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2024年3月8日
連載|『オトナの自由研究』第1回 オトナのヨウジ体験
連載|オトナの自由研究
オトナのヨウジ体験
オトナになったからこそ直面する、ココロとカラダのさまざまな課題について、新たな視点で解決策を提案する連載。
Text by AKIYOSHI Kenta|Illustration by HIRANO Anzu
服が教えてくれる、新しい自分
50代になり、“HP”の数値が減っていることに気づくようになった。
『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』といった、RPG(ロールプレーイングゲーム)をやったことがある人ならわかると思うが、HP(ヒットポイント)とはゲームに登場するキャラクターの「体力や生命力」のレベルを現す数値のこと。
ある日、シャワーを浴びようと鏡を見ると、いつの間にか髪には白いものがまじり、筋肉も衰え体のラインも変わっていることに気づく。人により多少の差はあると思うが、年を重ねていくうちにHPの数値が下がっていくことは誰にも止められない。
「これ、似合うと思うんですよ」
先日、友人の家に遊びに行った際に、クローゼットから彼が出してきたのは、ウール素材で首周りのデザインが可愛いヨウジヤマモトのコートだった。
「一度着てみませんか?」と差し出されたコートを手に、少しばかり躊躇した。
というのも、スカートのように見える独創的なシルエットのパンツや空気ごと纏っているようなロング丈のシャツ、左右非対称丈のジャケットなど「ヨウジヤマモトを着てる」と一目でわかる、唯一無二のデザインが特徴のヨウジヤマモトの服は「自分には着こなせない」と一度も袖を通したことがなかったからだ。
友人に勧められるままそのコートを着用し、玄関に備え付けられた大きな鏡に映った自分の姿を見ると、イメージしていたのとまったく違う、これまで見たことのない自分の姿がそこにあった。
「これ、"MP”が上がってる?」
RPGにおいてゲームキャラクターの個性を現す指標には、HP以外にもう一つMP(マジックポイント)”という「魔法」や「呪文」を使う能力を測る数値がある。HPやMPをレベルアップさせることは、ゲームの中で旅を続ける途中に出くわす数々の困難をクリアしていくために重要なことだ。
ヨウジヤマモトの服を着たことでMPを手に入れた自分の姿を見て、まだまだ自分の可能性を感じたのだ。
人生という旅を続ける上で、年齢を重ねていくうちにHPが減っていくのは仕方のないことだけれど、MPの値を増やせば若い頃と比べてプラスマイナスゼロ。体力が落ちても、旅の途中で得た知識や経験を活かしたスキル(魔法や呪文)を駆使することで、自分らしい旅ができる。
鏡の中でヨウジヤマモトの服を身につけた、新しい自分の姿を見ながら、そんなことを考えていた。
その日からあまり時間をおくこともなく、現在私の家のクローゼットにはヨウジヤマモトのコーナーがある。
ドクタージャケット、ドレープシャツ、ラップパンツ、バルーンパンツ。長年のヨウジファンからすれば定番のアイテムばかりだと思うが、ヨウジ初心者の私としてはまずはこのあたりから。
独創的なデザインを身に纏って街を歩くのは、まだちょっぴり気恥ずかしさがあるのは否めないけれど、ヨウジヤマモトで自分のMPをマックスレベルに上げて、新しい冒険へと繰り出すのだ。
秋吉健太
編集者・メディアプロデューサー/1969年生まれ。これまで『東京ウォーカー』編集長、WEBメディア編集長などを歴任。現在はYahoo!ニュースエキスパートとしても執筆するほか、YouTube『吉田類チャンネル』企画運営、いとうせいこう×星野概念『心場所』などにも携わる。原宿にて定期コーヒー&トークイベント『COFFEEDIT』主宰。
編集者・メディアプロデューサー/1969年生まれ。これまで『東京ウォーカー』編集長、WEBメディア編集長などを歴任。現在はYahoo!ニュースエキスパートとしても執筆するほか、YouTube『吉田類チャンネル』企画運営、いとうせいこう×星野概念『心場所』などにも携わる。原宿にて定期コーヒー&トークイベント『COFFEEDIT』主宰。