第32章 円高の正しい見方
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2015年5月7日

第32章 円高の正しい見方

第32章 円高の正しい見方

文=今 静行

英語では“ストロング円”強いことはプラスに傾く

円高で“大変だ、大変だ”という声が政府経済界からことあるごとに流れています。外国為替レートは2007年夏ごろの1ドル=120円台からずっと円高傾向を続け、今年(2008)3月中旬には100円を切り上げ95円台となり、現在は1ドル=100円前後に定着しています。難しい金融用語や外国為替相場用語を英語に置き換えてみると意外に分りやすい。円高はストロング円(強い円)と表現します。円安はその反対ですからウィーク円(弱い円)またはチープ円(安い円)です。

いちど聞いたらもう忘れることはないでしょう。“強い”のと“弱い”のとでは、どちらがいいでしょうか。誰もが弱いより強い方に手をあげるでしょう。ごく当然のことです。円高=強い円はつかい手がある円ということです。よく例にされるのですが、アメリカ製のボールペンが1ドルとします。為替相場が1ドル=150円なら、1本につき150円を支払ってアメリカのボールペンを購入できます。為替相場が1ドル=100円になったら、同じボールペンを1本100円で買うことができるのです。円という日本の通貨の価値が高まった、つかい手が高くなったことを意味します。少し大げさにいえば円高は日本経済全体の信用、価値を国際的に高めたことにほかならないのです。

1ドル=360円でスタートした背景を忘れてはいけない

ここでちょっと戦後戦いに敗れは廃墟になった日本は、経済力ゼロに近かった。昭和24年(1954年)4月に1ドル=360円でスタートとし、国際社会に復帰することができました。1ドル=360円の時代が昭和46年(1971年)まで続きました。17年もかかったのです。

その後日本経済が力をつけ自動車生産や鉄鋼生産でもアメリカを抜き世界第一位になり、貿易収支も世界最大の黒字国になるまで発展しました。その間、円・ドルレートは1ドル=250円、200円、150円、120円と確実に円高の道を歩みつづけてきました。

現在は1ドル=100円前後で終始しています。3倍近くまで円の価値が上がっているのです。世界が日本の経済力の強さを認めているからなのです。相場は金利など日本政府や日銀が決めるのとは違い、世界中の人たちが決めるのです。円の高い評価を基本的にはプラス効果と受け止めるべきです。日本の強い円の裏返しとしてアメリカのドルはドル安傾向が完全に定着しています。疑いもなくアメリカの力は全体的に後退しています。

ドル安がアメリカの後退を的確に示している

「強いドルは国産」とアメリカは世界経済を引っ張ってきたのが、いまでは遠い昔のように思えます。生活の格差の広がり、イラク戦争の泥沼化などアメリカの通貨が歴史的ドル安になっている背景の根底はいくらでも指摘できます。日本は輸出大国であり、輸出で稼いでいる国です。円安の方が有利だと短絡的にとらえる傾向が強いのです。

しかし見るべき資源がなく、石油、食料、鋼鉄石などすべて輸入に依存している国です。原材料を円高で安く買えるメリットを見落させないためです。その効果が出るまで時間は要しましが、つかい手のあるお金つまり円高は計り知れないほどの効果を企業にも私たちの生活にももたらします。このことをよく理解してほしい。

最後につけ加えておくことがあります。自国の通貨が強くなってダメになった国家は無いということです。自国通貨が安くなって(日本でいえば円安)大インフレーションが起きたり、外国につけ狙われたりして国家の存立が危うくなった例はたくさんあるのです。歴史的に見ても、自国の通貨価値が高くなって、外国に屈するとかインフレで混乱が起きるという事例は皆無です。世界がその国の強さ、安全性を認めることなのですから当たり前です。しっかりストロング円の決定的な意味を知るべきです。

           
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