ポルシェを収斂するような、走り、操舵感覚

ポルシェ911カレラ（コードネーム997）がデビューして2011年で7年目を迎える。今年、フルモデルチェンジと言われている。もはや古くさくなったのか?　というと、けっしてそんなことはない。もしまだ911に乗ったことがないなら、いちどはハンドルを握ってみることをお薦めする。

操縦した911カレラはAT感覚でMTのダイレクト感を体験できる7段PDK搭載モデル（1,267万円）。3.6リッター水平対向6気筒エンジンをリアに搭載する後輪駆動モデルだ。いま911のラインナップは多岐にわたるが、このクルマには911を911たらしめている基本がすべてあるように思える。

ここで911のラインナップを列挙してみよう。ベースモデルは、345psのカレラ。その上に、385psのカレラS、408psのカレラGTS、500psのターボ、530psのターボS、レースカーに近いGT3とラインナップされている。

トランスミッションは基本的にMTとデュアルクラッチシステムであるPDKが用意される。駆動方式は2WDと4WD。ボディはクーペにカブリオレ、それにタルガと、組み合わせは豊富だ。スピードが好きならGTS、あるいはその上のターボ。よりダイレクトな操縦感覚を求めるならGT3。ドライバーの嗜好に合わせて、モデルの細分化が進められているのがいまのポルシェだ。

そこにあって911カレラのよさは、すなおなダイレクト感。操舵感、しっかりとした足まわり、鋭いアクセルレスポンス、剛性感のあるブレーキ、そして存在を主張する6気筒ユニット、など。このクルマに乗ると、上級モデルはほぼすべて、その特徴を「過剰さ」に置いていると感じられるほどだ。たとえばターボほどの加速感はない。しかし十分すぎる加速感がある。そういう言い方になるが、ようするに、911のベースモデルの大きな魅力は適度なバランス感だ。

ポルシェのラインナップには、911にくわえて、ボクスターやケイマンといったスポーツカーもある。これらもポルシェのスポーツカーを探すときに選択肢に入るモデルだが、ここでも911の個性は輝く。身のこなしの軽さではボクスターやケイマンといったミドシップモデルが上ともいえるが、ある程度の重量感と、太いエンジントルク、それにしっかりした操舵感覚のステアリングは、911の色あせない魅力だ。

唯一無二のプロダクト

しっかりした操舵感覚は、911を操縦したことがあるひとなら、なじみある重さでもある。慣れないひとには「重い」と思えるかもしれないが、適度な重さによって、連続するコーナーでの切りすぎを防ぐ役目を担う。ハンドルを切ったときに車体の反応速度が速ければ、操舵力が多少必要でも軽々とクルマをコントロールできる。

1960年代からポルシェは911と、それよりコンパクトなスポーツカーをラインナップにもってきた。1980年代から90年代にかけては、924や944といったモデルもそれなりに人気を博した。乗ればダイレクトな操舵感覚に、パワフルなエンジンによる加速性など、スポーツカー的な魅力がしっかりあった。しかし911に乗り換えたとたん、それらのクルマの存在感は薄くなる。しっとりした乗り心地、太いエンジントルク、よりシャープなステアリングなどで一頭地を抜いているからだ。おなじことがいまも言える。

911のよさは、操縦性がスポーティでありながら実用性が高いこと。試乗車はポテンザの19インチタイヤを履いていたが、乗り心地のあたりは意外なほどやわらかい。ただし、2,350mmという比較的みじかいホイールベースのせいもあるだろうが、路面の段差ではぴょこんぴょこんと跳ねる。リアエンジンゆえ、ホイールベースを長くできない911では仕方のないことだが。

以前、911のライバルといえばフェラーリなどがあがったが、いまや性能のインフレのような高性能競争ゆえ、フェラーリのボトムラインというべきカリフォルニアでも、460psの最高出力と2,360万円のプライス。911の射程範囲からはるかに逸脱している。つまり逆にいえば、911のようにスポーツ走行に特化したスポーツカーで、1,300万円弱のプライスタグを提げたクルマはほぼない。つまり911は唯一無二のプロダクトといえる。

出力にしても価格にしても、数字が大きければいいというものでもない。適度なバランスがあってこそと、911に乗ると思う。スーパースポーツカーの入り口にいて、それでいて、ほかに類をみない世界観をもって完結している。聞けば、今度の新型はもっとラグジュアリアスな方向へと振られるとか。となるとますますもって、いまこそ911カレラに乗るべきときなのかもしれない。

PORSCHE 911 Carrera｜ポルシェ 911 カレラ
ボディ｜全長4,435×全幅1,810×全高1,310mm
ホイールベース｜2,350mm
エンジン｜3.6リッター水平対向6気筒
最高出力｜254kW（345ps）/6,500-6,750rpm
最大トルク｜390Nm/4,400pm
駆動方式｜後輪駆動
トランスミッション｜7段デュアルクラッチ
燃費｜9.6ℓ/100km
CO2排出量｜225g/km
価格｜1,267万円
※燃費、CO2排出量は欧州データに基づく。