新ブランドDSのフラッグシップ「DS5」をパリで試す|DS
CAR / IMPRESSION
2015年6月23日

新ブランドDSのフラッグシップ「DS5」をパリで試す|DS

DS5|DS5

独特のエスプリを色濃く感じさせる

DSブランドのフラッグシップ新型「DS5」をパリで試す

シトロエンから独立したDSブランドのフラッグシップモデルとしての使命を帯び、「DS5」がアップデートを果たした。パリでの試乗会に参加した小川フミオ氏が、開発担当者の話を通じ、また自らもハンドルを握り、新DS5が担うDSのアイデンティティを探る。

Text by OGAWA Fumio

DSのブランドアイデンティティを紹介するクルマ

「DS5」が生まれ変わった。日本には2012年に導入されたシトロエンDSラインのフラッグシップがDS5だ。2014年にプジョーシトロエングループ(PSA)は、プジョー、シトロエンに次ぐ第3のブランドとしてDSを切り離すことにしたため、DS5も意匠の一部が変わった。

アバンギャルド、洗練性、クラフツマンシップ、創造性。DSではこのような言葉を使って、自社の製品の定義をする。

「DS5は単なるニューモデルではない。私たちのあたらしいブランドアイデンティティを紹介するクルマなのだ」。DSのイブ・ボンフォンCEOはそう述べる。

DS5|DS5

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これまでも、クーペとセダンとハッチバックの要素をバランスさせた、ほかに類のないスタイリングで独自の存在感が光ったDS5。今回はさらに内外ともにディテールが磨かれて、高級感がぐっと増した。

高級感を増したと感じるのは、DSの意図どおりだ。あたらしい市場政策では、シトロエンをより大衆路線にして、高級なDSで高収益性を確保しようとしているようだ。今回、パリのセーヌ河沿いの会場を起点に、新DS5の試乗会が開かれた。

ファッションやクラフツマンシップなど、パリならではのモノづくりの感覚との共通性を強調するDS。試乗会場に並べられた60周年記念モデルは、どれも深みある濃い塗色を持ち、そこに丁寧に作り込まれたフロントグリルなどディテールが組み合わされることで、独自のキャラクターを印象づけている。DSウィングス(翼)と名づけられたあたらしい意匠のシンボルが、各所に施されるなど、ファッション製品に通じる細かい細工も特徴だ。ボンフォンCEOのメッセージの具現化とはこういうことかと、わかったような気がした。

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独特のエスプリを色濃く感じさせる

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グランツアラーとしての性格を明確化

日本には2015年秋に導入される新型DS5。最初は今回試乗した60周年記念限定モデルが導入されるという。ボンネットとホイールセンターキャップにゴールドのプラーク、ドアとテールゲートに「60 DS 1955」というゴールドカラーのステッカー、などが限定モデル専用。本国ではセミアニリンのレザーシートも用意されるが、日本仕様は未定、と輸入元となるプジョーシトロエンジャポンはしている。

パリで用意されていたDS5は、新世代のクリーンディーゼルエンジン搭載モデルだ。日本に入ってくるDS5は、まず1.6リッターガソリン仕様。ディーゼルもちかい将来の導入を視野にいれているそうだ。

ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでも、おそらく共通の印象を受けるだろうと思ったのは、乗り心地だ。“シトロエンDS5”時代は硬すぎるのではという指摘もあったサスペンションセッティングが大幅に見直されている。あたりがソフトで、ふんわりという印象だ。

「快適性を重視して見直しました。設定の目的は、グランツアラーとしての乗り心地のよさを追求することです」。DS5の開発責任者、バンサン・デボ氏はそう認める。

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「DS5の足回りは、スポーティさとコンフォートの真ん中をいくように設定しました。おなじグループの中でもブランドによって性格付けを明確にしています。シトロエンはより“ライドコンフォート”、つまり乗り心地のよさを追求するいっぽうで、プジョーは“プレジャー トゥ ドライブ”、運転する楽しさを提供するようにします」

右があって左があって真ん中があるのが世の常のように、3つが市場性を高めるのに重要とPSAは考えたということだ。「DSはプレミアムカーのマーケットのためのブランド。設定にあたっては、競合としてアウディ「A4」などを念頭に置きました」。試乗会場でデボ氏はそう説明してくれた。

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独特のエスプリを色濃く感じさせる

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ドゴールも愛したDSのヘリテッジを思い起させる仕上げ

パリでの試乗コースは、渋滞する市内を抜けてベルサイユを抜け、南西へと走り、山道や高速を通って、ふたたびパリへ戻ってくるものだった。DS60周年の記念イベントと同時期におこなわれたため、パリ独特のエスプリ(精神)がクルマづくりの背景にあることを強調したDSのヘリティッジゆえか、あえてパリの周辺にコースを設営したのだろう。

パリは大都会だが、昔の城壁をもとに作られた環状道路から外に出ると、ほどなく自然の中へと入っていく。30分も走らないうちに、規模の小さな村というかんじの町になり、次の町へとつながる道は往々にして山中のワインディングロードだ。さまざまな状況でクルマを試せる、よく考えられたコース設定だった。

さきに乗り心地が快適志向になったと触れたが、とりわけ一般道での気持ちのよさは印象的だ。シートはレザー張りでクッションも硬めなので、かつてのDSとおなじとはいえないが、それでもDS5では高級路線を行こうという意図は明確に感じられる。

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室内騒音は低く抑えられ、高級感が強い。セミアニリンレザーの質感など手に触れる部分の作りこみをしっかりおこなっているのもDS5で印象に残る部分だ。かつて大統領にも愛された(ドゴール元大統領は、オリジナルDSを個人でも購入していた)DSのヘリティッジを思い起こさせる。

試乗車は、133kWの最高出力と、2,000rpmで400Nmの最大トルクを発生する2リッター4気筒ディーゼルターボを搭載。それに6段オートマチック変速機が組み合わされていた。発進を含めてすべての回転域で力強さをしっかり感じさせてくれるパワープラントだ。1,500rpmを少し超えるぐらい回すだけで、じゅうぶんな加速が得られる。

燃費は欧州の基準で100km走るのに4.4リッターの燃料消費量(つまりリッター22km)にとどまり、CO2排出量も走行kmあたり114グラムとだいぶ少ない。現代的なレベルでも高水準にある。

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独特のエスプリを色濃く感じさせる

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フランスにしかつくれないものがある

DS5は発売当初から、特別感の強いモデルとして個性を保ってきた。剣を思わせる形状からクロームセーバーと呼ばれるアクセントがフロントボンネットからAピラーにかけて取り付けられているのは、もっとも目を惹く特徴だ。しかしそれだけでなく、長いルーフラインを持ちながらカーブをうまく使って、クーペ的と表現したくなるスタイリングを作りあげたプロポーションは上手だ。

飛行機のコクピットを思わせる凝った造型をもつ前席はとりわけ、DS5にしかない、スタイリング性の真骨頂だ。DSではこのモデルの快適性を強調するが、それは後席重視という意味にならないと思う。やがて大型モデルも登場するようで、リムジンとしてのオリジナルDSのヘリティッジはそちらに期待してもいいだろう。

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DS5は気持ちよい反応を示すパワープラントと、正確なステアリングを持つ、ほかに類のないプレミアムドライバーズカーだ。クーペ的なスタイルゆえパーソナル感も強く、オーソドックスなセダンにないキャラクターが際立つ。ドアの開閉を含めた質感もよく、ドイツ車の強いライバルになる可能性を秘めている。

現在は、DSにしか用意されていないドライブトレインはないが、「将来的には考えられる」と開発担当者のデボ氏は語っている。現行のシトロエン「C5」が生産中止になると、油圧と窒素を使った独自のハイドロニューマチックサスペンションを搭載するモデルはPSAのラインナップからなくなってしまう。

それを惜しむ声も多いようで、デボ氏は「ハイドラクティブサスペンションを復活させると確約はできないが、ドイツ車とは一線を画すため、画期的なメカニズムが採用される可能性はあります」と語った。

DS5の試乗コースは、全仏テニストーナメントが始まっていたスタッド・ローラン・ギャロス(会場)の横を通るようになっていた。広い会場からはかなりの熱気が感じられ、これもフランスの立派なヘリティッジと改めて思った。試乗コースを設定したDSの担当者の意図だったのだろうか。

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フランスにはフランスにしか提供できないものがある。それを主張するDSの誕生は、多様性こそクルマの楽しさと信じる私たちにとって、大いに歓迎すべきことだ。日本でも秋以降、DS専売店など、本国の計画をベースにした展開が予想される。

           
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