TOYOTA PRIUS α|トヨタ プリウス α 上級グレード「G」に試乗
CAR / IMPRESSION
2015年3月12日

TOYOTA PRIUS α|トヨタ プリウス α 上級グレード「G」に試乗

TOYOTA PRIUS α|トヨタ プリウス α

ワゴン版プリウスに試乗(1)

トヨタのハイブリッドカー、プリウスに追加されたワゴン版、プリウスα(アルファ)に試乗。小型軽量のリチウムイオン電池搭載モデルもある一方、乗り心地が向上するなど洗練度が上がっているのが印象的だ。

文=小川フミオ

新開発の軽量・小型リチウムイオン・バッテリーを搭載

プリウスαは、「ゆとりの室内空間」(トヨタ自動車)をセリングポイントにしたプリウスの派生車種。2011年5月13日に発売された。1.8リッターガソリンエンジンに電気モーターを組み合わせたトヨタの「THS II」というハイブリッドシステム搭載という点は、従来のプリウスと同様。一方ホイールベースは180mm延長されるとともに、全長で155mm、全幅で30mm、全高で85mm、それぞれ拡大している。さらに2列5座と、3列7座というシートバリエーションが設けられたのも注目点。さらに、新開発の軽量・小型リチウムイオン・バッテリーが搭載された。

今回試乗したのは、プリウスαの上級グレード「G」の7人乗り(300万円)。マークX GEOと共用するプラットフォームにより車体が大型化し、ルーフの前後長も延びているが、リアクォーターウィンドウ下のラインをキックアップといって、上へはねあげるデザインとしたことで、いわゆるステーションワゴンというより、従来のハッチバックであるプリウスとのファミリーイメージがより強く出ている。それがまず印象に残る。実際には、ボディ各部の空力効果を見なおしたり、リアコンビネーションランプを「できるだけ外側に配置」するなど、ワゴン専用デザインへの配慮が各所に見られる。

TOYOTA MARK X GEO|トヨタ マークX ジオ

MARK X GEO

PRIUS α|プリウス α 上級グレード「G」に試乗|02

車体中央に描かれたブルーの部分がリチウムイオンバッテリーの位置。

注目点は、小型軽量で高性能のリチウムイオン・バッテリーの採用だ。じつはトヨタにとって、このバッテリーとのつきあいは、初代VITZのスタート&ストップシステムに端を発する。「なので技術的には長い時間親しんできたバッテリー」とプリウスαにかかわったエンジニアは言う。本格的な採用となった今回、コンパクトさを活かして、プリウスαでは、前席中央のセンターコンソールに箱形タイプを収めた。ただし採用車種はプリウスαのなかでも7人乗りの「G」にかぎられる。その理由として「2列5人仕様では従来とおなじニッケル水素バッテリーを荷室に搭載しているが、座席を増やした結果、バッテリーのスペースがなくなったため」(小木曽聡チーフエンジニア)と説明される。

リチウムイオン・バッテリーは、同サイズのニッケル水素バッテリーと比較した場合、倍以上の性能を有すると言われているが、プリウスαではその性能差を逆手にとって、性能は同等に抑えてサイズを半分とした。「リチウムイオン・バッテリーのポテンシャルは高いが、かりに3倍の性能を与えても、プリウスαでは活かしきれない。そこで性能差をサイズのほうに役立てた」(同)ということだ。限界的な運動性能はわからないが、ふつうに走るぶんにはバッテリーの搭載位置が変わっても運動特性はおなじ、とトヨタではしている。

TOYOTA PRIUS α|トヨタ プリウス α

ワゴン版プリウスに試乗(2)

乗り心地を向上させるバネ上振動制御を新採用

実際に操縦すると、車重が約140kg増加したことを感じさせない軽快な出足がまず印象的だ。低速域ではEVモードで、電気モーターの出力は60kWあるので意外なほど力強い加速が味わえるのは、すでにプリウスオーナーなら知ってのとおりだ。エンジンの始動と停止は走行モードに合わせて頻繁におこなわれる。始動時も振動、騒音ともに低く抑えられていて、計器盤を見ていないかぎり、それとわからないほどといってよい。計器盤中のハイブリッドシステムインジケーターシステムによって、リアルタイムで燃費が表示されるので、つい燃費運転を心がけてしまう。じつは「ハイブリッドカーはエコ」という最大の理由はドライバーの自制心によっているのではないだろうかなどと思ってしまう。

プリウスαでもうひとつ、うれしい発見はとりわけ高速走行時のフラットライド感だ。車体がぴょこぴょこと動かない。これは「バネ上振動制御」といって、路面の状態からくるいわゆる路面入力によるピッチ制御を、モーターの振動を使っておこなう新機構のおかげ。ドライバーがアクセル操作しなくても、車両のほうが自動的に、車体のノーズが浮き上がる路面ではトルクを弱め、ノーズが沈みこむときはトルクを強めるという制御をおこなってくれる。そこで乗り心地がよくなり、かつ「タイヤの接地性が高まるため操舵感も良好」になるとトヨタではしている。プリウスαではじめて採用された制御だ。

PRIUS α|プリウス α 上級グレード「G」に試乗|04

PRIUS α|プリウス α 上級グレード「G」に試乗|05

街中では静かなドライブができ、高速では100km/h近くになるとエンジンからの排気音など透過音が気になるが(遮音はプリウスの課題だと思う)、総じてシアワセな気分で乗れるクルマであることにまちがいはない。2列シートの場合、荷室容量はプリウスに対して195リットルも増えており、より大きな荷物が積めるので使い勝手が向上している。3列シート車の場合、乗員が乗るのに、意外といってはなんだが、レッグルーム、ヘッドルームに窮屈なかんじはない。おそらくシートクッションの厚さなどを徹底的に見なおしてスペースをかせいだことの恩恵だろう。シートクッションはそのぶん平板で、長時間の使用に不安感がある。そのあたりは実際に長距離乗ってからの判断になるが。

プリウスαに問題があるとしたら、納期だ。「現在リチウムイオン・バッテリー搭載モデルの生産キャパシティは月産1000台程度。1万台強のバックオーダーが消化できるのが2012年4月ごろ」(小木曽チーフエンジニア)という状況だ。

TOYOTA PRIUS α|トヨタ プリウス α

ワゴン版プリウスに試乗(3)

リサイクルができないリチウムイオンにたいし、次世代を担う燃料とは?

トヨタ自動車は比較的リチウムイオン・バッテリーの使用に慎重だ。理由のひとつとして、リサイクルしにくいという事実があるだろう。従来のニッケル水素バッテリーはニッケルという貴金属を使っていたため、ニッケルが高く取り引きされているときは、バッテリーをひきとって分解して、それだけ売っても利益が出るようになっていた。それが期待できないリチウムイオン・バッテリーにたいしてリサイクル業者は魅力を見いだしにくい。そのうえで、どういうリサイクルシステムを確立していくか。ハイブリッドや電気を動力にするクルマにとって、解決しなくてはいけない課題だ。

もうひとつ、リチウムイオン・バッテリー(搭載車)の課題として、電気モーターの性能向上がある。さきにも触れたように、リチウムイオン・バッテリーの性能を向上させても(現在のもっとも高性能なものがだいたいポテンシャルの上限値らしいが)、電気モーターをふくめたシステムがそれを活かしきれなくては意味がない。それにはシステム全体をアップグレードする必要がある。しかしそこまで設備に投資するにはハードルがある。ハイブリッドシステム自体が過渡的な技術と言えるからだ。市場を拡大するあいだに、技術がさらに先へと進んでいき、結果、製品が時代おくれになる危険性をはらんでいる。そのバランスをとるのが、むずかしい。将来、電気自動車と発電・送電インフラ(および自家発電)がセットになった、いわゆるスマートシティやスマートハウスを見据える必要はあるが、いまは「これが正しい道」と断言できるものはない。

「とうぜん自動車のバッテリーはこれからも進化します。将来は(正極に空気中の酸素を使用する)いわゆる空気電池がクルマのバッテリーに実用化される可能性もあります。性能にくわえ、耐久性や信頼性など十分に信頼に値いするレベルを確保するのが、我われの仕事です」。プリウスαの小木曽聡チーフエンジニアはそう語った。

           
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