️【徳尾隆昌の偏向性コレクション Vol.3】アメリカンデザインのスタンダード。STARTERは「ユースLサイズ」が好み。
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2026年7月15日

️【徳尾隆昌の偏向性コレクション Vol.3】アメリカンデザインのスタンダード。STARTERは「ユースLサイズ」が好み。

 

LOUNGE|【GREAT CONNOISSEURS】徳尾隆昌 偏向性コレクション

 
CONNOISSEUR(コノサー)とは、目利きや鑑定家を意味する言葉。ここでは、音楽・サブカルチャーから、インテリア、乗り物、ファッションなど、幅広いコレクションを誇るグレート  コノサーの徳尾隆昌さんをフィーチャー。彼が所有する膨大なアイテムの中から、毎回ひとつをPICK UPして掘り下げていく。
 
 

Text by TOMIYAMA Eizaburo|Photographs by TAKAYANAGI Ken

積み上げられたSTARTER(スターター)のビンテージサテン生地のスタジャンは100着以上。
 
NFL、NBA、MLB、NHL──アメリカ4大スポーツのチームロゴが並ぶその光景は、まるでスポーツショップのバックヤードのようだ。しかし徳尾さんは、その山を前にして平然と言う。
 
「それでもまだまだ未知の色、ロゴタイプやデザインがたくさんあります」
 
 
蒐集した数だけを聞けば熱狂的なスポーツファンを想像するかもしれない。だが徳尾さんは、野球もバスケットボールもアメリカンフットボールもアイスホッケーも、好きな球団があるわけでも試合結果を追いかけるわけでもない。
 
ではなぜ、コツコツとSTARTERのスタジャンを集め続けているのだろうか。その答えは、まったく別のところにあった。
 

1980〜90年代、アメリカのストリート文化の象徴だったSTARTER

 
STARTERは、1971年にアメリカで誕生したスポーツアパレルブランド。1980年代から90年代にかけて、NFL、MLB、NBA、NHLといったアメリカ4大スポーツリーグの公式ライセンスを次々と獲得していった。チームロゴを大胆に配したジャケットは、スタジアムへ通うスポーツファンだけでなく、ヒップホップカルチャーとも結びつき一時代を築いていく。
 
今も昔もアメリカにおけるスポーツは地域文化そのものだ。週末になれば地元チームを応援し、街の人々が同じ色を身につける。STARTERは、そんな熱狂を象徴するプロダクトでもあった。
 
 
そういったアメリカらしさを加味したうえで、徳尾さんは違った文脈で価値を見出している。
 
「とりわけ初期プロダクトにおける独特のサテンの素材感やツヤ、色彩、加えて時代を反映する各チームの個性的な書体やワッペンなど興味深いデザインですよね」
 
️スポーツやチームよりも、単純にファッションアイテムとして、素晴らしいプロダクトとして感じていた。それがすべての始まりだった。
 

STARTERは、ボーイズサイズでタイトに着る

 
STARTERと聞けば、多くの人はオーバーサイズを思い浮かべるだろう。90年代のヒップホップカルチャーを彷彿とさせる、ゆったりとしたシルエットでの着こなし。まさに現在に繋がるファッションアイテムだ。
 
ところが、徳尾さんの着こなしはその真逆をいく。
 
「僕は小柄ということもあり自己の嗜好性とも相まってビッグサイズを敬遠しがち。自分らしい雰囲気を出すためには60sあたりの空気感でタイトめで着てみようかな、と」
 
 
彼が探したのはユースのLサイズまたはアダルトSサイズ。
 
人気チームかどうかではなく、まずはサイズを見る。丈は短く、少しベルトのバックルが見えるくらいが理想だという。
 
「結構短丈になるんだけど、それがとても良いバランスなんです」
 
その感覚は、エディ・スリマンのジャケットを初めて着たときに近いらしい。
 
「袖丈も足りずこれでいいのか? ってサイズ感なんです。お店の人が『おすすめしませんよ』ってサイズをあえて着たいわけです(笑)」
 
 
️細身のジーンズに足もとはコンバース。徳尾さんが思い描いているのはサイズ感以外古き良きアメリカの極めてスタンダードなスタイルだ。
 
「このスタジャンを着て、ギンガムチェックのシャツにタイとかして、ホワイトジーンズをはいたらプレッピー。上品なアメカジですよね」
 

「基本」を知って自由になれる

 
「今までいろんなモノに興味を持ちましたけど、最初はやっぱりファッションです」
 
『Made In USA Catalog』や雑誌『POPEYE』などを読みながらアメリカの西、東それぞれのカルチャーに憧れ、ずっとブルックス・ブラザーズやJ.プレス、VAN JACKETに親しんだ。
 
「基本はIVYでした。むしろそれしか選択肢がなかったから」
 
その後、パンクカルチャーやデザイナーズを経てストリートやモードへと興味は広がっていく。
 
️「僕らの世代は、まず基礎的ルールや完成されたスタイルの読み込みがあった」
 
当時の日本は、カジュアルウェアの歴史がまだ浅かったこともあるが、ファッション誌が洋服の基礎知識から知っておくべき定番ブランド、着こなし方法を毎号のように紹介していた。まず基礎を知ったうえで、応用へと向かうようにできていた。それはファッションも音楽も同じだという。だからこそ、大人になってからは流行に振り回されることがない。
 
「オーバーサイズが主流でも、似合わない僕はピッタリサイズを継続して。(笑)」
 
人と逆を行くためではない。自分はどんなものが似合うのか、正解を知っている証拠なのだ。
 
カウボーイズ(NFL)もタイトに着ると印象が大きく変わる
 

アメリカの野暮ったさは素朴で美しい

 
徳尾さんがSTARTERに惹かれる理由は、何かと“湿度がお高め“の日本からは生まれてこない色彩やデザインにある。
 
日本で人気があるのは、ヤンキースのネイビーやドジャースのブルーのような比較的取り入れやすい色だ。しかしSTARTERの世界は、それだけではない。
 
レイカーズのイエローやパープル。49ersのゴールドとレッド。キングスのサックスブルー。フィリーズの深いバーガンディ。
 
「発色の良いレイカーズのパープルとか新鮮でしょ? 極め付けは49ERSだよね、ロゴのデザインとかカジノのフォントにしか見えないし(笑)」
 
いまでは見られない、キングス(NBA)のスタジャンにピンクのテンガロンハットを合わせると強烈なインパクトを放つ
 
かつて日本でも高い人気を誇った49ers(NFL)。QBのジョー・モンタナは日本のTVCMにも起用されたほど
 
 
確かに新鮮だが、同時に少し野暮ったい。どんなところが魅力なのか。
 
「ど定番、スタンダードでイモっぽいのが好みなんですよ。大好きなジャージでもそう。イモっぽさを着こなすのが楽しい」
 
少しとっつきにくく、少しエモくて、少し“イモい”。けれど、その大らかさが個性的で新鮮に映る。最初に買ったアストロズのスタジャンもそうだったという。
 
「リブの配色とか、なんとも言えないツラさがあるでしょ? これがたまらなくて(笑)」
 
昭和を感じさせる配色が魅力のアストロズ(MLB)のリブ
 
オレンジとイエローのリブ。サテン生地の艶。大胆なロゴ。地方都市のスポーツファンが週末に着ていたはずの空気。STARTERには、そんな古き良きアメリカの自由で底抜けに明るい景色が残っている。
 

あまり服を服として認識してないかも

 
今回の取材で最も印象的だったのは、この言葉だった。
 
「僕は服をいわゆる服として買わないことがよくあります」
 
普通、人は服を着るために買う。似合うかどうか、合わせやすいかどうか、手持ちの服との相性はどうか。そんなことを反芻しながら服を眺める。しかし徳尾さんは違う。
 
「素材やデザインや成り立ちを考えながら服もひとつのモノとして感じる傾向が強く、自分に似合わなくても欲しい気持ちが優先することもある」
 
キングス(NBA)のベイビーブルー色は滅多に出ない代物。Kingsのロゴのiのデザイン違いにも注目!
 
その顕著な事例がマルタン・マルジェラとの出会いだった。アイデアが面白いから買う。コンセプトに惹かれるから買う。ディテールへの興味で買う。手仕事による古着の再構築が素晴らしいから買う。けれど、自分には全く似合わないとわかっている。だからほとんど着なかった。
 
矛盾しているようだが、徳尾さんにとっては至極自然なことだ。面白く、クリエイティブなプロダクトだから所有したい。ただそれだけなのである。STARTERも同じだった。唯一違ったのは、自分らしく着られることだった。ユースLサイズ/アダルトSサイズ。それをIVYの文脈で着た瞬間、徳尾さんの中でSTARTERは単なるスポーツウェアではなくなった。
 
デッドストックやほぼ新品に近いコンディションしか購入しないのも徳尾流。それはすべてのコレクションに通底している
 
モノとして惹かれている点は、細部にある。
 
多層構造になっている立体的な刺繍/配置が絶妙なワッペン/意外性のある色の組み合わせ/デザインの良いネームタグ/アルミ無垢のスナップボタン・・・・。
 
「STARTERはしっかりとした刺繍もいいし、絶妙なサイズ感のワッペン使いもうまいし、何より当時のサテンは生地が厚くて軽くて風合いもいい」
 
そう言って見せてくれたジャケットには、ファンが後から入れたと思われる刺繍が施されていた。
 
「このネームの入れ方とかチームに愛がある。決して狙っていないセンスで現代のデザイナーが真似しそうになるくらい。あとタグのデザインも良いですよ、MLB公式マークの使い方がうまかったり。NBAのワッペンがポケットの枠に位置するのも絶妙」
 
レイダース(NFL)の立体的なレタードロゴの下に、ファンが入れたと思われる刺繍
 
NBAのスタジャンはサイドポケット部分に大き目の公式ワッペンが取り付けられている
 
裏地の配色やスナップボタンにも目が向く。
 
「いまは鉄のメッキボタンだけど、昔のスナップボタンは鈍いアルミ製ですから」
 
アルミの無垢が使われているスナップボタン
 
さらに年代によっても違う。1980年年代のモデルは今よりアームホールがだいぶコンパクトでユースLやアダルトであればさらにスッキリと着こなせる。しかし、現行品に近づくにつれサイズも大きくなり、素材のサテンも高級化し当時のものとは随分と雰囲気も変わる。
 
日本ではあまり見ることのできない鮮やかなイエローの裏地
 
復刻もされているが、徳尾さんは興味を示さない。
 
「サイズ感が全然違うんですよ。現代のものはサテン生地も薄くて軽いうえに艶があって柔らかい。当時も今くらい艶々にしたかったのでしょうけど、技術的にできなかったんじゃないかな。でも、昔のものの量感がいいですよね」
 
同じエンジェルスでも文字間が違う。同じ年代でも作りが微妙に違う。
 
「ミシンを担当するおばちゃんの気分次第みたいな感じ。おおらかで素敵」
 
そう言って笑う。
 
上下のスタジャンを比較すると、Angelsの文字間が違うことがわかる
 
️「同一量産品が原則の服なんだけど、いろいろなところを細かく追っていくとまるで手工芸品のように見えてくるんです」
 
それが集めたくなる理由。
 

ファッションは自由を表現する手段

 
ある日、徳尾さんは犬の散歩中に青山のショップ「ゴダール ハバダッシェリー」の前を通りかかった。ふと店内を見ると、閉店後の店主である笹子さんが小さなサイズのセルティックスのSTARTERを着ていたという。
 
「STARTERのスタジャンを過度に小さなサイズ感で着ている方を初めてお目かけして(笑)」
 
翌日笹子さんにその話をすると、こう言われたという。
 
「人気のないスターター、しかもサイズ感を気にされる方と初めて会いました(笑)」
 
サイズ感やディテール、独自のスタイルにこだわりぬく店主は元コム・デ・ギャルソン出身で、ドーバーストリートマーケットのバイヤーも務めた人物だという。
 
「同じ嗜好の人はいるんだなと。でも今のところ仲間は一人だけです(笑)」
 
誰も欲しがらないものを買う。誰も見ていないものを見る。で、自分なりにそれを楽しみ尽くす。そこが徳尾さんらしい価値観。
 
「おじさんのショートパンツがアリかナシかの論争があるでしょ? そんなことどうでもいいですよ。逆に、つけすね毛とか、フェイクファーのタイツをはいちゃえばいい。そのほうが面白い」
 
 
人の目は気にしない。流行も気にしない。高級品も日用品も同じ目線で。
 
「ファッションは自由を表現する手段のひとつだから」
 
その言葉どおり、今日も徳尾さんは自分だけの審美眼を頼りに街を歩く。
次に見つけるモノも、誰も見向きもしない逸品になりそうだ。
 
 
 
徳尾 隆昌(とくお たかまさ)
代官山UNITオーナー、イベントプロデューサー、アートディレクター。海外有名ブランドのアートディレクション、CDジャケットや企業ロゴ、イベントのグラフィックデザインなどを幅広く手掛ける。一方で、東京の音楽・カルチャーの発信地「代官山UNIT」のオーナーとして数多くのイベントをプロデュースし、音楽シーンを牽引し続けている。類まれな審美眼を持つ「稀代のコレクター」としての顔も持つ。特にファッションのアーカイブは世界有数の規模を誇り、初期マルタン・マルジェラなどの歴史的価値の高いアイテムを多数所有。現在は自身のコレクションを共有するプロジェクト「C to C」も展開するなど、多岐にわたり活躍している。
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