第43章 なぜ「蟹工船」が売れているのか|いまの格差社会に直結
第43章 なぜ「蟹工船」が売れているのか
いまの格差社会に直結
文=今 静行
80年前の作品に光が、どうしてなのか。
「おい、地獄さ行(え)ぐんだで!」で始まるプロレタリア作家小林多喜二の「蟹工船」がよく売れており、大きな話題になっております。多くのマスメディアも取り上げております。
「蟹工船」が発売されたのは1929年ですから約80年前です。著者の小林多喜二は小樽高商を卒業し銀行員(旧北海道拓殖銀行)になりますが、当時の軍国主義的、警察的国家に反対し、人民の窮乏ぶりを生命をかけて伝えようとプロレタリア作家になりました。労働運動にもはいりました。その生涯は悲惨なものでした。1933年に当時の特高警察に逮捕され築地署で拷問にあい殺されました。よく知らされていることです。
現在の格差社会と重なり合う
したがって「蟹工船」の内容は暗さでおおわれています。ボロ船に乗せられ当時のソビエト領海のカムチャッカに出漁した労働者の非人間的な生活がやがて自然発生的に闘争に立ち上がる過程を描いています。このように暗く切ない内容の「蟹工船」がいままたなぜ売れ続けているのでしょうか。
東京都心にある大手の書店で若い女子店員にたずねてみました。その答えは“現在の格差社会に似ているからでしょう。私も共感をおぼえます”とフランクに話してくれました。平和で豊かな日本社会といわれて久しいのですが、ここにきて“利益をあげるためには従業員に苛酷な仕事をさせてもいい。首切りもあり得る”と経営者は、はっきり主張しています。現実にそうなってきています。
政府も実態を認識しているが
間違いなく不安でいっぱいの時代にはいっています。企業は非正規雇用を増やし続けています。だから政府は2010年度までの3年間に、フリーター、ニートなどの若者100万人を正社員化する数値目標を打ち出しているのです。さらに増え続ける「年長フリーター」の就職支援策の拡充を打ち出しています。
3人に1人が不安定な非正規社員の社会です。さらに税金は上がる、医療費も上がり続けています。これまで利用できた高齢者の人間ドック補助を廃止するなど不安を増加させるようなことが行われています。年収200万以下の若者が増え続け、結婚もできないような社会情勢になっております。先行きに少しも明るさが見えないのです。大企業とか金融機関の勝ち組もいますが、大部分は負け組みです。もっと分かり易くいうと搾取される者と搾取する者の二極化です。このようなことが「蟹工船」とオーバーラップ(重なり合う)され、多くの若者に共感をよんでいるのでしょう。最悪の事態が起きないうちに、政府、経営者側も真剣に受けとめ、対応策をかためるべきです。