシステムには、油圧を使っていた。技術的にも凝っていたのだ。油か圧縮空気を使った筒型ダンパーにコイルスプリングという通常の組み合わせではない。球体のなかに入った窒素ガスと圧力をかけられた油圧との反発を利用した、ユニークなサスペンションシステムを採用していた。

ブレーキも油圧システムを使い、踏みしろの遊びはほとんどゼロ。シトロエンではこれらはドライバーの省力化のためで、疲労軽減、すなわちどこまでも安全に走れるため、と説明していた。
運転手つきのシトロエンDSでパリ観光が楽しめるこのサービスは「DSワールド パリ」という。1時間30分で240ユーロ(1ユーロ135円として約3万2,400円)から3時間で445ユーロ(約6万円)と、コースはいくつも用意されている。高いといえば高いかもしれないが、運転手を別にして最大4名乗車できるため、4等分すればじゅうぶんに内容に見合う価格といえるのでは。

Citroen DS|シトロエン DS

Citroen DS|シトロエン DS

使われているDSは、オリジナルの丸2灯のDS19もあれば、67年にフェイスリフトを受けて4灯式になったDS21あるいはもっともパワーが上がったDS23まで数種類。内装はオリジナルに近いソフトなファブリックシートできれいに修復したものから、現代的な仕上げになったものまで。あいにく指定はできない。

僕が乗ったのは、パリはシャンゼリゼ通りの1本裏にあるDS(こちらは現在のブランド)ストア前から。「どこに行きますか」とフランス人運転手に訊ねられて、「一般的なパリの今昔を共に観たいです」と答えたのだった。

DS Drive|DS ドライブ

古きシトロエンDSでめぐるパリ (2)

路面の凹凸をほとんど感じない魔法の絨毯

DSワールドの前に停められたDSは、ロードクリアランスがほとんどゼロというぐらい、低い車高が印象的だった。しかしドライバーがエンジンを始動させると、やにわにリアがぐぐっと持ち上がり、続いてノーズが持ち上がり、通常のクルマと同じ車高になった。油圧ポンプが駆動されてサスペンションが機能しはじめたからなのだ。

全長4.8メートルの車体だけあって、後席は意外なほど広い。レッグスペースもヘッドルームも余裕がある。前席のシートバックがかなり低いため、視覚的な印象も強いのかもしれない。映画「個人生活」(1974年)で政治家役を務めたアラン・ドロンは、前席シートバックに取り付けられた電話をしょっちゅう使っていて、当時、小学生だった僕は「クルマで電話かあ」とびっくりしたのを思い出した。

Citroen DS|シトロエン DS

Citroen DS|シトロエン DS

アラン・ドロンを気取って、ソフトで気持ちよい座り心地のシートに座っていると、乗り心地はかなりよい。僕はこれまで何度もさまざまなDSを操縦したことがあるが、ファブリックシートの後席に座ったことはなかったかもしれない。魔法の絨毯があったら、こんなふうに、路面の凹凸をほとんど感じない乗り心地かもしれないとおもった。

「まずエッフェル塔でも観ましょうか」とドライバーが言う。まだ20代だというから、彼が生まれた時、シトロエンは「XM」(89年)を出していたかもしれない。隔世の感がある。DSをドライブしての感想をきくと、「ほかのクルマと全然ちがっていておもしろい」と言う。油圧アシストのついたステアリングは握る力を緩めると勝手に直進位置に戻るし、セミオートマチックの変速機はトルクをかけすぎてからシフトアップするとぎくしゃくする。しかし慣れれば、たしかに楽ちんで「おもしろい」と言える操縦性なのだ。

ふんわり進み、エッフェル塔前で写真を撮っていると、観光客が写真を撮りに集まってきた。中国人らしき人も多い。この時代、中国では西側からのクルマの輸入はストップしていたはずなので、DSがいかに有名でも、存在は知られていないとおもうのだけれど、ちらりと見て、おもしろいスタイルだとわかるのだろう。

頭が大きくてリアにむかってすぼまっていく、魚のようなシェイプも、このクルマがデビューして60年のあいだ、真似するものがなかったから、風化もしていないのだ。

Citroen DS|シトロエン DS

DS Drive|DS ドライブ

古きシトロエンDSでめぐるパリ (3)

自国のクルマ文化の価値を理解した贅沢なツアー

DSのエンジンは、結局、最後まで古いOHVのままだった。ドイツやイタリアや、それに日本などではSOHCどころかDOHC16バルブなど、エンジン技術は長足の進歩をとげた60年代だが、DSはそんな進化に背を向けていた。合理的なのだろう。低回転域でのトルクはたしかにあるので、加速性を競わなければ、困ることはなかったはずである。

OHVの、金属的でない、くぐもった音はのどかな印象だ。それを耳にしながら、初夏のパリを、今度はブローニュへと走った。午前中だったので、環状道路の大渋滞にも遭わず、すぐに到着した。60年代の交通状況もこの程度だっただろうか。70km/hぐらいのペースで巡航するときのDSのあたりのやわらかい乗り心地は最高だ。

Citroen DS|シトロエン DS

Citroen DS|シトロエン DS

ブローニュの森のなかを縫うように走る道はガラすきで、ここも気持ちがよいドライブだ。カナダの建築家フランク・ゲーリーが手がけたフォンダシオン・ルイヴィトン(2014年)の建物は、田園的な風景には不釣り合いだ。しかし、ようやく自動車から独立したフェンダーがなくなりかけていた時代に登場して、人々の度肝を抜いたDSとどこか共通するものがあるかもしれない。アバンギャルド(前衛)とは、常にシトロエンが好むキーワードなのだ。

こんなふうなツアーはなんとも贅沢だ。フランスは意外に自国のクルマ文化の価値を理解していて、シトロエン2CVにのるツアーなんていうものもある。僕は以前こちらも経験したけれど、地元の人しか行かないパリのカフェめぐりをしてくれた。DSでは建築だったが、このように文化的資産をたくさん持っているのは、うらやましくもある。

DSワールド パリではまた、DSの内装など一部仕様を簡略化したDスペシャルをレンタカーで用意している。24時間(150km以内)で240ユーロだ。これでロワールやあるいはシャンパーニュなど日帰り圏内に足を延ばすのも、きっと楽しめるはずだ。ブレーキの踏み方と、シフトワーク、それに小さなカーブの曲がり方を短時間練習すれば、DSはよきパートナーになってくれるはずだ。

DS WORLD PARIS
01 53 57 33
08contact@dsworldparis.fr

           
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