第38章 インフレーションの本質と恐さ
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2015年5月7日

第38章 インフレーションの本質と恐さ

第38章 インフレーションの本質と恐さ

――蓄えたおカネも確実に目減りする――

文=今 静行

“よくないこと”という言葉の響き

「インフレーション」という言葉の響きを、ひとりひとりがどう受け止めるかということは、大変重要なことです。恐らく全部といっていいほど、多くのひとたちは“よくないこと”と理解し、認識していると思います。インフレと聞いただけで、第一次オイルショック(1973年10月、1バレル当たりの石油価格が3ドルから11.7ドルに値上げ)、続いて1979年~80年の第二次オイルショック時には約36ドルになりました。あのいまわしい狂乱物価を生み出しました。別稿で取上げますが、現在(2008年7月)は1バレル当たり140ドル台にはね上がり、世界経済をゆるがしています。確かにインフレは「不安と苦しみ」の代名詞です。インフレの本質を身近に理解させるために、何はともあれ次の話を紹介しておきましょう。

牛に無理やり水を飲ませて市場へ──インフレの原点

昔、イギリスの牧畜業者が牛をせりに出すとき、その目方を増やすために牛に無理やり水を飲ませたという話が伝えられています。これがインフレの原点です。これが牛のインフレーションです。そういえば、ひところ非難の的になった観光地の上げ底みやげ品もれっきとしたインフレーションです。このようにもともとインフレは「わるいこと」を出発点にしているのです。このことはしっかりと知っておいてほしいと思います。何もわが国に限ってのことではありませんが、インフレは現在も将来も世界中の最大関心事になっています。インフレ退治こそ世界経済の最優先事項になっているのです。

インフレで年金生活者や利息で生活を支えている人たちは?

なぜ各国でこれほどインフレ抑制に力点を置くのでしょうか。こと新しく説明するまでもなく、インフレは物価の持続的上昇のことですから、通貨価値の下落、つまり目減りをもたらします。通貨価値の下落はなんのことはない、おカネに対する信用の低下そのものです。世界経済、国内経済を問わず、経済活動はおカネで動いています。そのおカネが信用できなくなったときは、企業経営も家計も財政もお先真っ暗になります。社会は騒然とし、混乱状態を招きます。信用に足るおカネを維持するために、各国が全力投球するのは当然です。
全世帯の一世帯当たり平均貯蓄保有額は1500万円強(勤労者世帯は1200万円)ですが、インフレになればせっせと蓄えたおカネは確実に遣い分が減っていきます。海外旅行とか自動車、マイホームなどを購入しようとはっきり目的を持って貯蓄を続けても、インフレ次第でこれらの計画は音を立てて崩れてしまいます。一番みじめなのは、年金生活者や利息で生活を支えている人たちです。悲惨です。現に起きているのです。インフレで貯金通帳の額面が連動して増えることは全くないのですから当然でしょう。

借金をしている人たちと俗説?

一方、借金をしている人たちはインフレ利得を手にすることができる―という俗説の最たるものになっています。本当にそうでしょうか。借金というものは、それ相応の貯蓄がなければ銀行は決しておカネを貸しません。ですから、借金のある世帯にも必ず預貯金があるはずです。もう説明するまでもないでしょう。インフレで損失をこうむるのは借金のない世帯だけでなく、借金のある世帯も目減りの打撃を受けるのです。もっともインフレが極まると、かつてのロシアのように損とか得とかいう尺度は成り立たなくなります。心してほしいと思います。

           
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