旅賢人の麗しきホテル選びvol.1
LOUNGE / TRAVEL
2015年3月6日

旅賢人の麗しきホテル選びvol.1

The Oberoi,Bali|オベロイ、バリ

最先端と対極のバリ島のレジェンド

毎年、最先端リゾートが湧きあがるように登場するバリ島は、いまや、アジアンリゾートのショールームのような存在。エッジの効いたデザイン性や、意表を突くドラマチックなロケーションにそそり立つ最新リゾートを泊まり歩く楽しさはバリ島ならでは。でも、このところ、そこにちょっと物足りなさを感じていたのも事実。ハードがおもしろくても、それだけでは心からくつろぎ、癒されないのがホテルやリゾートの難しさであり、おもしろさでもある。そう、ホテルやリゾートにとって大切なものは、空間の“最新性”ではなく、スタッフとゲストが生みだすケミストリー、有機的な“最深性”にあると思うからです。

文と写真=寺田直子

何も変わらず、くすみのない気高さ

バリ島の人気リゾートエリア、スミニャックにある『オベロイ、バリ』に泊まったのは今年の春のこと。毎年、バリ島には数回ほど訪問しますが、最近は、新規リゾートの取材が中心でオベロイに泊まるのもじつに10数年ぶり! 正直なところ、とくに期待をしないで訪れたのですが、これがもう、びっくりするくらいすばらしかった。いま、思い出してみても、あの空間にすぐにでももどりたいとうっとりと恋焦がれるほど。バリ島のリゾートでこれほどまでに感激したのは、本当に久しぶり。それはすばらしい滞在となったのでした。

では、オベロイのどこがちがったのか。さんざん、グラマラスな最新ラグジュアリーリゾートをまわったあとに訪れたオベロイは、じつは驚くほどになにも変わっていませんでした。典型的なバリスタイルの建物に、ずしりと重厚な木工彫刻の装飾、眠たげなガムランのBGMとバティックを身にまとったスタッフ。それは、往年のバリニーズリゾート風情そのもの。デザイン性を際立たせたリゾートがつぎつぎに登場するなか、その、ゆるぎのなさは逆に新鮮に映ったのです。しかも、年月が感じさせる古臭さをまったく感じさせない。隅ずみまでにピンと張りつめた緊張と、ゆるやかな空気感の絶妙な溶けあい。くすみを感じさせない空間の完璧さは衝撃的でした。時間を重ねることの意味をあらためて思ったのです。これこそ、本物のリゾートだと。

The Oberoi,Bali|オベロイ、バリ|寺田直子11

The Oberoi,Bali|ジ・オベロイ、バリ|寺田直子03

伝説は70年代にはじまった

『オベロイ、バリ』が誕生したのは、1974年。当初、小さなヴィラとして開業、78年にオベロイが運営を継承します。70年代のバリ島は、やっと国際的な観光開発がはじまったところ。一般的な観光客はまだ少なく、パイオニア的存在のサーファーや、アーティスト、写真家、作家など、アジアのエキゾチシズムに魅かれたコスモポリタンたちの桃源郷となります。多くはヨーロピアン。そのなかで、いち早く、インターナショナルな高級リゾートとしてオープンしたのが、オベロイ、バリ。一躍、彼らの社交の場となっていきます。ちなみに、もうひとつのリゾートの雄、アマンダリが開業するのは89年。オベロイ、バリの15年後ですから、バリ島のリゾート伝説は70年代に実質的にはじまったといっていいでしょう。開業から36年。いまではお気軽なアジアンリゾートとなったバリ島のなかでビンテージワインのように、ゆっくりと熟成し、深みを増していった稀有な存在、それがオベロイ、バリなのです。

完璧なるガーデンとゲストルーム

オベロイ、バリの敷地内に入ってまず感心するのが、ランドスケープの美しさ。スミニャックのオンザビーチという環境はもちろんですが、30年以上かけてのびやかに枝を広げたヤシの木やプルメリア、ハイビスカスといった樹木、広々とした緑の芝生の生命力。最新のリゾートではできない贅たくな空間は、ベストなスポットを選ぶことのできた先駆けの老舗ならでは。潮騒が響くなか、太陽の傾きとともに木々の影が長くのびる、ゆるやかな庭園のアンジュレーションは、飽きずに眺めていたいほどのみごとさです。

ゲストルームは、ビーチからやや奥まったガーデンに点在する「ラグジュアリー・ラナイ」、サンゴの塀で囲まれたプライバシー重視の「ラグジュアリー・ヴィラ」など4タイプが用意されています。ヴィラのなかにはプライベートプールを備えるものもあり、伝統的なアランアランの茅葺き屋根の客室は、花鳥風月を描いたバリアートが配され、きっちりとトラディショナル。広いバスルームには、サンケンスタイルのバスタブがあり、これもバリニーズリゾートの王道。大理石のフロア、シンクは曇りひとつなく磨きこまれ、2枚の大判のバスタオルをぴたりとあわせてオベロイのロゴを見せているところなど、仕事の細やかさと正確さはバリ島では奇跡に近いもの。きちんと手がかけられていることをしみじみと実感します。ゲストを祝福するかのように清浄さ溢れる室内は本当に心地よく、最上級のくつろぎと幸福感で満たされます。

The Oberoi,Bali|オベロイ、バリ|寺田直子07

The Oberoi,Bali|オベロイ、バリ|寺田直子02

最上質の空間に息づく美学

そんなオベロイ、バリの完璧さがどこから来るのか。すべてはホテルのスタッフにあります。オベロイには、20年、25年と勤務するバリニーズのスタッフが少なくありません。滞在中、朝食を採りにガーデンテラスへ行くと、初老のスタッフがもてなしてくれました。すでに気温は30度を超え、太陽がじりじりと焼けるように暑いなか、サロンを巻き、プレスの効いたアイボリーのジャケットを凛々しく身にまとった彼は汗もかかず機敏に動いていました。リゾートのすべてを知り尽くし、ゲストのすべてを知っているからこそできる身のこなしと、優雅さ。聞けば、ホテルのある村の出身とのこと。

「いやぁ、通うのが楽で20年も働いてしまいました、マダム」と実直に微笑む彼。オベロイ、バリには彼のような重鎮たちが現役で数多く働いています。若いスタッフもそんなベテランのもとで修業するためよく気がつく。レストランだけではなく、清掃スタッフ、ガーデナーと、私が感動したひとつひとつに、スタッフの見えざるプロ意識とリゾートへの愛情、ゲストへの忠誠心が込められています。

リゾートという言葉には、「何度も通う」という意味があります。冒頭でお伝えしたように、リゾートにとってもっとも大切なものはハードではなく、ソフト。流行や最新性を追い求めるだけではなく、変わらぬものを慈しみ、育てていくのもまた、ゲストの深い味わいかただといえるでしょう。

DATA
Seminyak Beach,Jalan Kayu Aya,Denpasar - 80361,Bali, Indonesia
TEL: +62 361 73 0361
http://www.oberoihotels.com/index.asp

日本での問い合わせ
スモール・ラクシャリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド
0120 -558-673

           
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