啓蒙思想家ヴォルテールのスピリットを伝承|MANUFACTURE ROYALE
MANUFACTURE ROYALE|マニュファクチュール ロワイヤル
啓蒙思想家ヴォルテールのスピリットを伝承
世界史を学んでいれば、フランス革命へとつながる啓蒙思想家であるヴォルテールの名を思い出せるはずだ。この歴史上の人物は実業家でもあり、新興の技能者たちのために時計工房を設立し、革命の潮流に向かう市民を鼓舞した。そんな歴史的な逸話を蘇らせたのが、このマニュファクチュール ロワイヤルである。
Text by KAWADA Akinori
「剣よりも危険なペン」
フランスの啓蒙思想家、ヴォルテールが1770年に設立した時計工房の名をリスペクトして継承したのが、このマニュファクチュール ロワイヤルというブランドである。彼は実業家でもあり、技能を持ちながら職のない職人たちを救済するため、この工房を設立し、王侯貴族に時計を販売した。そして、それを資金として、革命へと向かう貧困層を経済的にも助け、鼓舞したのである。
そんな力強い精神に見せられ、ヴォルテールの業績を現代に引き継ごうというのが、この工房であり、その実力は、極めつけに高い。
SIHH期間中に市内のホテルで開催された新作発表会では、これまでの作品も展示されており、トゥールビヨン、ミニッツリピーターといった極上の複雑機構が並び、さらに、独自のコンスタントフォース機構まで作り上げている。外装には、独特のジョイント構造があり、手首から外して卓上時計としても使えるモデルもある。見ているだけでも時間を忘れてしまいそうなラインナップである。
今回は、そんななかから、このブランドのベーシックにして、極めつけに個性的な1本を紹介したい。
文字盤に脱進機をレイアウト
「私が考えるに、ペンは剣よりも危険である」。ヴォルテールは常々こんな風に語っており、「ペンを取ることは、戦うことである」という言葉も、複数の書簡に残している。一見剣呑な考え方だが、思想家にとって自分の考えを記すことの気構えを示し、言論の自由というものの大切さを思わせる。ジャン・ジャック・ルソーとの激しい論争でも知られるヴォルテールだが、その自由な議論を称揚する精神を表現したのが、「1770 ヴォルティージュ プリュム・ノワール」である。
モデル名の“プリュム”(Plume)は、フランス語で「羽」だが、ヴォルテールが生きた時代には羽そのものが筆記具である「羽ペン」となった。“ノワール”(Noire)は「黒」であり、インクの色を象徴する。この時計のオールブラックなカラーリングは、「剣よりも危険なペン」をシンボライズしているのである。
メカニズムの特徴として、すぐに目につくのが、文字盤の9時位置から12時位置にかけてのメカニズムだ。時計の好事家なら、これが時計の規則正しい運動(等時性)の源泉である脱進機だと気づくはずだ。通常ならば、ムーブメントの裏側にあり、秒針を回す4番車という歯車に絡むガンギ車が、この時計では文字盤の9時位置にある。そして、そのガンギ車を停めては動かすアンクルというパーツが連なり、12時位置にアンクルの左右に揺れる動きを作り出すテンプとヒゲゼンマイがある。
しばしば、ムーブメントに開口部を設けて脱進機を鑑賞できるようにしたオープン仕様の文字盤が話題になるが、この機構は、それどころではないコロンブスの卵をやってのけている。
やはり「1770 ヴォルティージュ」は機能的にはベーシックだが、ブランドを象徴するモデルである。このオールブラックモデルを見て、あらためてその強力な個性に瞠目させられる。
1770 ヴォルティージュ プリュム・ノワール
ケース|ブラックPVD加工ステンレススチール
直径|45mm
厚さ|13.8mm
ムーブメント|手巻き(Cal.MR05)
機能|文字盤上に脱進機を配置
ストラップ|アリゲーター
防水|3気圧
限定数|38本
発売時期|未定
予価|550万円(税別)