第33章 外貨準備高100兆円超の表の顔と裏の顔
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2015年5月7日

第33章 外貨準備高100兆円超の表の顔と裏の顔

第33章 外貨準備高100兆円超の表の顔と裏の顔

文=今 静行

外貨準備高の正しい意味を知ろう

日本の外貨準備高が現在1兆80億ドル(約106兆円)と過去最高を更新中です。1兆ドル超は中国に次いで世界第2位の水準です。ここでしっかり知ってほしいのは、外貨準備高の正確な意味です。英語で表現すると分かりやすい。
[gold and] foreign currency reserveといいます。フォーリン カレンシー リザーブ。リザーブは保有する、残しておくという意味です。したがって“外貨保有高”といい代えたほうが、親しみ易いのです。フォーリン カレン シー=外国通貨のほとんどはアメリカのドルです。より具体的には米国債で日本政府と日本銀行で保有しております。公的資産です。一部ですがユーロ(欧州通貨)とかゴールド(金の地金)なども含まれています。

外貨準備高は国が輸入代金の決済を海外からの借金の返済など対外支払いにあてます。これほど外貨準備高(外貨保有高)が激増したのは、政府・日銀が過去におきた円高傾向を食い止めようとして円売り・ドル買いを繰り返し実施したのが主な原因です。要するに円高(ストロング円)になれば、輸出大国の日本経済に打撃をあたえることになるから、円安(ウィーク円)にしなければならないといわゆる日銀介入を続けた結果なのです。とくに2003年から2004年春にかけてはざっと35兆円に上る巨額な資金を投じました。日銀介入という国家権力をつかって円安維持に全力投球しました。
しかし、一国の力でどんなにがんばっても世界市場で決まる為替相場を長く維持することは不可能だということは、現在の1ドル=100円前後の相場の流れをみれば日銀介入の限界性を十分に理解できるでしょう。ここ2、3年は市場介入をしていません。正確には2004年3月以降は介入していません。

多すぎる外貨保有がなぜ問題なのか

対外支払いに全く不安のないほど外貨をためたことは、決して悪いことではなく日本の国際信用力を高めることも事実です。明らかにプラス要因として働きます。もっともすべての経済現象についていえることですが、光の部分だけということがなく、かならず陰の部分があるのです。プラス面とマイナス面が共存しているのです。巨額な外貨準備(外貨保有)に大変なリスクが伴うのです。為替相場が円高ドル安に振れると大損するのです。為替相場の動きは株価の動きを予想するよりも困難です。かりにリスクが無いということを前提にするならいつまでも円安水準が続いていることにつきます。そのようなことは望み得ないのです。為替相場は株以上にギャンブルな世界なのです。

同額の国の借金が伴う

もうひとつ見落せないのは、外貨準備には同額の借金が伴うのです。じつは円安水準にするための日銀介入資金は「政府短期証券」を発行して用意します。政府短期証券は政府がつなぎ資金を調達するために発行する借用証書です。一年以内に償還することを決められています。いってみれば短期の国債と同じようなものと受け止めていいのです。主として民間金融機関から政府は借り入れています。民間銀行としては金利は低いが、国家が返済を保証する借用証書ですから全面的に協力します。国と銀行が持ちつ持たれつの関係ともいえるでしょう。つまり外貨準備にはほぼ同額の円建ての借金を国が背負っているということです。

外貨準備と国の財政との関係

巨額な外貨準備の矛盾は、ほとんどを米国債で運用しているため日米関係というか同盟関係にあるため売りたいと思っても売れないのです。もし日本の保有する米国債を大量に売り出したら米国債は間違いなく暴落します。急速に円高ドル安を招くでしょう。自分の首をしめることになります。こんな事情からたまった外貨準備を減らすことは困難なのです。売りたくても売れない関係という事情があるのです。困ったものです。
参考までに記しておきましょう。先進諸国は外貨準備をあまり持っていません。日本の水準に比べると4分の1とか5分の1とかという比較できないほどの低さです。その底流には外貨が増えると為替リスクが増大するという面に重点をおいているからなのです。一方、東南アジア諸国は1997年アジア通貨危機もあって外貨不足による手痛い体験をしているせいか、外貨準備を積み上げることに熱心です。私たちが留意しなければならないのはドル安が進むとつまり円高になると、円ベースに換算するときの資産がガックと目減りすることです。もうひとつ忘れてはいけないことは、外貨準備には同額に近い国の借金がついて回るという点です。政府短期証書という政府の借用書が増えるのですから、わが国の財務体質の悪化に直結します。これらのことを理解しながら外貨準備の流れに関心を払って行きましょう。

           
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