MUSIC|「Red Bull Music Academy 2013 New York」リポート
LOUNGE / MUSIC
2015年4月6日

MUSIC|「Red Bull Music Academy 2013 New York」リポート

MUSIC|清宮陵一(vinylsoyuz)が年に一度のビッグ・プロジェクトをリポート

「Red Bull Music Academy 2013 New York」のすべて

“レッドブル”が世界中で展開している、音楽家、音楽家予備軍、音楽愛好家のためのアカデミー「Red Bull Music Academy」。日本でも活発に活動しているこのプロジェクトで、昨年、AUDIO LOUNGE x RCF by PLAY, JAPAN! Red Bull Music Academy feat. Open Reel Ensemble Listening Party と、Red Bull Music Academy AUDIO LOUNGE presents musikelectronic geithain x content WORLD HAPPINESS 2012 After Party というふたつのイベントを手がけさせてもらった縁で、今年ニューヨークでおこなわれた、年に一度のビッグ・プロジェクトに立ちあうことができた。

Text by KIYOMIYA Ryoichi (vinylsoyuz)

わずか60名の若手音楽家たちによる“Academy”

これまでベルリン、トロント、ロンドン、メルボルン、ケープタウン、マドリッドなど世界中の都市で開催されてきたアカデミー「Red Bull Music Academy」の15回目の舞台はニューヨーク。

さまざまなイベントが一カ月間、マンハッタン&ブルックリンで繰り広げられる驚くべき規模のプロジェクトで、会期中連日異なったヴェニューでおこなわれるコンサートやクラブイベントには、坂本龍一、ブライアン・イーノ、キム・ゴードン、エリカ・バドゥ、フォー・テット、フライング・ロータスら超大物が参加した。

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 02

そういったフェスティバル的な側面もある一方で、“Academy”という名が示す通り、地に足のついた教育活動も長年に渡って展開している。世界中から集まった4000名以上の応募から厳選された、わずか60名の若手音楽家たちがチェルシー地区にあるビルに作られたスタジオに2週間滞在し、自由に楽曲制作をおこなったり、ほかの参加者たちとセッションできるというもの。ライブパフォーマンスに長けたミュージシャンには大勢の観客を前にした発表の機会も用意されている。

さらに、彼らだけが受講することのできるレクチャー(Red Bull Music Academy 2013 レクチャー動画)があることも特徴の一つ。講師陣はクエスト・ラブ、マスターズ・アット・ワーク、Qティップ、リッチー・ホーティン、エイドリアン・シャーウッドや、ハーブ・パワーズ・ジュニア、ケン・スコットといった超一流のエンジニア陣という信じられないメンバーだ。

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 03

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 04

コンサート、レクチャー以外にもブライアン・イーノによる巨大インスタレーション作品「77 Million Paintings」が展開されていたり、会期中至るところにRed Bull Music Academyのサインを発見することができた。

alva noto + ryuichi sakamoto、まったくあたらしい音と映像との関係

会期終盤には alva noto + ryuichi sakamoto が、レクチャーとコンサートをおこなった。レクチャーでは、最新作『summvs』を会場でAir Playすると、なごやかだった雰囲気が一変。圧倒的解像度の音像に、若手音楽家である受講生は身動きひとつとれず、固まったようにその音に聴き入っていた。

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 05

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 06

翌日、メトロポリタン美術館内のコンサート・ホールでおこなわれた公演では、『vrioon』『insen』『revep』『utp_』『summvs』という5部作のリリース後、二度のヨーロッパツアーと中南米ツアーを経て地球を2周近く回りながらビルドアップされつづけた坂本龍一のピアノとアルヴァ・ノトのエレクトロニクス&ビジュアルによるコラボレーションが、徹底的に感情を抑制し、煽動的にならず、それでいてどの一瞬もどの隙間も美しいと感じ取れるまったくあたらしい音と映像との関係を提示していた。

前日のレクチャー同様、こちらに来てから連日クラブで体感していた大騒ぎが嘘のように、まるでクラシック・コンサートさながら静かに、鳴らされるすべてをありのまま受け入れようとする空気が、アンコール最後の一音が観客全員の耳から消え去る瞬間まで会場を満たしていた。 彼らの“v-i-r-u-s”作戦がニューヨークを飲み込んだようにも思えた。

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 07

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 08

選りすぐりの若者とレジェントたちの緊密な空間と時間

最終日、ブルックリンのOUTPUTでおこなわれた「L.I.E.S.」の帰り。タイムズスクエアの地下鉄階段を上がっているとAcademyが連日発行していたタブロイド『Daily Note』最終号がごそっと一束、ぶっきらぼうに階段の隅に置かれていて、心を奪われた。こういったディストリビューションがRed Bull Music Academyの真骨頂のように思える。ある種、雑ともとれるこのコミュニケーションが、最前線の音楽がこれまでとりつづけていた態度であり、その一端を街なかでふと感じられた瞬間でもあったからだ。

それでいて、リー・ペーリー、フィリップ・グラス、ヴァン・ダイク・パークス、ジョルジオ・モロダーといったレジェンドがたった数十名の音楽家予備軍たちのために、緊密な空間で丁寧なレクチャーを繰り広げていたりする。若手音楽家は確実にこの時間を経ることによって人生観が大きく変わるだろう。

今回日本から唯一参加した仙台出身のビートメイカー、EMUFUCKAことTAKAFUMI SAKURAIもラウンジスペースで会った際、そのように話していた。またその逆もしかり。普段はなかなか交流する機会のない選りすぐりの若者の、ハングリーでクリエイティブな数多の質問に受け答えしながら、レジェンドたちも確実に彼らからエネルギーを得ているように見えた。

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 09

Red Bull Music Academy|ニューヨーク 10

そのレクチャー会場から一歩外へ出れば、コンサート・ホールやクラブだけではなく、映画館やホテルや教会といったライブをおこなう目的ではない場所の普段とはちがった姿に出合うことで、たんなる観光では味わえないニューヨークの歴史を垣間見ることができた。

音楽を愛するさまざまな世代をコネクトすることに注力し、マンハッタンの地図を見ながら歩くことにあらたな喜びをあたえたRed Bull Music Academy 2013 New York。音楽が出来得ることの領域を広げようとするこの挑戦は、これからも世界中でつづいていく。

Red Bull Music Academy
http://www.redbullmusicacademy.com
http://www.redbullmusicacademy.jp/

           
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