海洋覇権国家が築いた美食の遺産。ヴェネツィアで味わう、シーフードイタリアンの極致
LOUNGE / TRAVEL
2025年11月28日

海洋覇権国家が築いた美食の遺産。ヴェネツィアで味わう、シーフードイタリアンの極致

 

SANTO MARE|サント マーレ

 
ヴェネツィアのサン・マルコ広場から徒歩数分。12世紀に建てられた歴史的建造物、バリオーニ ホテル ルナの一角に、2025年7月、新たなシーフードレストラン「サント マーレ」が誕生した。運営するのは、若き起業家Andrea Reitano率いる国際的レストラングループ、Reitano Food。ロンドンやマイアミで大成功を収めてきたサント マーレブランドが、ついにシーフードイタリアンの本拠地、ヴェネツィアに上陸したのだ。
 

Text by TSUCHIDA Takashi

ロンドン、マイアミで実績を重ねた新世代レストランが、ついに本場イタリアへ

 
ヴェネツィアは、かつて地中海貿易を支配し、東西の文化と物資が交差する一大拠点だった。その繁栄を支えたのは、まぎれもなく「海」である。ゆえに、この街にシーフードレストランを開くということは、単なる出店ではない。海洋国家が築き上げた食文化へ敬意を表することであり、同時に偉大なる挑戦でもある。
 
Andrea Reitanoは19歳でロンドンへ渡り、飲食業界でのキャリアをスタートさせた。わずか1年後の20歳で、メイフェアの「Assunta Madre」のパートナーとなり、レストラン経営者としての道を歩み始める。その後の展開は驚異的だ。現在31歳の彼は、ロンドンに5店舗、マイアミに2店舗、ミラノに1店舗を展開し、2027年までにニューヨーク、メキシコシティにも進出を計画している。
 
英国のレストラン評価サイトHardensは、ロンドンのサント マーレを「very good all-round(全方位的に非常に優れている)」と評価。「高品質なイタリアンシーフード(一部は水槽から直接)とエレガントな内装が、確固たる評価を獲得している」と記しているのだ。加えて2025年には、ロンドンの高級百貨店Selfridges内に新業態「Nonna Mamma」をオープンさせるなど、その勢いはとどまるところを知らない。
 

イタリアの鮮魚店文化を現代の感性で再構築する

 
サント マーレのコンセプトは、イタリアの伝統的な鮮魚店(pescheria)文化にある。イタリアの港町を歩けば必ず目にする、氷の上に整然と並べられた色鮮やかな魚介類。地元の人々が日々の食卓のために魚を選ぶ、あの日常的な光景。サント マーレは、その鮮魚店が持つ親密さと信頼感を、高級レストランの洗練された空間に移植した。
 
 
レストランに足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、ケースに美しくディスプレイされた鮮魚の数々だ。ゲストは、カウンターに並ぶ魚を自らの目で確かめ、シェフと対話しながら、その日の一品を決めることができる。新たなヴェネツィア店でも、この徹底したこだわりが踏襲されるという。
 
サント マーレのメニューは、地中海各地から届く最高品質の魚介類を主役に据えた、シンプルながら印象的な構成だ。
 
「地中海産マグロのタルタル」は、地中海の魅力をさりげなく映し出した一品だ。素材の持ち味を大切に仕上げたその味わいは、明るく透き通った風味で海の恵みへの敬意を示している。海辺の朝の静けさを思い起こさせる、イタリアらしいシンプルさがここにある。繊細に切り分けられたマグロは、ジャガイモのベースの上に美しく盛り付けられ、その鮮やかな赤色が料理の主張を雄弁に物語る。
 
「シチリア産赤海老のカルパッチョ」は、マッツァーラ・デル・ヴァッロの赤海老という、シチリアの海が育んだ宝物を使用している。火を通さずに供されることで素材の魅力が際立つこの一皿は、島の豊かな海洋文化を感じさせる。「最高の素材には手を加えすぎない」という地中海料理の鉄則を体現している。
 
「スズキのタルタル アボカドとライムの香りとともに」は、さまざまな文化が交差してきたヴェネツィアの歴史を一皿に凝縮している。繊細なスズキの旨みに、アボカドのなめらかさとライムの爽やかさが重なり合い、世界に開かれたイタリアの今を映す、モダンな解釈が施されている。東西の食材が出合うこの料理は、まさにヴェネツィアという街の本質を表現している。

「スパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレ」は、地中海料理を象徴する存在だ。素朴さの中に気品を湛えた一皿は、海辺の漁師たちのトラットリアを思わせながらも、洗練されたテーブルにもふさわしい、時を超えて愛される味わいだ。サント マーレのヴォンゴレは、アサリの旨みがパスタに完璧に絡み、パセリの香りが鼻腔をくすぐる。シンプルゆえに、素材の良し悪しが如実に表れるこの料理こそ、レストランの実力を測る試金石と言えるだろう。

 

テンプル騎士団が滞在した宮殿で、特別な時間を

 
サント マーレを訪れる理由は、料理だけではない。その舞台となる「バリオーニ ホテル ルナ」こそが、もうひとつの主役だ。
 
12世紀に建てられたこの宮殿は、かつてテンプル騎士団の住居として使用され、「オステリア デッラ ルナ」という名でヴェネツィア最古のホテルとして営業を始めた歴史を持つ。サン・マルコ広場とドージェ宮殿からわずか数歩という立地は、ヴェネツィア観光の拠点として申し分ない。
 
ラグーンビューのジュニアスイート。
 
館内は、ムラーノ製のシャンデリア、オリジナルのフレスコ画、エレガントな大理石のバスルームといった、ヴェネツィアの伝統的な美が随所に息づいている。特に、サン・ジョルジョ島のパノラマ景色を一望できるテラス・スイートは、ラグーンの美しさを堪能できる特等席だ。
 
そしてホテルのプライベート・ドックからは、水上タクシーやゴンドラで優雅に到着できる。ヴェネツィアという水の都ならではの非日常的な体験は、そのすべてが想像を超えるものとなるだろう。
 
 

海洋国家の遺伝子が、現代に蘇る

 
ヴェネツィア共和国は、かつて「アドリア海の女王」と呼ばれ、地中海貿易を支配した。その繁栄の源は、優れた航海技術と、海からの恵みを最大限に活用する知恵だった。サント マーレは、そうした遺伝子を現代に受け継ぐ存在と言えるだろう。
 
地中海から届く最高品質の魚介類、イタリアの鮮魚店文化への敬意、そして現代的な洗練。これらが融合することで、単なるシーフードレストランを超えた、文化的な体験が生まれている。
 
ロンドン、マイアミでの成功を経て、本場イタリアに凱旋したサント マーレ。ヴェネツィアという特別な舞台で、Andrea Reitanoが示すのは、イタリア料理の新しい地平だ。海洋覇権国家が築いた美食の遺産、その最新章が、サント マーレで綴られ始めた。いまヴェネツィアを訪れるなら、このレストランを目的に、「バリオーニ ホテル ルナ」に宿泊することを検討するべきである。
 
Santo Mare at Baglioni Hotel Luna
所在地|San Marco 1243, 30124 Venice, Italy
予約・問い合わせ|venice@santomare.com
営業時間|ランチ 12:00-15:00 / ディナー 19:00-22:30(毎日営業)
アクセス|サン・マルコ広場から徒歩約3分、ホテルのプライベート・ドックへ水上タクシー・ゴンドラでの到着も可能
 
Baglioni Hotel Luna
ウェブサイト|venice.baglionihotels.com
 
問い合わせ先

バリオーニ ホテルズ&リゾーツ 日本広報代理
ヘブンズ ポートフォリオ(担当:齋藤)

ryosuke.saito@heavensportfolio.com

 
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