第17章 日本経済を左右する家計部門
第17章 日本経済を左右する家計部門
文=今 静行
家計を整えることが経済の出発点
内閣府の調査によると、国全体の純資産(国富)に占める家計力の純資産(保有する総資産から負債を差し引いた純粋な資産)は、2005年末時点で82%となり、調査開始以来の最高を記録しました。金額にして2166兆円です。
日本という国全体の国富の8割以上ということですから、ほかの企業部門や政府部門などカスんでしまいます。家計は圧倒的存在感です。私たちがモノやサービスにおカネをつかうか、つかわないかによって、日本の景気がまちがいなく左右されるのです。家計の強さをしっかり知ってください。
もともと経済は、生産と消費を繰り返しながら、より豊かな生活を目指す行為です。モノをつくり収入を得、衣食住(消費)を整えるといった毎日の生活にかんするものであり、非常に身近なものです。
噛みしめてほしい福沢諭吉のことば
興味深いのは、経済(エコノミー)の語源が、ギリシャ語の「家の世話」「家の規則」ということばから出ていること。経済の概念というか、底に流れているものを、なんとなく理解できたと思います。毎日の暮らしは、いうまでもなく広く社会とのかかわりをもっている生活です。ひとりひとりがまず家計を整えることが、まぎれもなく経済の第一歩であり出発点なのです。
明治のはじめ、思想家であり慶応義塾の創設者である福沢諭吉が「独立の気力なき者は国と思うこと深切ならず」といい、個人の暮らしの独立を文明人の理想としました。家計を整えることもできない者が、天下国家をあれこれ論じても深く切実でないと、きつく指摘しているのです。
味わうべきかんがえかたであり、一世紀以上を経た今日でも、フレッシュでゆるぎない指針として生きています。
なにはともあれ、自らの家計における収入と支出のバランスを整え、不時の支出に備えて余剰を蓄えること(貯蓄)こそ、私たちが心すべきことなのです。個人だけでなく、企業経営にも政府に対してもおなじように当てはまります。