MOYNAT|ピエール・エルメ・パリ 青山店でのエキシビションに潜入
ピエール・エルメ・パリ 青山でのエキシビションをレポート
アーティスティックディレクター、ラメッシュ・ナイールが語るモワナのヒストリー
1849年に創業したパリの老舗トランクメーカー「MOYNAT(モワナ)」が日本初上陸。現在、12月25日(水)まで、伊勢丹新宿店にて「ル・モワナ トランクショー」を開催中だ。今回は、先日ピエール・エルメ・パリ 青山店でおこなわれたエキシビションの際に、来日していたモワナのアーティスティックディレクター、ラメッシュ・ナイールにインタビューをおこなった。
Photographs by JAMANDFIXText by IWANAGA Morito(OPENERS)
誰も知らなかったトランクメーカー
モワナは1849年に設立されたパリのトランクメーカーだ。創設者はポーリーヌ・モワナという女性(当時、女性のオーナーは珍しかった)。馬車から自動車に移った時代にモワナは、自動車のトランクを作り、先駆けとなった。いまでは自動車に荷物を積むということは一般的だが、モワナは自動車に積むための製品をつくった、最初のトランクメーカーだった。
先日、ピエール・エルメ・パリ 青山店にて、ピエール・エルメのために製作された「マカロントランク」とともに、モワナのコレクションが披露された。会場に来日していたモワナのアーティスティックディレクター、ラメッシュ・ナイール氏が、ブランドの現在と過去を語ってくれた。
――アーティスティックディレクターに就任する前に、モワナにもっていたイメージは?
実は、私は最初「モワナ」というブランドのことを知りませんでした。CEOのギョーム・ダヴァンはおろか、モワナを見つけ出してきたLVMHの社長、ベルナール・アルノーですら、当初はその詳細を知らなかったのです。
ブランド復活のために動き出したのですが、はじめは資料がまったく充実しておらず、ゼロからの出発でした。ようやく手に入れたヴィンテージのトランクを眺めながら、ポーリーヌがどういう女性だったのか、19世紀の生活がどういったものだったのかを想像するところからはじめました。
それから、過去の広告などの資料が集まってきて、徐々にブランドのことがわかってきました。モワナを代表するモデルに、1880年に発表された「レジェンヌ」というバッグがあります。ベル・エポック(フランスで芸術分野の栄えた20世紀前半)を象徴する大女優、サラ・ベルナールと肩を並べる人気を誇っていた、ガブリエル・レジェンヌという女優の名前に由来しています。彼女はポーリーヌの友人でした。エルメスの「バーキン」のように、ある人物へのオマージュとしてバッグに人物の名前をつけたのは、おそらくモワナが一番最初でしょう。
当時は小振りなシティバッグの概念がなく、バッグといえば旅行のときに携行するような大きなものばかりで、そのような点でも非常に革新的だったと聞きます。私たちがつくっている「レジェンヌ」では、当時のモデルを現代的にアレンジして復活させています。
会場に展示しているのは、100年以上前にモワナが自動車用に考案したトランクの実物です。ブガッティなどのクラシックカーは、トランクルームがカーブしており、同様のカーブをつけたモワナのトランクは、しっかりとフィットするんです。私たちがデザインしたレジェンヌやポーリーヌは、過去のトランクからインスピレーションを受け、この美しい曲線をブランドのアイデンティティとしています。
「ポーリーヌ」というモデルは、創設者の名を冠した、ブランドを代表するバッグです。金具をあえてあまり使わず、シンプルに製作しました。コンパクトな開口部から、大きくひろがる底部に向かうカーブ、これは生地を裏返しにして縫ったあとに、ひっくり返しているのですが、この工程がとても難しいのです。それを左右対称になるようにおこなうわけです。これほどのものを作ることができるのは、本当に限られたメゾンだけでしょう。
――モワナでのクリエーションをひと言で表現するなら?
“シンプリシティ”ですね。シンプルなものをつくるということは、とても難しい。その分、情熱を注ぐ価値が大いにあります。
また私は、インスピレーションをキーワードから得ることがあります。コンフォート、クラフトマンシップ、タイムレス、ユーティリティ、イノベーション……。もちろん絵に起こすこともありますが、良い言葉をみつけたら、書きとめるようにしています。それをすべて、モワナに反映させていければいいと考えています。
今回、ピエール・エルメのために作ったマカロントランクは、製作に400時間ほどかかりました。こちらは、モワナが過去に製作したハットケースにインスパイアされました。当時のスペアタイヤの中に、ちょうど収まる大きさで設計されており、なんと、長期旅行の際にはバスタブにも使用できたそうです。デザインにおいては、てんとう虫もモチーフのひとつとなっています。
円を描くカーブをレザーで表現する場合、通常はプリーツが出てしまうものですが、ひとつのシワすら入っていないのは、職人たちの製品にたいするサヴォアフェール(※)の賜物なのです。
――工房の職人は、これまでにもモワナとの関わりがあったのですか?
モワナは、1970年代に歴史の表舞台から消し、2010年のカムバックまで、およそ40年のブランクがあります。なので、モワナで仕事をしていた職人は残っていません。そこで私たちは、あたらしくモワナを復活させるために、腕のある職人を集めました。
このマカロントランクを手がけた職人は、人間国宝といえるほど熟練した職人なのです。また、革細工の要素だけでなく、木工、エナメルといったさまざまな分野の職人が関わっています。
――今回の伊勢丹でのトランクショーの見どころは?
モワナをパリの本店から国外に持ち出すケースは、今回の日本がはじめてです。モワナはこれまで、復活以前の歴史を通して、パリにしかブティックがなかったのです。このように、パリ以外の国の百貨店で披露するのは、画期的なことなのです。それを日本の伊勢丹で出来るということを、とても光栄におもっています。どうぞいらっしゃって、モワナを見つけてください。
ル・モワナ トランクショー
日程|11月27日(水)~12月25日(水)
場所|伊勢丹新宿本館4階 ウエストパーク/ラグジュアリー・ステージ
東京都新宿区新宿3-14-1
Tel. 03-3352-1111(代表)
モワナ
http://moynat.com/jp/