映画監督デヴィッド・リンチがシンガー・ソング・ライター デビュー!
あの映画監督が満を持してシンガー・ソング・ライター デビュー
デヴィッド・リンチ、歌う、あの悪夢たちを
映画監督デヴィッド・リンチが満を持してシンガー・ソング・ライターとしてデビューした。11月2日に発売されたアルバムのタイトルは『Crazy Clown Time』。その歌声は、ギターは、歌詞は何を描くのか。
文=熊谷朋哉(SLOGAN)
映画監督デヴィッド・リンチの新作アルバムが話題になっている。アルバム? そう、リンチのあらたな作品は映画ではない。今作『Crazy Clown Time』は、『ツイン・ピークス』『ブルー・ヴェルヴェット』などで知られる名監督がみずから曲を書き、歌い、ギターを弾いた、“シンガーソングライター デヴィッド・リンチ”による音楽デビュー作品である。
思えば、彼のどの映画作品にも、音楽と映像との奇跡のような邂逅が描かれてきた。彼の映画を観た者は誰もが思い出すことができるだろう、たとえば『イレイザーヘッド』のラディエーターのなかで歌う少女、『ブルー・ヴェルヴェット』のイザベラ・ロッシリーニ、『ツイン・ピークス』のジュリー・クルーズ、そして『マルホランド・ドライブ』のコニー・スティーヴンス……。彼の映画においては、音楽と映像とは決して切り離すことのできないものだった。悪夢のような映像を、音楽が、さらに現実と非現実との境界を曖昧なものへと変化させていく。
当然、リンチの映画における音楽への関心は並大抵のものではなかった。選曲はもちろんのこと、サントラ作曲家たちへの要求はかなり具体的なものだったようだし、ジュリー・クルーズの作品にいたっては、作詞もすべてリンチ自身によるものだった。
このリンチの“新作”には、映画たちを彩ってきた彼の音楽に対する感覚のすべてがこれでもかとばかりに詰め込まれている。かぎりなくロマンティックでありつつも、歪み、飛び、壊れ、そして微かに漂うノスタルジー。『狂った道化の時間』というタイトルのとおり、狂っているのは世界か、リンチか、それとも私たちなのか?
そんな問いが最後に残るのも映画同様。強烈に圧縮されたリンチ体験を味わうことのできる一枚である。