Chapter5 テレビディレクター 藤村忠寿 インタビュー
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2015年3月16日

Chapter5 テレビディレクター 藤村忠寿 インタビュー

Chapter5

テレビディレクター 藤村忠寿 インタビュー

北海道テレビのローカル番組「水曜どうでしょう」。大泉洋、鈴井貴之という地元タレントとふたりのディレクターがおりなすこの一風変わった“旅バラエティ”は、1996年から6年間放送され、その間、道内のみならずネットで噂を聞きつけたほかの地域のひとたちにも人気は急速に広まった。やがて道外の多く地方局で再放送版のオンエアがスタート、番組終了後に発売されたDVDシリーズはオリコンチャートをにぎわす売れ行きを記録するという、前代未聞の出来事が起きた。

そのチーフディレクターである北海道テレビの藤村忠寿氏が劇的3時間SHOWに登場。会場をびっしりと埋め尽くした熱烈な“どうでしょうファン”が待ち受ける本番直前に行われたインタビューでは、番組づくりへの姿勢や、現在のテレビが抱える問題点などが語られた。その姿は番組に登場する「藤やん」そのものだった。

Text by OPENERSPhoto by Jamandfix

※本インタビューは約5000文字という長文となっております。
縦に長いページとなっておりますが話の流れを止めないための、あえての構成です。
読みづらい箇所などあるかとは思いますが、ご了承ください。

──藤村さん、すこしお顔が赤いようですが……

あ、(ビールが)出ていたんで、ついつい。

──(一同爆笑)

さてさて、取材ですね……。ところで、あなたがたは、いったいどういう媒体なんですか?

──オウプナーズというウェブマガジンです

そういえば、この前拝見しましたよ。坂本龍一さんなど参加されていて、かなり小洒落たモノをつくっていらっしゃるんですね。運営のほうはどうです? 記事はすぐにアップしないといけないから、大変なんじゃないですか?

──ウェブマガジンは基本的に毎日が締め切りのようなものですから。それこそテレビも大変なのではないですか?

テレビには50年というそれなりの歴史があって、みなさまの家に土足で踏み込む権利を持っているわけじゃないですか? これはやっぱり強いよね、メディアとして。ウェブの場合は読者が自分で入りこまなきゃいけないから、本当にいいコンテンツをつくらないと、(読者の獲得は)厳しいと思う。最近はテレビの人間が「インターネットに興味がある」なんていってるけれど、「馬鹿じゃねぇか?」と思っちゃうわけ。だからインターネットで何かをやる、ということならばやっぱり「中身」次第になっちゃうと思うんだよね。

──本当にいいコンテンツをつくるにあたって、大切なことは何でしょう?

感覚で勝負するしかないと思うんだよね。しかもその感覚というのは「経験」でしかない。たとえばクリエイターで面白いことを書く人をどう使えるか? という「使い方の感性」っていうのは、ある程度の経験が必要なんじゃないかな。

──藤村さんのなかで、読者や視聴者への「伝え方」にルールはあるんですか?

たとえば「100万人に伝えよう」なんて考えちゃうと、なにも出来なくなっちゃう。だから身のまわりにいる人、たとえば(インタビュアーを指差し)あなたとかに伝える感覚だよね。いまココにいる人を泣かせなさい、といわれたら、一晩あったら泣かせられる自身はある。俺はそういう感覚でモノづくりをしてる。でもそれが日本国民全員を──なんて話になったら、無理じゃない。“より多くの人を取りこむ”なんて雲をつかむような話を念頭におくと、番組づくりはいわゆるマニュアルでしかなくなっちゃう。

たとえば「どうでしょう」のHPは、俺がインターネット特有の「いろいろなページを行ったり来たりする行為」が嫌いだったから、見せる部分は1カ所でいいんだ、という感じでつくったんだよね。そこには、インターネットのページの定石なんてものは一切なかった。「これ、いいかもしれん」とか「これ見やすいよね」とか、(撮影担当ディレクターの)嬉野さんと俺が「面白い」と思ったことで進めてる。という感じかなぁ。

──たしかにそういう方法が一番「ブレない」し、なにより説得力がこめられますね。

そうそうそう、説得力がないと面白くもなんにもないよね。だから何をつくるにしても、俺はそういうやり方にしている。いまのテレビドラマを観ていると、やっぱり面白くない。なんか、白々しいんだよ、演出が。怒ったらすぐに若い俳優はモノを投げるし、泣きのシーンになると雨降ったり……「雨なんか降らんだろ!」ってね。その瞬間に「おかしい」と思っちゃうわけ。そんなんじゃ、ストーリーに入り込めないしね。演出家はそれが定石だと思ってるかもしれないけど、そんなの日常では起こりえないじゃない。だから、その反対をやりたいっていうだけなんだよね。
たとえば、誰かが泣いている絵を撮るとするじゃない。ドラマではずーっと寄ったりして俳優を映しつづける。それっておかしいんと思うわけ。だって、目の前で泣いている人がいたら、ふつう目をそらすでしょ。「あ、こいつ泣いてんじゃね?」とか。

だから俺の場合はそいつを撮ってなくてもいいんじゃないか、と思うわけ。その方が観ている人に「効く」と思うんだよね。
大体こういう話をすると、「そうっすよねぇ~」とか関係者は言うんだけど、結局現場では考えもなしに「ここは寄りですよね」となっている。そこを俺らは考えるんだよ。「はたしてここは寄るんだろうか?」とかね。

──ヘンな伝統的な定石がはびこってしまっている、と

テレビの歴史はたかだか50年だから、伝統とまで呼べるものじゃない。最初テレビは「映画に勝つ」というのがお題目としてあったわけだけど、現在はお笑いだからこう、とか、ドラマだからこう、という固定観念が多すぎる。今はこれが流行だとか、つくり手が考えなしにそういった部分に傾注しているよね。
よっぽどほかのメディアの人のほうが考えていると思う。危ないよなぁ、TVは……。でもテレビのつくり手としては、そんな状況でも「負けない」っていう自負もあるけれど。

──ウェブマガジンでも同じことがいえると思います。読者を飽きさせないためにはこうすればいい……と考えてしまいます

飽きさせないと考える時点でもう間違っていると思うんだよね。いや、人っていうのは、飽きるって(笑)。

「3時間SHOW」本番中の風景。嬉野氏とビール片手に語り合う。
ちなみに場面設定は「旅中の宿の夜」。

──でも実際、「水曜どうでしょう」は観ていてもまったく飽きません。

う~ん、10年前の映像見て、自分でも面白いからなぁ~。実際俺らがやっていることって、飽きる飽きないとかそういう観点ではないんだよね。あの番組はある意味「伝統芸能」だからさ(笑)。だからクルマでアメリカ横断したからといって、そのままレベルアップをしてしまったらいつか終了してしまう。その次は「温泉旅行2泊3日」とかでいいわけさ。伝統芸能なんだから。
大泉(洋)なんかは、現在30半ばな訳だけど、40歳のあいつも楽しみなわけさ。もうそれを考えるだけで、飽きないしね。「飽きさせない」と考えてしまうと、絶対番組づくりに詰まる。
まぁその姿勢が変わるとしたら、4人のうちの誰かが死ぬか(笑)、かな。

──レベルアップを目指さない、ということですか?

(またインタビュアーを指差し)こいつを笑かそうと思ってアメリカに行って撮影した、次は南極だ! って、本当はそうじゃないと思うんだよ。業界人って、すぐにレベルアップしたがるでしょ? でもこいつを笑かすのはもっと単純なんじゃないかということなんだよね。こういう世界入った瞬間に、なぜかみんなその「感覚」を忘れちゃっていると思う。

──実際「どうでしょう」の場合、海外企画の次はこう来るだろう、と視聴者なりに考えるんですが、意外とあっさり国内企画におさまっていたりして、いい意味でいつも裏切られています(笑)。

考えちゃいないんだもん(笑)。裏切るとか考えた事もないし。ただただ沖縄に行きたいだけで、企画考えちゃったりね。あなた方の気持ちなんか、知ったこっちゃないからさ(笑)。もちろん番組のために、多少のお笑いなんか入れたりはしますけどもさ。

──でもやっぱり僕らはそれで笑っちゃいます。

笑っちゃうわけだろ? さっきまで怒ってたやつが、笑っちゃったりしててさぁ。その方がいいじゃん、お互い。結局「人と人」なわけだから、モノづくりは。

──作家の方や、ジャーナリストの方が出来上がった原稿をまず編集者に見てもらって、その最初の感想、指摘には素直に耳を傾ける、というエピソードを聞いた事があります。お話を伺ってるとテレビ番組づくりもその関係性と似ているのかなぁ、と思いました。

2部に入ると、背景には「満月」が。心憎い演出。

うん、もう最初が肝心だね。じつは俺、映像なんかはもう計画も立てずに編集に入るんだよね、基本的に。普通は編集作業に入ると、素材を切って、構成を考えてなんて作業があるんだけど、そんなことは一切やらないんだよね。全部を見る事もしないんだよね。見始めて一本60分のテープをみたらもう作業に入る。最後のテープなんか見ないんだよ。

──え?

だから、絵をはじから描いていくような感じに近い。つくり手なんだけど、つくってみないとどうなるか分からない(笑)。

当日、大泉 洋氏より届けられたお祝いの花。というか、「すすき一本」。

──描く紙の大きさは決まってて、ですよね?

それも決まってない(笑)。一回の企画の放送回数は最初決めていないから。30分番組という枠組みはあるから、そこだけは何とかしなきゃとも思うんだけど、たまに45分に拡大することもある(笑)。どうしようもないときはね。
だから「初見で決める」というのは非常に大切にしていることだよね。その時点で考えすぎても、いいモノは生まれないと思うから。
考えるんだったら、企画をつくる時点で考え込んでる。それも会議ではなく、自分の頭のなかで。でも自分の頭のなかだけで考えてるから、アメリカ行ってもどこ行っても、実際とちがうことなんかはよくあるけど、でも俺は真剣なの(笑)。ものすっごい調べてんの。

──たとえ無謀な旅行日程でも?

「俺はいける」と思ってた(笑)。自信たっぷりにいって、でも最後に間に合わないとかなるから、出演陣からは「藤村くん、ちょっとおかしいんじゃないか?」とか言われて、もうぐぅの音もでないんだけど……。でもそういった部分も「水曜どうでしょう」の面白さにつながっていると思うんだけど。でも本当に、真剣なんだよ俺は(笑)。

その花をなじりながらも大泉氏に対する愛情を感じるつっこみに、場内は爆笑

──(笑)。やはりつくる側が楽しんでいるからこそ、それが観ている側にも伝わるんでしょうね

「楽しむ」というと、ちょっと自分のなかでは語弊があるなぁと思う。
やっぱり「熱」? 「熱」なんだと思うんだよ。それはちっちゃいことでいいんだよ。たとえば「行きたい」と思っている場所があったとする。そこに行きたいがために、いろいろなところで熱弁するわけ。ユーコン川をカヌーで進むなんていう企画があったけど、カヌーといえばあそこは聖地だからさ。行きたかったのよ。だからそのことを演者に熱を込めて説明するわけ。そうしたら大泉とミスター(鈴井貴之)は、「藤やんがそこまでいうんなら……まぁいいか」みたいな感じになるんだよ。つまり、きちっと熱をもっているやつがいるかどうか、だと思う。

──その「熱」の伝導ということになると、タレントふたり、ディレクターふたりの“どうでしょう班”は一体感がありますね

熱伝導率は高いよね。でも若干ひとり率が低い方がいらっしゃるかな。ミスターさんは、その熱がちょっと伝わりにくい時があるんだよね(笑)。大泉、藤村、嬉野なんてのは熱伝導率ががっちり固まっているんだけど、鈴井さんだけがちょっと冷めていることが、よくあるから(笑)。でもそうなると「違う料理」ができるときもあるから、それはそれで面白くなるんだけれども。
まぁだいたい最後のほうには、ほんわか温まってて「やっぱり行ってよかったでしょ」みたいな感じにはなってるけどね。

──(笑)。さて、2002年に「一生どうでしょうします!」と宣言されたわけですが、いま現在でその言葉はどのようなカタチで心にあるのでしょうか?

バラエティはもちろん面白いんだけど、ミスターは監督とかしたり、大泉は芝居を、という気持ちがそれぞれに芽生えてきててね。でもそれが普通だと思うし、当たり前だと思う。俺だってアニメーションや映画をつくってみたいとか、いろいろあるんだよ。

「水曜どうでしょう」が好きな人には必ず「新作、いつやるんですか?」なんて聞かれるけれども、どうでしょう班はにとっては「水曜どうでしょう」というのが半分あって、で自分のやりたい事が半分あって。たぶんそのバランスが揺れながら現在仕事をしていると思うんだよね。ここ2年は自分の事にバランスがちょっと寄っていたけれど、でも半分は必ずあるから。そっちに振れた瞬間には、また旅に行くだろうし。

一生やるというのは……、いや一生やるかどうかは分からんよ、実際(笑)。でもそれぐらいのスパンで考えていこうよって事になると、2年やっていないくても別に問題じゃない。これが「毎年続けます!」なんて言っちゃうと、やってないでしょってなっちゃうけど、以外と何も考えていないし、心配もしていないんだよね。
でも、「どうでしょう」にバランスの振り子が振れそうな気配は、口に出さなくても4人のなかではあるから。「一生やる」というのは嘘八百でも(笑)、自分たちのなかでは気持ちをそこに合わせたから、なんも心配してないし、このままやりつづけていくよね。スパンを長くみると、楽だよ、モノをつくるのって。

終止リラックスムードで行われた氏の「3時間SHOW」。
次々と注ぎ込まれるビールによるトイレタイムが数回ありました……

──そんな長いスパンのなかで番組をつくる上で、大切にしていることは?

「環境づくり」だと思うんだよね。納得できるためのモノづくりをするためには、まずは自分の周辺の環境を整えてからじゃないと出来ないからさ。「水曜どうでしょう」は本当に自由にやらせてもらえる環境を事前にまずつくったからね。

──事前に大泉さんには企画内容や行き先を一切教えない、という“大泉だまし”が、どうでしょうの魅力のひとつです。また新作で大泉さんが見事にだまされる姿、楽しみにしております

新作をつくるにしても、俺のスケジュールは重要だけど、大泉の予定なんて、一っ番どうでもいいから(笑)。まあ、あいつが一番忙しいんだろうけどさ。企画を考える時は、それは最低ランクの部類に入るね。
さすがに騙しゃしないと思うけど、行き先は伝えないよね(笑)。

藤村忠寿
ふじむらただひさ。1965 年名古屋生まれ。 90 年北海道大学卒業、 HTB 北海道テレビ入社。 96 年にチーフ・ディレクターとして「水曜どうでしょう」を立ち上げる。番組では、出演者の大泉洋との丁々発止のやりとりから、編集、ナレーションまで自ら手がける。 2002 年にレギュラー放送を終えたが、翌年から発売された DVD は現在までに 10 タイトル、計 200 万枚を売り上げた。同番組のほか、 03 年には劇団チームナックスと「水曜天幕團」を立ち上げて芝居の演出、そして今年、立川志の輔の落語「歓喜の歌」をドラマ化し、演出を手がけた。

水曜どうでしょう
北海道テレビ放送(HTB)が制作していたバラエティ深夜番組。1996年10月9日に放送が開始され、口コミやインターネット、DVD発売などでファンが全国に拡大。出演者 鈴井貴之と大泉洋、ロケ同行ディレクター 藤村忠寿と嬉野雅道。基本的にこの4人でかなり無謀な旅をし、その模様を放送する。ちなみにこの4人をくるめて、ちまたでは「どうでしょう班」と呼ぶ。2002年9月にレギュラー放送を終了。現在は再放送である「どうでしょうリターンズ」、「水曜どうでしょうClassic」、そして不定期で制作・放送されている新作も北海道をはじめ、全国各地で順次放送をしている。また、番組を再構成・再編集したDVD「水曜どうでしょうDVD全集」も現在順次発売中。

『劇的3時間SHOW』 藤村忠寿氏 ビッグパネルをプレゼント
への応募は2008年12月12日(金) で締め切りました。当選者さまには、送り先などをご連絡させて頂きます。多くのご応募ありがとうございました。(オウプナーズ編集部)

           
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