南伊、カプリ島からの香り──カルトゥージア(1)
カルトゥージア──レモンの梢を駆け抜ける薫風(1)
イタリア国内でさえ入手困難だった幻の香り、カルトゥージア。生産量も少ないこの香水を日本で取り扱っている、ロゼストの五十嵐太一さんにその魅力について聞いた。
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カプリの秘宝との出会い
いちばん最初に名前を聞いたのは、ナポリのあるサルトからでした。
イタリア人って“いいにおい”がするんですよね。たとえおじいちゃんだとしても。あれは何でなんでしょう。不思議ですよね。皆いろんなにおいがするけど、“くさい”ひとはひとりもいない気がします。
それにしても、もう10年くらいは前のことです。当時の日本では香水というものはまだ大きなブランドが手がけるもの、という認識が大勢で、私たちはそこから選ぶだけというのが一般的でした。
でも、カルトゥージアはそういうものとは明らかにちがう、異質な香り──匂いというよりは香り──でした。「これは何だ!?」と思って、いろいろ訊ねてみると、すごく古い、もともとの起源でいうと何百年も前のレシピをもとに作っている、イタリアはカプリ島の香りだ、ということがわかりました。それがカルトゥージアの名前を聞いた最初です。
その後もずっとその香りは気になっていました。そして実際に買えたのはその一年後くらいにカプリの本店でです。
“香りを身につけている”というのではなく、そのひとから湧き出ているような、自然な香りだと感じました。つける人の“キャラクター”に合っていると思わせる、というか。必要以上ににおってくることもないし、すごくナチュラルな香りなんです。
もともと私はよく香水をつけるほうではなかったんですが、この香りには惹きつけられました。
カプリの本店ではじめて買ったときには、ラインナップがたくさんあったので迷いましたね。そのときは単純に好きな香りを選びました。そして、それはいまでも変わっていません。
その後、独立して店を構えるようになったとき、旧知の知り合いがじつは当時日本でカルトゥージアのエージェント的な役割をしていたということがわかったのです。こうしてカルトゥージアを自らが取り扱うようになったのには不思議な縁を感じます。
類い稀な、そして普遍性のあるその魅力
カルトゥージアの魅力というのは、ほかに類似の香りがなくかつ万人受けするところ、とでもいえるでしょうか。香水というのは好き嫌いのはっきり分かれるものだと思います。でも、カルトゥージアのこのメディテラネオをきらいというひとに会ったことはありません。ショップにおいているテスターも、この香りだけ減るのが早いんですよ(笑)。
ルームフレグランスなら、たとえば設計事務所の方がミーティングルームに置いてくださったりしています。自宅の玄関に置いてもいいですよ。爽やかな香りなのできらいな人はいないと思います。なおかつ嗅いだことのない、いい香りなんです。
あるひとから聞いたんですが、イタリアには調香師がもともと5人しかいないそうです。だから香りが似通ってしまうのは当たり前なんですよ。いままでに作ったもののなかから、ちょっとアレンジして名前を変えるだけ(笑)。
カルトゥージアには長い歴史がありますが、復刻されてまだそれほど経っていないので、これはまだ真似されてない香りです。
基本的には昔のレシピを忠実になぞっています。レモンの産地でもあるので、柑橘系の香りはカプリ島のイメージと結びつきやすいですよね。
カルトゥージアの香水は香調の変化が少ないのも特徴です。トップノートからミドルノートへといった香りの変化があまりなく、最初の香りがずっとつづくのです。古い香りではないけれど、といって新しい香りでもない。でもよくあるようなハーブ系の香りではない、もう少しはつらつとした香りなんですね。
生きる喜びを表現している香り──そういうところがイタリア的じゃないですか。人生を楽しむ、美しいものにするための香りなんです。