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2025年12月25日
響け、F#の音。アキュトロン音叉時計、誕生から66年目の復活劇
BULOVA|ブローバ
1960年、世界初の電子式音叉時計として時計史に革命を起こしたアキュトロン。その象徴的なモデルが2026年1月、66年の時を経て再び世に送り出される。構想から10年……。最大の壁は、直径わずか3.6mmに400もの歯を刻む超微細歯車の製造であり、これはシチズンの最新技術がなければ不可能だったという。BULOVA マネージングディレクター、マイケル・ベナベンテ氏が語る、技術と情熱の物語をお届けする。
Text by TSUCHIDA Takashi
そもそも音叉時計とは? 時計史300年の常識を覆した革命
機械式腕時計は、テンプと呼ばれる調速機構で時を刻む。振り子のように規則的に往復運動を繰り返すことで、時間を正確に計測する仕組みだ。しかし、テンプの一般的な振動は3-4Hzである。
アキュトロンが採用した音叉の振動は360Hzだ。この電子制御された振動の安定性が、テンプの機械的な往復運動をはるかに凌ぐ精度を実現した。ちなみに機械式の場合、高振動と言われるムーブメントでも5Hzが一般的な最高値であり、音叉の360Hzはその72倍の運動量を誇る。その結果として得られた1日の誤差約2秒以内という驚異的な正確さは、従来の機械式腕時計では考えられない領域だったのだ。
1960年、アキュトロンはそれまで約300年にわたって時計の心臓部として君臨してきた「テンプ」という調速機構を、音叉に置き換えることに成功した。世界初の電子式音叉腕時計の誕生である。
「音叉の発明がなければ、おそらく10年後のクォーツの発明もなかったでしょう」とマイケル氏は断言する。その卓越した精度の高さは、やがてアキュトロンを、地球を超えた場所へと導いていく。
NASAは46ものミッションでアキュトロンの技術を採用した。特にジェミニ計画では宇宙飛行士全員がアキュトロンを着用し、宇宙船のコックピットパネルにも搭載された。宇宙開発競争が最も熱を帯びた時代、人類を月へと導いた陰の立役者が、この小さな音叉時計だったのである。
BULOVAマネージングディレクター就任からの10年越しの夢
2015年、マイケル氏がBULOVAのマネージングディレクターに就任した時、彼の胸に一つの強い思いがあった。
「アキュトロンは時計産業全体として非常に重要なブランドです。にもかかわらず、適切に扱われていなかった。これは何とかせねばと思いました」
実は2010年にも、アキュトロンの音叉時計は一度だけ復刻されている。しかしそれは限定1000個のみのファンサービスであり、プロトタイプ製造に近いものだった。したがって継続的な生産体制を確立することはできず、そのまま終了してしまう。転機は2020年末から2021年初めにかけて訪れた。東京のシチズンチームがついに動き出したのである。
しかしながら、なぜ音叉時計の復刻が困難なのか。その答えの一つとなる、インデックス車という重要な部品を紹介したい。

音叉は1秒間に360Hzという超高速で振動する。その目に見えないほどの速くて細かい振動を、時計の針を動かす回転運動へと変換する必要がある。その変換を担うのがインデックス車という歯車だ。具体的には、音叉に取り付けられた薄い板が、この歯車を1秒に360回、寸分の狂いもなく、一歯ずつ正確に押していく。
この部品の製造精度こそが、音叉時計の製造の鍵を握る。
「ルーペで見ていただくと、回転している歯車があります。これがインデックス車です」。ベナベンテ氏が、実物を手に取りながら説明する。肉眼ではほとんど歯形が見えず、ルーペを通してようやく、微細な歯車の存在がわずかに確認できる。
そのスペックは驚異的という言葉では足りないほどだ。直径わずか3.6mm。その小さな円周上に、400もの歯が刻まれている。一つの歯の大きさは、わずか20ミクロン。人間の髪の毛の太さが約80ミクロンであることから、髪の毛の4分の1の直径という計算になる。
「当時もこれを作っていたんですが、正直どうやっていたか分からない、というのが我々の技術者の感覚です」
60年前、どうやってこの超微細な部品を製造していたのか。その技術は記録として残されておらず、今となっては謎のままだ。そして2010年の時点でも、これを安定的かつ継続的に量産する技術は、まだ世界のどこにも存在しなかった。
ブレークスルーをもたらしたのは、LIGA(リーガ)工法と呼ばれる最新の積層加工技術だった。従来の切削加工とは全く異なるアプローチで、材料を層状に積み重ねていくことで、超微細な形状を実現する技術である。
「2010年ごろは、限られた高級時計メーカーしか取り入れておらず、その時発売した音叉時計には採用していなかった技術です。この技術があったから、今回ようやく実現できたんです」と、マイケル氏。さらに現代の新素材を採用することで、耐久性と安定性が飛躍的に向上した。60年前には存在しなかった材料を使うことで、長期使用にも耐える品質を確保している。
3時位置で高速回転しているのがインデックス車。実は回転しているのではなく、1秒間に360歯ずつ送られているが、その速度が速いために連続して動いているように見えている。
アメリカと日本をつなぐ、54年前にも存在した強固な絆
実はブローバとシチズンの縁は、55年前にも遡る深いものだ。1970年、両社は日本で合弁会社「ブローバ・シチズン」を設立している。この時ブローバは、自社が保有していた音叉時計の特許をシチズンに供与し、「ハイソニック」という名前で日本市場に音叉時計を展開していた歴史がある。つまり半世紀以上前から、両社は音叉時計を通じてつながっていたのだ。
その長いパートナーシップの歴史。シチズンが誇る開発リソースと製造技術。さらに100%手組みで一つ一つ丁寧に組み上げていく、シチズンの熟練職人たちの存在。これらすべてが結集したからこそ、音叉時計の本格的復活は実現した。
デジタル化が進む現代、若い世代があえてレコードで音楽を聴き、アナログな実在感を求めている。物理的に振動し、機械的な機構で時を刻む音叉時計は、まさにその文脈に呼応する。マイケル氏はこう語る。
「スイスの高級時計がアルチザナル(職人的)だとされますが、それはスイスだけのものではありません。この一個のアキュトロンを作るのは、一人の職人が一年かけて作る以上に、膨大な手間と技術がかかっています」
アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー314
Ref.26A211、音叉ムーブメント、ステンレススチールケース(径39mm、厚さ13.4mm)、牛革ストラップ、3気圧防水。99万円(税込)。
アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー314
Ref.26A212、音叉ムーブメント、ステンレススチールケース(径39mm、厚さ13.4mm)、牛革ストラップ、3気圧防水。99万円(税込)。
アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー314
Ref.26A213、音叉ムーブメント、チタンケース(径39mm、厚さ13.2mm)、牛革ストラップ、3気圧防水。102万3000円(税込)。
※いずれも2026年1月下旬発売予定。3店舗限定発売(CITIZEN FLAGSHIP STORE TOKYO/ CITIZEN FLAGSHIP STORE OSAKA/BULOVA公式オンラインストア)
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