連載 | 須永辰緒の選盤流儀 第1回 出会いと別れの季節にジャズマエストロが選ぶ一枚
連載 | 須永辰緒の選盤流儀 第1回
出会いと別れの季節にジャズマエストロが選ぶ一枚
E.W.WAINWRIGHT,JR's
『AFRICAN ROOTS of JAZZ』
DJ/プロデューサーとしてだけではなく、ここ最近ではラーメンの開発に至るまで、多岐にわたる活躍を見せる須永辰緒氏の連載がいよいよスタート。氏ならではの視点からおすすめの名盤を選出していただき、その思い入れや、身近な話を織り交ぜながらご紹介していく。
Text by SUNAGA Tatsuo
出会う喜びと別れの悲しみは紙一重
春は出会いの季節と言いますが、同時に別れの季節でもあるのですね。初っ端から私事で恐縮ですが、子どもが中学生になり「自分の部屋が欲しい」と言い出しました。そこで一念発起し、CDやレコードと音楽機材、資料とでデータ類が山積みで、もはや部屋の体を成さず倉庫のようになってしまっている私の仕事部屋の整理を開始。3000枚ほどのレコードを専門店に買取に出し、さらにはトランクルーム(倉庫)を借り、そちらにレコード5000枚を含む諸々の「山」を引っ越しすることに。
まずは専門店から取り寄せた買取用の段ボールに、レコードやCDを詰め順次発送。「まあ、普段は聴かないだろうな。でも何かの機会で使うかも」というレコードはトランクルームへ。資料や大切な音源も同様。部屋を明け渡すことでかろうじて確保したリビングの一角に1000枚程度のレコードと最小限度の音楽機材を配置、ということで子どもと決着がついたわけです。
何も決着をつけなくてもいいだろうという気がしないでもないが、こんな機会じゃないとあの部屋は足を踏み込むこともできず、さらには一枚のレコードを見つけるのに1時間かかるという徒労も無くなるのだ。むしろ良い機会を頂いたということで。
レコード一枚を入手するにはその一枚一枚にそれなりの思い出があります。1800円のレコードを買うのに、ネット通販で送料&代引き手数料で3000円近くかかることも多々あります。海外オークションで落札したレコードが届かず税関まで引き取りに行ったこともある。渡欧した際に200ユーロで購入したレコードが、帰宅すると同じものが家にあった、何てことも。
3000枚を処分するにはそう言った思い出も全部込みなので、そのレコードが誰に渡るのか分からないけど、なるべく良いリスナーの家の子になって欲しいなと願う。しかし、レコードを買うのが仕事ですから、そういって処分している間もレコード屋を廻って買ってしまうわけです。インターネットのサイトも毎日閲覧し、原稿を書いている間にも宅配便が次々に届くので、減らしたのにまた増えてしまうという有様です。
私の場合レコードをデジタルに取り込んでアーカイブ化することはありません。出会いと別れがあり、それも「縁」だと考えているからです。それも含めてのレコード愛好家というある意味「酔っちゃってる状態」とも言えますが。
さて、今週も高価なレコードを買ってしまった。1970年代に、TRIBEやBLACK JAZZ等々、黒人運営による黒人運動とリンクしたジャズ・レーベルがアメリカで生まれました。出自であるアフリカ音楽に回帰しスピリチュアル、グルーヴ、賛美歌などの要素を持つ独自のカラーが特徴的です。
昨今のダンスフロアでの再評価もありDJに大変人気がありますが、私は何故か欧州ジャズに夢中で、このあたりの作品はその愛好家もしくはDJに任せておけばいいだろうと、趣味範囲外と片付けていましたが (ある程度の割り切りは必要。全てのジャズをフォローするのは不可能なので) 幸か不幸か、高円寺にあるレコード店「ユニバーサウンズ」で試聴する機会に恵まれてしまい、脳天を打たれたような衝撃を受け、そのままATMに走るということになってしまった次第。
金額はレンタルスペース一ヶ月分。何とも忙しい「出会いと別れ」ですね。
連載 | 須永辰緒の選盤流儀 第1回
出会いと別れの季節にジャズマエストロが選ぶ一枚
E.W.WAINWRIGHT,JR's
『AFRICAN ROOTS of JAZZ』
『須永辰緒の夜ジャズ』シリーズより、外伝第2弾が発売
「レコード番長」こと須永辰緒のライフ・ワークとも言うべきジャズ・コンピレーション・アルバム『須永辰緒の夜 ジャズ』シリーズ、その外伝の第2弾が何と Playwright より電撃リリース。
bohemianvoodooに始まり、PRIMITIVE ART ORCHESTRAとTRI4THの10周年ベストアルバム限定の音源(全国流通初出)をはさんで、fox capture planで終幕を迎える ―― というプレイライトレーベルファン 悶絶の流れに留まらず、現在日本中で活躍している「ジャズ」をキーワードとするバンドを全16曲コンパイルすることで、今なぜジャパニーズ・ジャズ・シーンが盛況と言われているのか、ひとつの解答が導き出されることになるでしょう。
DJ活動30周年を超え、常にシーンの先頭で見守ってくれているからこそ成せる奇跡の1枚!
須永辰緒 | SUNAGA Tatsuo
Sunaga t experience =須永辰緒によるソロ・ユニット含むDJ/プロデューサー。 DJとして東京、大阪でレギュラー・パーティーを主宰 。DJプレイでは国内47都道府県を全て踏破。欧州からアジアまで海外公演も多数。MIX CDシリーズ『World Standard』は10作を数え、ライフ・ワークとも言うべきジャズ・コンピレーションアルバム 『須永辰緒の夜ジャズ』は15作以上を継続中。国内から海外レーベルのコンパイルCDも多数制作。多数のリミックスワークに加え自身のソロ・ユニット”Sunaga t experience”としてアルバム4作を発表。最新作は 『夜ジャズDigs Venus Opus1~5』(Venus)『World Standard Crazy Ken Band』(UNIVERSAL)『VEE JAYの夜ジャズ』(ビクター)等。多種コンピレーションの 監修やプロデュース・ワークス、海外リミックス作品含め関連する作品は延べ200作を超えた。日本一忙しい”レコード番長”の動向を各業界が注目している。
http://sunaga-t.com/