ミキモトのニューコレクションを語る|“伝統”あってこそのモダニティ
ミキモトのニューコレクションを語る
“伝統”あってこそのモダニティ
「モダニティを生み出すのは、伝統あってこそ」――どんな芸術的意匠も、ひとの心を打つものをつくるためには積み重ねられた技術なくしてはありえない。今回のインタビューでそう教えてくれたのは、ジュエラー「ミキモト」のデザイナー、関谷晶子さんだ。
文=野上亜紀Photo by Jamandfix
時代のあり方を意識したニューコレクションのかたち
今春発表された「SPRING GRAND DISPLAY 2009 OF MIKIMOTO」のテーマは「ビューティフルメモリーズ」。海や花、そして光など生命の美しさを想起させるジュエリーの数々だが、関谷晶子さんは自身が手がけた写真のブレスレットなど春めいたユニークピースを見せてくれた。このコレクションを制作するために、描いたデザイン画はおよそ100枚近く。それは至極あたりまえのことだという。
「ジュエリーは身に着けることが大前提ですから。アイディアがまずあって、次に身に着けるための方法を考えていくんです。じつはそれがいちばん大変な作業で……。でも一生大切にしていただける物をつくりたいと思っていますから、何度でも試行錯誤を繰り返します」
今は女性が“女性らしくいられる時代”と、関谷さんは語る。時代の流れを汲み、有機的なデザイン、リラックスしたイメージを心がけているというが、今回ミキモトが発表したジュエリーは確かにどれもエアリーで、心を躍らせるような印象のものばかり。
女性の柔らかさや優しさを感じさせてくれる石使いや意匠が特徴だ。ことにオープンワークの軽やかさ、そして可憐なカラーストーンのバランスにこだわったという。
「透かし彫りはミキモトの職人の得意技でもありますが、デザインにも意識的に取り入れるようにしているんです。実際に身に着けると肌に陰影が落ちて、とても綺麗なニュアンスが出るんですよ。ほかにもモダンなデザインにあえて伝統的なミルグレーンの技法を忍ばせたり……。伝統とモダニティのバランスを楽しんでいます。自分の好きなデザインとミキモトが守ってきた伝統技術、それらが合致したときがやはりいちばん嬉しいですね」
すっかりミキモト体質が根付いているんでしょうね、と関谷さんは微笑む。今でもミキモトの慣わしを守りデザイン画はすべて筆で起こすという徹底ぶりだ。「慣れるとじつは筆がいちばん楽なんですよ。いちばん細い線も描けますし」。
「優しさ」への思いを込めたデザイン、それをかたちにした技術とのコラボレーション
「今回の制作テーマはビューティフルメモリーズですが、ベースとなっているのは、“優しさ”なんです。それは地球に対する優しさ。旅先で命の消えかかっているサンゴを目にして、私にもなにかできないかを考えて……。自然の美しさ、そこに潜む地球の優しさを伝えたくて今回のデザインを考えました」
そんな作り手の思いをかたちにするために、じつに多くのひとたちの努力が捧げられた。「このブレスレットも最初のデザインでは綺麗に曲がらなくて。手に馴染む形にするために、職人の方が何度も試行錯誤を繰り返してくれました。お互い何度も話し合うことでようやくでき上がったものなんです」。
オープンワークの透かし彫り、微細なミルグレーン、ケシ珠と言われる小さな真珠を留めていくケシ定めなど……。ミキモトの職人が誇る伝統技術は数限りない。日本ならではのパール素材からはじまり、ジュエリー制作の裾野を広げることでミキモトの技術は発展してきた。それは今なお、関谷さんをはじめとするデザイナーとの折衝で日々成長している。
デザイナーが感じる「今」の空気と、職人が培ってきた長い「歴史」。それらが融合したときにはじめて、心に“何か”を伝えるジュエリーが生まれるのではないだろうか。「真珠を見ていると、生き物みたいに思えてくるんですよ。真珠は有機物なので、ほかの宝石に比べるととても控えめな存在。その奥ゆかしさをデザインと技術力でジュエリーの形へと上手に調和させていくことが、とても面白いんです」。関谷さんは最後にそう語った。
ミキモト Tel. 03-5550-5678