Cartier Yahoo! JAPAN×OPENERS|贈り物のフィロソフィー
カルティエを贈る、ということ
贈り物を選ぶ時間は静かな興奮を楽しむ時間。愛する人、尊敬する人、心からのお礼の気持ちを伝えたい人に、何を贈ろうかと迷い悩むとき、心は高揚の波を漂っている。
文=香山知子(「世界の腕時計」編集長)
贈り物を贈る瞬間は緊張の時。自分の選択が間違っていないことを願いながら、相手の表情を窺い、笑みが浮かんでくれることを祈る心は素直だ。
贈り物を贈った後の時間は不安に心揺れる時間。心底からの笑みだったと信じながらも、本当に気にいってくれたのだろうかと不安がよぎる。
そして何ヶ月、何年か後もその贈り物がその人とともにあるのを見たとき、ようやく安堵の時が訪れる。贈り物に託した心も相手の心のなかに溶け込んでいる。
贈り物に関わる時間は儀式のような神聖さをもって流れる時間にちがいない。そしてどんなものであれ贈り物となったとき、モノであることを超えて、心の使者となる。だから価格に関わらず、気持ちを十分に表現することができた贈り物には、贈られた人の心の扉を開ける力が宿り、また贈り物がささやく物語が心地よく響き、耳を傾けたくなる。
「王の宝飾商、宝飾商の王」と評され、世界中の王侯貴族やセレブレイティに愛され、贅を象徴してきたカルティエの歩みには、贈り物のドラマがどれほど数多く隠されているのだろうか。ナポレオン王妃、ジャン・コクトー、ウィンザー公爵夫人、ジャクリーン・ケネディなど、歴史に名を残す人々が愛する人へ、あるいは自らへの贈り物として選んだカルティエには、時代をよみとった個性あふれる創造と、宝飾商としての確かな技の伝統が調和したスタイルがある。カルティエの創造の歴史をひも解けば、アール・デコ、オリエンタリズム、アニマル・モチーフなどのスタイルが登場するが、それらをカルティエ流に表現したスタイルは一貫し、その芸術的ともいえるスタイルに人々は魅了されたのだった。そして生まれたひとつひとつの製品には誕生の物語が潜んでいる。
たとえばサントス・ウォッチは飛行家サントス・デュモンのために3代目ルイ・カルティエが考案した腕時計に由来するが、最初に作られた1904年は腕時計が一般に広まるかなり以前で、カルティエの先進性の表れでもある。その一方、この時計のデザインは今日にも受け入れられる普遍性を備えていた。ルイ・カルティエの時代に確立した、先端性と共存する普遍の創造もまた、カルティエの存在を確かなものとしてきた。
カルティエを贈る、それはあなたの心とともにフランスを代表する宝飾商が育んできた豊かな創造の文化の物語を贈ることにほかならない。一部の人々のためだけに作られていたカルティエを私たちも手にできる幸いを味わいながら、贈り物をめぐる神聖なる時の移ろいを楽しんでみてはいかがだろうか。
『世界の腕時計No.96』
2008年11月15日発売
価格2100円
http://www.monomagazine.com
1990年創刊。腕時計専門誌の草分け的存在。
No.96ではブライトリングの最新モデルを大特集。
新連載「時計デザインはどこへいく?」など、ユニークな企画が満載!