第53章 長く続く超低金利政策とひずみ
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2015年5月7日

第53章 長く続く超低金利政策とひずみ

第53章 長く続く超低金利政策とひずみ

文=今 静行

ゼロ金利の思い入れに要注意

日本の超低金利政策(ゼロ金利政策)は十年以上もつづけている。要するに金利をゼロ水準並みの超低金利にすれば、住宅や企業の設備投資が活発になるし、企業は安い金利で融資をうけ生産を増やし輸出にも精出するという考え方である。
なんだかいいことづくめのような気がしてならない。すべての事象に当てはまることだが、光だけでいっぱいとか影だけがすべてということはない。
光があれば必ず影があり、影があれば必ず光がある。ゼロ金利政策でいえば、おカネを借りる側にとっては光そのものである。

銀行もタダ同様で預金を集めるので光そのものである。
一方、影の部分は預金者(家計、個人)である。預貯金者は貯蓄しても利息がつかないのだから、一国の経済活動にもっとも影響力をもつ個人消費支出が増えないのは当然である。ゼロ金利水準をこれだけ長期間にわたってつづけても景気は全然よくなってない。
この事実を知るだけで十分だと思う。あれこれ改めて説明することもないだろう。
アメリカをはじめ欧米の先進国は国債の利子を含め預金にはそれなりの金利をつけている。せめて諸外国並みの金利水準に日本も右ならえすべきだろう。

より本質的な問題に気づくべきだ──供給過剰の住宅と金利

超低金利については消費にブレーキをかけるよりも、もっと本質的な問題がかくされている点に気づくべきである。わかりやすいひとつの例を指摘しておきたい。供給過剰がつづく日本の住宅事情にスポットを当ててみよう。

最初に次の数字をしっかり頭に入れてほしい。世帯数4700万、住宅戸数5400万戸。
総務省「住宅・土地統計調査報告(2003年時点)」にある数字である。

さらに気になることは、全国の住宅総数のうちざっと700万戸、13%もひとの住まない「空き家」になっている事実である。
100戸のうち13軒は空き家ということである。住宅数と世帯数の推移を総務省の統計で見ていくと1978年(昭和53年)までに262万戸も住宅が世帯数を上回っていた。つまり30年も前から供給過剰になっているということだ。

あり余っているものは安くという経済のメカニズムから言うと……

そういえば、新聞に折り込まれてくる分厚いチラシの9割はマンション、一戸建てなどの物件情報だし、家庭には毎日のように住宅購入を薦める電話がガンガンかかってきている。業者の激しい売り込みは追い詰められている感じさえする。
このような供給過剰のなかで新築住宅は年間100万戸以上も建てられてつづけている。
あり余っているものは安く、品不足気味のものは高くという経済のメカニズムからいえば、住宅は下がることはあっても、上がる余地はごく例外的な地域、たとえば都心部を除いてほとんど期待できないと受け止めるべきだろう。

金利を低くすれば景気回復につながる──とんだカン違いだ。

話を本筋にもどそう。一口で言うなら、超低金利なら景気押し上げにプラスになるというひと昔前のとらえ方をいつまでも引きずっていては“ノー”ということにつきる。
この点にはやく気づいてほしい。いくら金利が安いといっても、あり余っているものを借金をして購入するはずがないと言い切れる。
アメリカの住宅事情も空き家が多く、日本と似たような水準になっている。安易な回復はまったく望めないのが真相である。
超低金利と供給過剰の住宅事情の関係について述べたが、この機会に冷静に先行きを見る習性を身につけてほしい。

           
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