映画『人生はビギナーズ』特別試写会トークイベントリポート!
映画『人生はビギナーズ』特別試写会イベントリポート!
川勝正幸さん×岡本仁さんによるトークショー(1)
1月17日、OPENERS読者だけを特別招待して開催された、映画『人生はビギナーズ』の特別試写会。笑って、泣いて、映画を堪能したあとに、編集者の川勝正幸さんと岡本仁さんのトークイベントがおこなわれた。
Coordination by PHANTOM FILM
“映画監督マイク・ミルズ”としてのブレイクスルーとなる作品
川勝 元『Relax』編集長であり現在も編集者としてご活躍の岡本仁さんをお招きして、お話をさせていただきます。おそらく日本人では写真家のホンマタカシさんに次いでマイク・ミルズ監督と近しいのではないでしょうか。
川勝 『サムサッカー』と『人生はビギナーズ』のあいだに、日本での抗うつ剤についてのドキュメンタリー『does your heart have a cold?』を2007年に作られています。抗うつ剤を飲んでいる人びとに寄り添うような非常にすばらしい作品でした。その流れで行くと、本作でも主人公が精神的な抑圧があって、若者も中年も老人も悩みを抱えているんだという一貫性を感じます。
岡本 どのくらい落ち込んでいたかはわからないけど、その時期のマイクは、暗そうという印象よりは、話す内容が素直で誠実で、つい聞き入ってしまうという感じでした。
川勝 マイク・ミルズは短編作やCMも多くやっているうえでの映画制作ですが、本作もきちんと“映画”として評価を受けている印象がありますよね。
川勝 映画の主人公はデザイナーですけど、会社勤めであり、多少本人とかぶるとことろはあるんでしょうかね。
岡本 マイク自身、一時期商業的な仕事は一切断るといっていたときがあって、Humansというプロジェクトをはじめて、作品を作っていたころがちょうど『サムサッカー』を作っていたころだと思います。
川勝 基本まじめで頑固なひとですよね。以前来日したときにトークショーをしたら、自分の紹介のさいに「早く質疑応答をやりたい」って言っていましたね。自分の過去の作品とかの話よりも、『サムサッカー』やHumansのプロジェクトの時期だったので、いまの自分を見てほしいというのもあったと思います。
マイク自身のパーソナリティがところどころに登場
川勝 ユアン(・マクレガー)はかっこよすぎない?(笑)と思うところもありますが、うじうじと昔の彼女のイラストを描いたりしているところは、監督自身とも重なるのかなと思ったりしますね。
岡本 映画に登場するイラストはマイクの直筆になりますが、それもあって、本作を見たときはマイクと重なってしまうかなと思ったけど、うまく切り替えて映画の世界に入っていけました。時間軸の構成が複雑になっているけども、観ていると段々慣れていき、じつはシンプルな作りであるとも感じます。
川勝 サスペンス映画のような時制のシャッフルではなく、はじめのシーンが終わりになってつながって、すっと入ってきますね。
父と息子の交流をとおして描かれる、あらたな人生
川勝 岡本さんも私もふたりとも父親を亡くしていますが、38歳の主人公はいわゆる“中年クライシス”の時期だと思いますし、まして父親の告白という衝撃もくわわって、自分は本当に愛されて生まれてきたのかっていう戸惑いが見事になじんできますよね。
川勝 お葬式のシーンとかは、実際本当に遺族は書類とかをたくさん書かなくてはならなくて、そういったところで、リアリズムと、彼のグラフィック的なポップな演出とうまく溶け合っていると思います。
岡本 マイク本人と重なってしまうのではと思った点も、はじめはアナ(メラニー・ロラン)が出てきたときは(マイク・ミルズのパートナーである)ミランダだ!って思ったけど、わりとすぐにちがうことが分かりました(笑)。
川勝 そうですよね。むしろ、ミランダの映像作品などを見ていると、劇中のお母さん役のほうがミランダっぽいと思いましたね。
川勝 そうですね。マイクがどういう人物なのかはまったく関係なく映画としてもちろん心を打つのですけど、マイクのことを知っているとリアルな部分も感じとれて興味深いですね。ぜひこの作品を口コミで広めていただけたらと思います。また、父と息子の親子の交流の物語と、息子がスタートさせた恋愛物語が、絶妙なバランスでリンクして描かれていきます。それに、ゲイの立場からの映画は多いですけど、ゲイを告白された側がどうそれを受け入れ、その後を生きていくか、という視点で描かれている点で、多くのひとへ開かれた作品だと思います。この映画を撮ったことで、本人的にも吹っ切れたと思うし、監督としても評価もされていて、第4作がさらに楽しみになりましたね。
岡本 ずっと彼がやってきたことが大好きですし、アメリカでの公開直後に彼に会ったときも、手ごたえがあっていままで背負っていた荷物が降りたかのような雰囲気を感じました。個人の重荷だったことを、多くのひとの心を感動させる作品に昇華させたということで、監督への道を着実に進んで行っていると思うと、すごく頼もしく感じますね。
川勝正幸|KAWAKATSU Masayuki
1956年博多市生まれ。映画、音楽、アート……とジャンルを横断してポップ・カルチャーの世界で活動するエディター。主な著書に『21世紀のポップ中毒者』『丘の上のパンク -時代をエディットする男・藤原ヒロシ半生記-』などがある。松本隆作詞活動40周年記念CD BOX『新・風街図鑑』のクリエイティヴ・ディレクションもおこなった。ウディ・アレン『さよなら、さよならハリウッド』、デイヴィッド・リンチ『インランド・エンパイア』ほか、映画のパンフレットの編集も数多く手がける。
http://kawakatsupro.com/
岡本 仁|OKAMOTO Hitoshi
マガジンハウスにて『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの雑誌編集に携わったのち、2009年にランドスケーププロダクツに入社し編集やプランニングなどを担当している。マイク・ミルズとは、編集長を務めていた『リラックス』の表紙のために作品を依頼したことから交友がはじまり、雑誌などで作品紹介やインタビューを重ねてきた。つい先日も『カーサブルータス』の取材のためにマイクの山荘を訪れたばかり。
http://www.landscape-products.net/
本年度アカデミー賞助演男優賞ノミネート!
第69回ゴールデン・グローブ賞 助演男優賞(クリストファー・プラマー)受賞
ブロードキャスト映画批評家協会賞 助演男優賞(クリストファー・プラマー)受賞
ゴッサム・インディペンデント映画賞 作品賞 アンサンブル演技賞 受賞
インディペンデント・スピリット賞 3部門ノミネート(作品賞 監督賞 助演男優
賞)