シャンパーニュの新たな味わいは“触覚“にある
LOUNGE / FEATURES
2024年12月28日

シャンパーニュの新たな味わいは“触覚“にある

G.H.MUMM|メゾン マム

嗅覚と味覚で評価するのが当たり前だったワインテイスティング。その常識を覆す革新的な手法が、シャンパーニュの名門メゾン マムから提案された。触覚を活用した新しいテイスティング手法「テイスティング エンカウンター オデッセイ」は、シャンパーニュの味わいに新たな扉を開く。

Text by TSUCHIDA Takashi

科学とデザインの融合が、官能をさらに深く刺激

指先に感じる冷たい金属の感触。もう片方の手でシャンパーニュグラスを持ち上げ、そっと目を閉じて口に運ぶ。すると、これまでとは明らかに異なる印象が広がり始める。フレッシュでミネラル感のある味わいが、より鮮明に感じられるのだ。次は、柔らかな革の質感に触れながら同じワインを味わう。今度は、まろやかさと深みのある味わいが際立って感じられる。
これは、メゾン マムが提案する新しいテイスティング手法「テイスティング エンカウンター オデッセイ」の一場面だ。11月12日、東京・青山で披露されたイベントで、この革新的な体験が日本で初めて公開された。
このティスティング手法は、パリのパスツール研究所に所属する神経科学者ガブリエル・レプゼと、メゾン マムのデザイナーのオクターブ・ド・グールによって開発されたもの。従来のワインテイスティングでは、味覚と嗅覚をキーワードとなる言葉に置き換えて記憶を定着させてきた。しかし、この新手法は触覚という新たな知覚を加えることで、脳に異なる刺激を与え、より深い理解と体験を可能にする。
次に手に取ったのは、完璧な球体のガラスと、土の温もりを感じさせるテラコッタのオブジェ。手のひらに収まる球体の滑らかさは、シャンパーニュの持つエレガントさを想起させる。一方、テラコッタの表面には微細な凹凸があり、その質感はワインのテクスチャーや複雑さを連想させる。研究によれば、このような触覚刺激は、脳内で味覚情報と結びつき、より豊かな味わいの認識を促すという。
この手法の革新性は、いわゆる「共感覚」の活用にある。触覚という異なる感覚を通じて、ワインの持つポテンシャルへの気づきを促すのだ。冷たい金属に触れることで感じるフレッシュさ、温かい革の感触から生まれる深み。これらの触覚情報は、味わいの理解をより立体的なものにしてくれる。

共感覚による意識の拡張により、ピノ・ノワールの真髄を探る

「マム グラン コルドン」のテイスティングでは、メタルの触感がフレッシュさとミネラル感を引き出し、レザーの温かみが口当たりのまろやかさを際立たせる。続く「マム グラン コルドン ロゼ」では、ガラス球体が表現する優美さと、テラコッタが象徴するテクスチャーの細やかさが、ピノ・ノワールの多面的な魅力を浮き彫りにする。
メゾン マムの新最高醸造責任者、ヤン・ムニエ氏。
「触覚を通じて、シャンパーニュの異なる表情を理解することができます」と語るのは、今年4月に就任したメゾン マムの新最高醸造責任者のヤン・ムニエ氏だ。彼の下で迎えた2024年のヴィンテージは、「素晴らしいアロマの豊かさがあり、成熟度とフレッシュさのバランスが良く、美しいヴィンテージを造り出すポテンシャルがある」という。2024年は遅霜の被害を受け、収穫量自体は減少したものの、夏の順調な成熟により品質の高い葡萄果実を収穫することが叶った。
イベント当日、STELLAR WORKS Restaurant & Barで開催された特別ディナーでは、RSRVシリーズとのペアリングも披露された。中でも印象的だったのは、メゾン マムのプレステージキュベ「RSRV ブラン・ド・ブラン 2015」と魚料理のマリアージュだ。「クリーミーなソースとの相性は抜群でした」と、ヤン・ムニエ氏は語る。メゾン マムが誇るピノ・ノワールを敢えて使わない、シャルドネ100%のキュベに対する評価は、このブランドの新たな魅力を引き出す、まさに至福のペアリングとなった。
1827年の創業以来、メゾン マムはピノ・ノワールを中心としたシャンパーニュ造りを追求してきた。現在では自社畑の78%をピノ・ノワールが占め、その探求は進化を続けている。218ヘクタールの畑のうち160ヘクタールがグラン・クリュに認定され、品質の高さは揺るぎない。
筆者は今回、数年ぶりにメゾン マムのシャンパーニュと向き合ったが、その素晴らしさに改めて感動した。以前はよりドライで、シャープな印象が強かったが、先のティスティングにより慎重に味わいを確認すると、ピノ・ノワール由来の豊かな果実味とまろやかさを備え、より深みのある味わいだと認識するに至った。

共感覚によるこの驚きの発見を、ぜひ自宅でも!

イベントで使用された専用設計のオブジェは、それぞれが異なる触感を持つ。メタルとレザーの対比、ガラス球体とテラコッタの質感の違いは、シャンパーニュの多面的な特徴を理解する手がかりとなる。
残念ながら、この革新的なテイスティング体験は、今のところ一般向けには開放されていない。しかし、この手法が広く普及することで、多くの愛好家がシャンパーニュをはじめワインの新たな魅力に気づくきっかけとなるだろう。
家庭でも、金属製のスプーンや革製品、陶器、滑らかなガラス製品など、質感の異なる複数のアイテムを用意し、それぞれに触れながらシャンパーニュを味わってみてほしい。特にメゾン マムのシャンパーニュは、この方法で味わうことで、ピノ・ノワールの存在をより鮮明に感じ取ることができるはずだ。
触覚という新たな知覚の扉を開くことで、シャンパーニュの楽しみ方は、さらなる広がりを見せていくに違いない。
問い合わせ先

ペルノ・リカール・ジャパン
Tel.03-5802-2671
maison.mumm.jp@pernod-ricard.com

                      
Photo Gallery