第6回 ハワイのクムズハウスにて
Lounge
2015年3月19日

第6回 ハワイのクムズハウスにて

第6回 ハワイのクムズハウスにて

私の師匠と子供たち。
photography Micky (Low Fat Group) 「Sandii's Melehula Love² Pacific」より

you are so beautiful to me

年に何度かは勉強のためにハワイへ行きます。行くと私の師匠であるクム、パティ・ケアロハラニ・ライトさんの家に泊まります。

朝、私を目覚めのチャントで起こしてくれるんですよ。「エアラエ」という深い海の底から天国まで昇るエネルギーに感謝するチャントがあるんです。優しくミュートした手拍子で、“あなたは太陽だから、早く目を覚まして明るく輝きなさい”と。起きると鏡を見て、自分を取り戻す意味も込めてにっこり笑います。そして、「you are so beautiful to me」という歌を一節心の中で歌うと、鏡の中の人も優しく迎えてくれるんです。そういうスタートを切ると、とても平和な一日が始まります。生まれたての朝の数分間はとっても大切な時間なんですよ。

クムは、生きてるコメディ・チャンネルと呼ばれるほど(笑)面白くて、可愛くて、もうチャーミングの一言です。ふざけているのか本気なのかわからない瞬間が多いんですが、あの温かさは怖いですね。太平洋ってきれいだけど大きくて怖い感じがしますよね。じーっと目を見ているとそういう怖さを感じることもあります。

第6回 ハワイのクムズハウスにて

クムの家です。photography Micky (Low Fat Group) 「Sandii's Melehula Love² Pacific」より

私がクムから何を学んでいるかというと、「綴られた地図を暗記すること」を学ぶんです。ハワイのスピリットに対する敬意や、チャントや伝承、踊りなどを、記された通りに暗記する、メモるんです。
それは先生がいいとか悪いとかいう問題ではなくて、昔の地図を私の頭の中や、この体にプリントする行為なんです。

「地図を運ぶ」役割

これは私が気づいたことですが、昔描かれたフラという地図を、踊りがつくられた頃の地図を、そのまま記していくことで、踊りが産まれたときはこういう地形だったんだよというのを踊りとチャントで今キープする。それをプリントするんですが、それと同時に、現在はどうなっているの?という私の心模様も大切にしなければなりません。

第6回 ハワイのクムズハウスにて

photography Micky (Low Fat Group) 「Sandii's Melehula Love² Pacific」より

昔の地図をただ運ぶだけだったら、単なる荷物運び、ポーターですから、それだけだと、それが宝物だということすらわからないまま運んでいる人になってしまいます。この中には何が入っているのだろう。何が記されているんだろうと、頬ずりしながら感じる心を忘れちゃうと、何故自分がフラと関わっているのか、なぜ自分が生きているのかさえわからなくなる。そういう勉強をすごくさせられます。

昔の地図は書き直しちゃいけません。昔の地図と、今の地図を、イーブンで持っていないといけない。そのどちらも色あせてはいけない。それがバランスということです。バランスがとれているから今の人に届けることができるんですよ。自分が地図を運ばせてもらっているという意識になると届きます。それは生ものですから、気をつけないと腐ったり、落としたり、盗まれたりもします。大切なものが入っているという確認をしながら歩かなければなりません。運ぶには実際の身体の筋肉も鍛えないと届けられないし、そこまで鞭を打つのは何か。それはHulaを通して人生の大切さに目覚めた色あせぬ私の思いなんですね。いつもそこに立ち返るんです。

クムと私

photography Micky (Low Fat Group) 「Sandii's Melehula Love² Pacific」より

クムとは一心同体です。クムに対しては卒業するまで質問や疑問を持ってはいけません。ただ従うのみです。だから「why」と思うことはないんです。

早く卒業して放し飼いにされたいとも思いましたけど、迷子にはなりませんでした。なぜならクムのそばにいたいから。彼女の旅は面白いので、卒業前はクムに手を引かれて黙々とついていくだけでしたが、今は助手席に座ってクムと同じ旅をしています。でも運転しているのは先生なんですけどね。いつしか先生がいなくなったら私が運転しなきゃいけないので、助手席でボーっとしていると何も覚えられないので、最近は運転しているつもりで、先生の視点から一緒に見ています。

photo by IDEGUCHI Keiko

私のスタジオでフラを踊っている人には、古い地図と私が描いた地図の両方とも持ってもらって、どんどん新しい記録をその人を通して描いていってほしいと思っています。そうしないと、どれぐらい遠くからこの宝物が来たのかわからないし、体験を通して記録を描くことはとても素晴らしいこと。フラの場合、カヒコを踊っている瞬間って記録を描いているんですよね。それは古代の映画を見せているようなものです。

photography Micky (Low Fat Group) 「Sandii's Melehula Love² Pacific」より

私がいくら言葉で言っても、受け取る側が身体で受け取ってくれないと、私の思いはその人の中にプリントされたことになりません。ハラウのメインメンバーなどずっと一緒にいる人たちは、これまで一緒に古い地図を何回も見ているので、今変わってしまった場所を通しながら、古い地図を歩けるところまで来ているような気がします。

なにごとも真面目に真剣にやれば、理解できることなんですね。面白いから一心になれる。自分のことがだんだん面白くなってくる。どうしてこうなったんだろうと思う瞬間に笑っていたりできるんです。悲しいことももちろんありますけどね。でもすごいプレゼントが隠されていますよね、悲しいことの先にはいつも。

           
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