TRAVEL|広州ファッション紀行
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いま中国で最もエネルギッシュな街の最新情報!
広州ファッション紀行(1)
目覚ましい発展を続けるアジア。その象徴ともいえる国が中国だ。北京、上海の賑わいはなじみ深いが、中国本土における第三の都市・広州もまた、エネルギー溢れる街。1980年代から経済的にも文化的にも、急速な発展を遂げてきた。街を車で走れば、伝統を誇るこの古都にも近代的な建築が立ち並び、国際化の波が押し寄せていることがよくわかる。
そんな広州は、昔からテキスタイルの産地として世界のファッション界を陰で支えてきた場所。そこでいま、ファッションを足掛かりに、世界の主舞台に飛び出し、その存在感を示そうとしている。
Text by MAKIGUCHI June
デザイナーが育つ理由
香港から陸路で2時間程度、東京からも空路で5時間程度と、古都・広州は中国における南の玄関口でもある。ここは、昔から絹・麻・綿などの繊維工業が盛んだ。いま、広州はこの伝統を武器に、大きく躍進しようとしている。
その躍進の中心的な役割を果たし、最も注目されているのが、2010年にオープンしたT.I.T (Textile Industry Tag)クリエイティブ・インダストリー・ゾーン(※1)だ。かつて、テキスタイル工場だったこのテーマパークでは、当時の面影を堪能しつつ、現在の中国ファッション事情を垣間見ることができる。緑溢れる広い敷地のなかには、ファッショナブルなカフェやレストランも集まるが、ぜひ訪れてほしいのが、セレクトショップ「THE FASHION DOOR(一尚門)」(※2)。ここには中国人デザイナーによる作品が中心となっている。
広州には、ファッション業界の近くで育った人が多いせいか、海外でデザインを学び、経験を積んだのち故郷に戻り、世界的な活躍を目指す若きデザイナーも少なくない。同ショップで扱われている2011年設立のブランド「RICOSTRU」(※3)のデザイナー、マンチット・オーもその一人だ。イタリアでデザインを学んだ彼女の拠点は、故郷の広州。ラグジュアリー・ベーシックというコンセプト、シンプルでエレガントななかにも洗練されたディテールを施すデザイン力を武器に、時代や文化を超えた新時代の中国デザインの可能性を発信している。
じつは、T.I.Tはこのように、新世代のデザイナーたちにとっても重要な存在なのだ。2012年からは、この場所で国際的なファッションウィークとファッションアワード「T-FORCE」(※4)を開催し、いずれも成功を収めている。
T-FOCEは、中国ではじめて独自に企画されたファッションコンペティションで、世界中から才能ある独立系デザイナーを発掘するプロジェクト。応募者のなかから選ばれた10組で最終選考に臨み、優勝者には、パリに本社を置くプレスエージェンシー「TUDOO」により、パリのファッションウィークにおけるトレードショーへの参加や、メディアへのプロモーション、バイヤーとの取引交渉などの支援が受けられる。ちなみに今年、日本人デザイナーを含む最終候補者から優勝を果たしたのは、ノヴァ・チュウ(中国)とジェフリー・M・アーチャー(米国)による「Nova Chiu」。彼らの将来同様、今後、世界のファッション・ビジネスのなかで広州がどんな存在感を示していくのか、要注目だ。
※1
T.I.T(Textile Industry Tag)クリエイティブ・インダストリー・ゾーン
397 Xingang Zhong Road, Haizhu District, Guangzhou, Guangdong, China
+86-20-8422-1810
http://cntit.hkctc.org/
※2
THE FASHION DOOR(一尚門)
B3 Building, 397 Xingang Zhong Road, Haizhu District, Guangzhou, Guangdong, China
+86-20-3441-5170
http://www.tfd.hk/
※3
RICOSTRU
http://www.ricostru.com/en/bio.html
※4
T-FORCE
http://www.tudoo.cc/TFORCE/2013/index_en.html
TRAVEL|Wホテルが注目
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広州ファッション紀行(2)
日本車から食、デザインホテルまで
広州に向かう飛行機に乗って、驚いたことがひとつある。それは、日本人ビジネスマンで満席だったということだ。じつは広州には、日産、トヨタ、ホンダなど日本の大手自動車メーカーが工場を持つ。観光地としてはまだ馴染みの薄い地名だが、私たちの生活と深いかかわりを持つ土地なのだ。
知ってみれば、魅力は多い。「食は広州にあり」と言われるほどに、ここは広東料理の歴史的中心地にして世界的本場である。街の中心部からそう遠くないところにゴルフ場もある。そして、カントンタワー、広州オペラハウス、リーデ橋、新図書館、国際金融センターなどの斬新な建築群、珠江沿いの風景も魅力だ。
もちろん、繊維工業の伝統に由来する、ファション・パワーも気になるところ。去る5月16日には、世界が注目するあるブランドの2013AWコレクションが広州で発表された。そのブランドとは、「YMOYNOT」。日本が誇るヨウジ・ヤマモトと、中国の国家主席、習近平夫人も愛用する広州ブランド「EXCEPTION」のデザイナー、マオ・ジ・ホンと、香港の有名デザイナーであるスタンリー・ウォンとのコラボレーションにより生まれた新ブランドで、名前は、ファッションにおけるチャレンジ精神を表現した、“why not?”に由来しているという。すでに一号店が広州のGRANDVIEW MALL(※1)にオープンしている。コレクション会場には山本耀司氏も駆けつけ、ゲスト達が熱狂する一幕も。ショーは大成功をおさめ、山本氏が中国本土でも支持されていることを肌で感じるイベントとなった。
じつは、このファッションショーは、中国本土初進出となるホテルブランド、W広州(※2)のオープニングに合わせ、地元のファッション業界への功績に敬意を表して同ホテル内でおこなわれたもの。Wホテルのブランド・マネージメント・シニアディレクターのアルノー・シャンパーニュ氏は、オープニングイベントの目玉として開催されたファッションショーについてこう話す。「世界的に有名なヨウジ・ヤマモトは中国でもスターです。25年にわたりファッションアイコンだった伝説的人物ですから、すでに地位を確立されたデザイナーですが、今回は、あたらしいブランドをアジアのデザイナーとのコラボレーションで生み出しました。これは興味深い話題だとおもいますね」
話題性について言えば、広州にWホテルが誕生したことも大いに注目を集めている。Wホテルといえば、1998年にニューヨークはレキシントンアベニュー49丁目で生まれた、デザインホテルの先駆者といえる存在。眼に見えるスタイリッシュな部分だけでなく、大きな特徴となっているのが、スタッフ全員が共有している“ゲストに、エクストラオーディナリーな経験を提供したい”という確固たるこだわり。そこから生まれる、洗練されているのに温かみがある“Whatever/Whenever”サービス(24時間のリクエスト対応)によって、ホテルを“休息するだけの空間”から“居心地のいい特別な場所”へと昇華させているのだ。
旅行者にはもちろんのこと、地元の人々にとっても刺激的な社交の場へと変えたのもWホテルだが、そこには、FASHION、DESIGN、MUSICという3つの言葉に代表される独自のアプローチがある。この3つが、豊かなライフスタイルの確立に欠かせない要素だと考えているWホテルは、ホテルの随所にその価値観を反映させている。エクステリアとインテリアにこだわり、館内で流れる音楽はすべてグローバル・ミュージック・ディレクターがキュレーションすることで、ゲスト達にはそこに居ることを最大限に楽しむために思い切りファッションを楽しみたいという気持ちにさせるのだ。Wホテルの価値観は、各分野でユニークなコラボレーションをおこなっていることにも表れている。
※1
GRANDVIEW MALL
228 Tianhe Road, Tianhe, Guangzhou, Guangdong, China
Tel. +86-40-0706-6633
http://www.zhengjia.com.cn/
※2
W広州(W GUANGZHOU)
26 Xian Cun Road, Pearl River New Town, Tianhe District, Guangzhou, CNGP 510623 China
Tel. +86-20-6628-6628
http://www.starwoodhotels.com/whotels/
TRAVEL|Wホテルが注目
いま中国で最もエネルギッシュな街の最新情報!
広州ファッション紀行(3)
コンセプトは“グローバル・タペストリー”
例えばWホテル、明日のファッション界を担うデザイナーたちを応援する「FASHION NEXT」というプログラムを立ち上げたり、NYのファッションウィーク中にはNYでイベントを実施したり。デザインの分野では、マイアミデザインと協力し、常識を覆すほどの本物のデザイン力を求める「W Hotels Designers of the Future」アワードを設立。そして、音楽の分野では、未来を担うDJたちを世界中から集めた「W Hotels & burn studios DJ Lab」を開催している。
あたらしい才能を応援しその育成に大きく貢献しているのも、この3つの分野をとても大切にしているWホテルならではのカルチャーだと言えるだろう。ここは、例え自宅から遠く離れた異国にいても、スタイリッシュで洗練された都会的デザインのなかで、自分らしいファッションを楽しみ、心を高揚させてくれる音楽に身をゆだねたいという人のための場所なのだ。
そんなWホテルが、中国本土初進出の場として、北京や上海に先駆けて、広州を選んだのには理由がある。「広州は、上海や北京に比べて少し知名度は低いかもしれません。でも、ここは西洋と東洋が行き交うクロスロードのような場所。中国本土に本格上陸するためには、素晴らしい場所だとおもったんです。ですからW広州のコンセプトも、“グローバル・タペストリー”とし、さまざまな文化から影響を受けたデザインを随所に散りばめ、中国・広州が持つエネルギーあふれる個性を表現しました」とシャンパーニュ氏。「ここには独自のデザインコミュニティーがある。そして伝統を持ったトラディショナルな街でもある。そこに惹かれました。中国のパワーも感じられるんです」
歴史ある京劇の舞台や魅力的な点心のティーハウス、骨董品店が立ち並ぶ伝統的な一面と、急成長を遂げる新都市としての一面が交差するユニークな広州。伝統を持ちながらも、あたらしい風を歓迎するオープンな気質、香港や台湾と似た国際都市ならではの空気、そして、いままさに成熟しつつあるところもWホテルの興味を引いたのだろう。「常にパイオニアであろうとすることが大切」ともシャンパーニュ氏。「Wホテルに興味を持つ人々が国内外から集まってくることで、“クリエイティブ・エナジー・センター”としての役割も担うことができる。私たちには街の雰囲気さえ変える力があるとおもっています」
ホテルというメディアを通して、常に新たなトレンドを生み出してきたWが進出したことで、広州が注目に値すべきユニークな街であることは世界に印象づけられたといえる。広州という街の未来は、これからますます面白くなっていきそうだ。