第20章 高齢化社会の正しい生き方、「人生の本番は50歳から」
第20章 高齢化社会の正しい生き方、「人生の本番は50歳から」
文=今 静行
医学的には90歳が「天寿」
日本人の平均寿命が伸びて世界一の長寿国になりました。疑いもなく人生90年の時代になってきています。いま50歳前後で普通の健康体なら、医学的には90歳が「天寿」ということです。
天寿とは、前夜家族と楽しく談笑し、翌朝少しの苦しみもなく眠るように息を引きとるというような大往生。つまり誰もが願う理想的な死です。
私の友人で老人病を専門に研究している、ある医科大学の教授から直接聞きましたが、90歳まで生きることは無理としても、80歳から85歳まで生きることは難しくなくなるということです。
そこで、現実化が進む高齢化社会を踏まえた、生涯設計のワク組みと心構えをしっかり知る必要があります。一番大切なことをひとことでいえば、「人生の本番は50歳から」ということです。
50歳までは“人生の準備期間”
私たちはゼロ歳から乳児期、少年期、青年期と成長していきますが、24~25歳までは、いってみれば、親の支えなしに生きていけない。親のスネをかじって成長した時期といえます。大学卒業までは親のまるがかえ。ひとりで大人になったような口のききかたをする若者もいるようですが、事実をはき違えていると思います。
もちろん、義務教育の中学校を終えただけの16歳くらいから、一家のために働く健気な少年少女たちもおります。しかしそれはごくわずかです。大部分の男たちは、25歳あたりから30歳前後で結婚します。世帯をもてば、こんどは自分の責任で生きていかなければなりません。
50歳になったとしても、自分の責任で生きた期間は、せいぜい20年、長くて25年です。ところが50歳からは、自分の責任で30年~35年も生きなければなりません。
50歳から「人生の本番」がはじまる
つまり、50歳から自分の責任で生きていく期間の方が、50歳前の年代より10年も15年も長いのです。したがって私は50歳から「人生の本番」がはじまると定義づけをし、主張しております。
このことは、多くのひとたちから共感を得ていることも事実です。50代後半や60代半ばで、年をとったなどと老人めいたことをいってはいられないのです。
たとえば、60歳でリタイア(引退)したらどういうことになるか、考えてみたことがありますか?
今後、20年から25年以上、“毎日が日曜日”のような生活が長く長く続くわけです。
よく定年退職者のなかには「いよいよ粗大ゴミになりましたよ」と自嘲気味に語るひとがいますが、とんだ思い違いをしていることに気がついていないようです。粗大ゴミなら捨てればコトがすみますが、心のある生き物である私たちはそうはいきません。
生きていくためのおカネ
いま子どもの数は、せいぜいひとりかふたりです。一人娘がお嫁にいったり、一人息子が結婚して転勤していったら、この時点で残された親は、年老いて子どもがいない家庭と実質的に変わらない状況のもとにおかれることになります。
一人の息子、一人の娘を、4人の親たちが奪い合いすることになりかねません。
さらに「人生の本番」である50歳以降の30年以上を生きてゆくために、それなりのおカネを用意しなければなりません。
よく「バラ色の生活設計を」とか「豊かで実りある老後の生活」というきれいごとの呼びかけや印刷物をみたり聞いたりしますが、おカネがらみであれば、そんなファンタジックなものではないと思います。
自分(家計)を整えることが“経済”の出発点であり、自分の生涯を右顧左眄(うこさべん)することなく、きちんと見定めて歩くことの大切さを身につけてほしいと思います。