MUSIC|世界がバッハの音楽で満たされる「Bach in the Subways」日本で初開催
LOUNGE / MUSIC
2015年3月9日

MUSIC|世界がバッハの音楽で満たされる「Bach in the Subways」日本で初開催

MUSIC|生のクラシック音楽を人びとに届ける音楽ムーブメント

世界がバッハの音楽で満たされる「Bach in the Subways」日本で初開催

J.S.バッハの生誕330年にあたる3月21日(土・祝)、世界39カ国、129以上の都市で、バッハの音楽が奏でられます。それは、いまから5年前にニューヨークの地下鉄で演奏されたひとりの音楽家の活動からはじまり、今年から東京でも同様の取り組みがおこなわれます。「ホールからまちへ」。街ゆく人びととクラシック音楽を分かち合おうという演奏家たちの活動をご紹介します。

Text by MINOWA Yayoi(環境ジャーナリスト)Photographs by Music on the Earth / Bach in the Subways Day

それはニューヨークの地下鉄からはじまった

クラシック音楽というと、大きなホールで聴くもの、少しハードルが高いと感じる人が多いかもしれないが、街角や百貨店、カフェなど身近な場所で、生の演奏を聴くことができたらどうだろうか。

3月21日(土・祝)は、世界中でクラシック音楽を奏でる生の音を、身近な場所で、無料で聴くことのできる貴重な日になりそうだ。世界の39カ国、129以上の都市が、この日はJ.S.バッハの音楽であふれるのだ。

バッハ・イン・ザ・サブウェイズ|3月21日

いまから5年ほど前、J.S.バッハの誕生日である2010年3月21日に、ニューヨークの地下鉄のホームで、チェロ奏者、デール・ヘンダーソンがバッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」を弾いたことから、このムーブメントははじまった。

地下鉄の雑踏のなかにあっても、約300年の時を経たバッハの音楽は、温かく人びとのこころに響き、道行く人びとの心を自然にとらえた。彼はチップをもらう代わりにこう書かれたカードを渡した。

「今日は偉大なる音楽の父J. S. バッハの誕生日を祝い、一日中バッハの音楽を奏でます。音楽に対する愛と敬意を、街ゆく人びとと分かち合い、クラシック音楽を次世代につないでいくために」

デールの行動は大きな反響を巻き起こし、「He’s playing to save the music」というタイトルでNYの各紙やCNNなどのメディアに取り上げられ、それが世界中に伝えられた。

この出来事をきっかけに、デールはこの日を「クラシック音楽の種を蒔く日」とし、志をおなじくする世界中の音楽家とともに「Bach in the Subways」の活動を始めた。そして、その活動が年々米国各都市や欧州、中南米へ広がり、そして今年日本でもはじめて展開される。

音楽のもつ力を感じてほしい

日本でのイベントでは、代官山蔦屋書店、渋谷ヒカリエ、日本橋三越本店、日本橋三井タワーなどの商業施設をはじめ、渋谷区富ヶ谷のHakuju Hallやまちなかの小さなカフェなど、東京都内各所でバッハの音楽がプロアマ問わず主旨に賛同した音楽家によって演奏される。すぐ近くで演奏家の息づかいを感じながら、バイオリンやチェロ、ビオラ、クラリネットなどの生の音を聴くことができるのはとても贅たくな時間だ。

バッハ・イン・ザ・サブウェイズ|3月21日

主催者のひとりで、「ミュージック・オン・ジ・アース(バッハ・イン・ザ・サブウェイズ東京事務局)」を運営する土門寛子氏は、「小さいお子さんがいて普段ホールに行けない方や、仕事が忙しくてなかなか生の音にふれる機会がない方などにも、ぜひ聴いてほしい」と話す。

「“音楽の種をまく”という主旨をもつこの活動にとって、さまざまなひとに、生の音を記憶してもらうことはとても大事なこと」と土門氏は強調する。

また、バッハの誕生日にこのイベントが世界的におこなわれている理由については、こう説明する。

「歴史をたどると、クラシック音楽は救いや幸せを求める学問のひとつでした。バッハはそういうクラシック音楽の体系をつくったいわば音楽の源をつくり出したひとなのです」

音楽の源を作ったバッハの音楽に触れ、音楽のもつ力を感じてほしいというのが、この活動に参加する人たちの願いのようだ。

日本でも多くの演奏家が賛同する

バッハの音楽を多くの人にライブで聴いてほしいと、日本でも多くの音楽家がこの活動に賛同している。

そのうちの一名が、今もっとも注目されている若手指揮者のひとり、山田和樹氏だ。山田氏は現在、ドイツ・ベルリンを拠点として、日本フィルの正指揮者やスイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者などをつとめるほか、国内外の主要オーケストラで客演をし、サイトウ・キネン・フェスティバル松本(長野県)では、療養中だった小澤征爾総監督の代役をつとめたことでも話題となった。

バッハ・イン・ザ・サブウェイズ|3月21日

当日は、ドイツ・ドレスデンからドレスデンフィルハーモニー管弦楽団を指揮することで、日本からの音楽のバトンを受け取る 。交響楽団側の協力も得られ、当日はバッハの「G線上のアリア」が演奏され、日本ではUstreamなどによって演奏を聴くことができる。

欧州でもクラシック愛好家が高齢化していて、若年層や子どもたちにどうクラシックに親しんでもらうかは課題のひとつだと山田氏は言う。その意味でも今回のような取り組みはクラシックの裾野を広げるためにも重要な役割を果たす。

演奏家の奏でる生のクラシックの音を

「音楽はやはり生で聴くのが面白い。指揮者と演奏者とのせめぎあいや、演奏者のコンディションや聴衆とのやりとり。ドラマがあって毎回ふたを開けてみないとわからない」と、クラシック音楽のライブ感を表現する山田氏は、音楽に生で触れることの面白さを説く。

山田氏自身、現在30代で指揮者として頭角を現しているが、オーケストラの音楽をはじめて聴いたのは高校生のときだという。つまり、今回はじめてクラシック音楽を聴く子どもたちが、未来の演奏家や指揮者になることも充分ありうるのだ。

バッハ・イン・ザ・サブウェイズ|3月21日

また、山田氏はこうも表現する。「クラシックは推理小説みたいなもの。ロジックやモチーフがあってそれがどう組み合わされて構築されているか。それを紐解く面白さもある」

クラシックの奥義は深いのである。しかし、そこまで到達するにはある程度の時間が必要だと山田氏は認める。まずは白紙の状態で生の音に触れてみる。そのきっかけをつくってくれるのが、3月21日の「Bach in the Subways Day 2015」なのである。

「Bach in the Subways Day 2015」では、山田和樹氏以外にも、漆原啓子(バイオリン)、森田昌弘(バイオリン)、大宮臨太郎(バイオリン)、枝並千花(バイオリン)、小山貴之(ビオラ /指揮者)、三浦克之(ビオラ)、藤村俊介(チェロ)、中木健二(チェロ)、クリストファー・ギブソン(チェロ)、高山由美(ソプラノ)、土師雅人(テノール)、横山弘泰(バリトン)、ヤコブ・ロイシュナー(チェンバロ)、田中正敏(クラリネット)など多くのプロの音楽家、そして小中学生を含むアマチュア音楽家が参加する。

ぜひ、この機会に演奏家の奏でるクラシックの音をライブで感じてほしい。

Bach in the Subways

http://music-on-the-earth.org/bachinthesubways/

http://bachinthesubways.com/ja/

箕輪弥生|MINOWA Yayoi
環境ライター。NPO法人『そらべあ基金』理事。環境関連の記事や書籍の執筆のほか、東京谷中近くでグリーンなカフェ『フロマエcafé&ギャラリー』を営む。著書に『エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(飛鳥新社)ほか。

http://gogreen.petit.cc/

           
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