INTERVIEW|みうらじゅん「勝手に観光協会」単独インタビュー(前編)
Lounge
2015年3月5日

INTERVIEW|みうらじゅん「勝手に観光協会」単独インタビュー(前編)

みうらじゅん独占単独インタビュー
「勝手に観光協会」のこと、旅のこと、安齋さんのこと(前編)

“マイブーム”の命名者として数々の“マイブーム”を世間に広めてきた不動のサブカルキング・みうらじゅんさんと、ソラミミストとしても知られるイラストレーター・安齋肇さんが日本各県を勝手に視察する「勝手に観光協会」も、今年でユニット結成12年目を迎えます。2008年末に安齋さんの手による全都道府県のポスターが完成したのを記念し、そのポスターを集めた「みうらじゅん&安齋肇の勝手に観光ポスター展」が、8月16日(日)まで、入場料無料で好評開催中。
そもそも「勝手に観光協会」とは何なのか、彼らはどこを目指すのか、みうらじゅんさんに話を聞きしました。

文=津島千佳写真=原恵美子

悲壮感のない旅番組をつくるには、悲壮感のない安齋さんが必要だった

──「勝手に観光協会」をはじめたきっかけはなんだったんでしょうか?

最初は気仙沼ちゃん(「欽ちゃんのドンとやってみよう」に出演していた一般女性)に会いたくて、雑誌の「月刊アスキー(旧アスキー)」の企画で宮城県へ行ったんですね。
彼女は旅館経営者と結婚して、そこで働いてるんだけど、アポなしで行ったにもかかわらず刺身の舟盛りとかごちそうが出て、びっくりするほどの接待を受けて、そこで味をしめたんですね、何のアポも取らずに行くことに(笑)。

最初に訪れた宮城にて

──安齋さんとコンビを組もうと思った動機は?

「月刊アスキー」からはじまって、「モダンリビング(アシェット婦人画報社)」、「ノンノ(集英社)」で連載したあと、CS放送がはじまったんですよ。雑誌だと毎回2400文字くらい原稿を書いてたけど、「どこそこへ行った」くらいしか書けなくて。「勝手に観光協会」のおかしさは、文章じゃ伝わりづらいんですよ。映像のほうが向いてたんですよね。

それに旅番組にも興味があって。テレビの旅番組って、どこか悲壮感があるじゃないですか。それがおもしろかったし、興味深かったんですよ。それでまったく悲壮感のない旅番組をやってみたくて、だったら安齋さんしかいないだろうと(笑)。
安齋さんも俺にも悲壮感はないし、第一、ブレイクしたこともないからサウダージなしの旅行番組ができるんじゃないか、って。

──各都道府県のポスターやご当地ソング、マスコットキャラをつくることは当初から決まっていたんですか?

その3点は、観光協会には欠かせないものだと考えていましたけど、たまたまなところもありますね。
ポスターは、最初に行った気仙沼のあわびの形状があまりにもやばいってことで、「あわビンビン」ってポスターをつくろう、ってことからはじまってるんです(笑)。しゃれにならないこともおもてに出していこう、と。

ご当地ソングも、高校のころ旅行に行ったら曲をつくって録音してたのを、気仙沼で楽器屋を見かけて思い出してね。そこでギタレレ買って、オカリナもアスキーの編集者がくれた1万円のなかで買える範囲だったから、500円くらいのを買って、吹いたこともない安齋さんにむりやりやらせてね。

──気仙沼から足かけ12年かけて、日本を一周して、達成感はありますか?

曲ができた瞬間は、毎回達成感がありましたね。ロケの2日間、視察という名目で旅行して2日目の夜にばーっと作詞作曲やるから、かなりのプレッシャーなんですよ。まぁ、はじめから頼まれてないですけどね、ご当地ソングなんて(笑)。

ビートルズから夫婦になれたことがすばらしい

──全都道府県をコンプリートしたから、初のポスター展開催という感じなんですね。

コンプリートの瞬間は「タモリ倶楽部」で紹介したので、安齋さん担当のポスター展も、ということですね。本来なら俺じゃなく、安齋さんがここで喋るべきことなんですけど(笑)(※編集部注:もともと安齋さんもこの取材に同席予定だったが、急遽参加できなくなった)。
僕らは勝手に旅行してるだけなんで、お金はとれないだろうということで入場料は無料です。

──会場限定のグッズもあるとか。

視察中にもよくやってる“メダリオンのメダル”を、メダリオンの会社でオリジナルをつくってもらいました。1個500円ですね。それと、受注生産で各都道府県のポスターをプリントしたTシャツも販売します。
出身県のTシャツを着るって、いいことだと思うんですよ。みんな“郷土LOVE”を捨てて東京に出てきたつもりだけど、高校野球だと地元の高校を応援しちゃう。捨てたもんじゃないですよ、郷土LOVEも。

──全都道府県を回られて、一番おもしろかった場所は?

どこもおもしろかったですよ。おもしろくなくて1泊で帰ったこともあったけど、それもおもしろかった。
“おもしろい”って思い込みだから、自分を洗脳すれば操作できるんですよね。おもしろくないって感想は、受け身だから出る考えで。俺らはいつもぶち当たってるんで、つまらないってことがないんですよ。

──「勝手に観光協会」はつくり込んでないから、撮影した時期にかかわらず、今観てもおもしろいんですよね

素のままが出てますから。本当においしいものを食べてるときって、真剣な怖い顔になりますよね。だから料理も一切美味しそうに食べてないし。
それにだんだんと体型が“おばさん化”してるんですよ。鳴門の渦潮を見るために乗った船で、何十人もの中学生からサイン求められたことがあってね。なぜかビートルズとまちがえられたんですよ(笑)。メンバーじゃなくて、ビートルズにね。船の中で逃げられないから、ビートルズってサインしましたけど。途中で引率の先生が「ビートルズさんは忙しいから、ここまで」って止めにきて、「おまえもそう言うのか!」って。

そのあとの旅行で安齋さんと温泉に入っていたら、あとから入ってきたおっさんに「混浴かよ」って言われて。おばさんだと勘違いされたんですね。
こないだは土産物屋に入ったら、安齋さんが髪切ったこともあって店のおばさんに「ご夫婦?」って聞かれましたよ。ひとって時間が経つと、性別も超えていくんだな、と。

──12年でビートルズから、夫婦ですか(笑)

安齋さんはよく「ソラミミだ」って言われるから、俺はサングラスだし、タモリさんと思われてるかもしれない。
東京でもなんだかよくわからない状態の2人が、田舎に行ってさらにわけがわかんなくなるのが「勝手に観光協会」のおもしろさだと思うけど、それだけじゃなくて“安齋さんがいかにおもしろいか”も広めたいんですよ。親友がおもしろいっていうのを、みんなに見てほしいんです。
だから俺個人としては、安齋さんがつくったおかしいポスターを見てもらう展覧会でもあるわけなんですよね。

「勝手に観光協会」のこと、旅のこと、安齋さんのこと(後編)へつづく

みうらじゅん&安齋肇の勝手に観光ポスター展
会期│2009年8月16日(日)まで開催中
時間│12:00~20:00
会場│LAPNET SHIP
入場料│無料

LAPNET SHIP
Tel. 03-5411-3330
http://www.lapnet.jp/

© 2009色即ぜねれいしょんズ

映画『色即ぜねれいしょん』
8月15日(土)シネセゾン渋谷、新宿バルト9、吉祥寺バウスシアターほかにて全国公開
原作│みうらじゅん『色即ぜねれいしょん』(光文社)
監督│田口トモロヲ
脚本│向井康介
音楽│大友良英
キャスト│渡辺大知(黒猫チェルシー)、峯田和伸(銀杏BOYZ)、岸田繁(くるり)、リリー・フランキー、堀ちえみ、臼田あさみ、石橋杏奈ほか
http://shikisoku.jp/

青春×旅×音楽、僕らの世界が少しずつ変わりはじめる
僕の名前は乾純。京都の仏教系男子校に通う高校一年生。友達には「イヌ」って呼ばれてる。ボブ・ディランに憧れてる僕は、ロックな生き方を目指してるけど、学校では文科系は肩身が狭いし、家では優しすぎる両親が心配してくれるし……ロックとはほど遠い平凡で退屈な日々に悶々としていた。あの夏休みまでは……。
「フリーセックスの島行かへん?」。友達のその一言から僕の世界が少しずつ変わりはじめる。ギターケースと旅行バッグを手に夜汽車とフェリーを乗り継いで向かったのは、隠岐島。そこで僕らを待っていたのは……。

           
Photo Gallery