祐真朋樹が語るマーガレット・ハウエルの魅力|MARGARET HOWELL
FASHION / MEN
2015年10月27日

祐真朋樹が語るマーガレット・ハウエルの魅力|MARGARET HOWELL

MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル

祐真朋樹が語るマーガレット・ハウエルの魅力

1980年代の初めからマーガレット・ハウエルの洋服を見続けてきた、ファッションディレクターの祐真朋樹さん。今回は、マーガレット・ハウエルが特にこだわりを持つ、イギリスの老舗ファクトリーブランドへのスペシャルオーダーアイテムに着目した。長年の深い信頼関係と互いを尊重し合うことで生まれる、モダンなデザインの魅力とは。

Fashion Direction & Text by SUKEZANE TomokiPhotographs by ASAKURA Keisuke(Portrait)OGAWA Hisashi(Perle management, Still Life)

懐かしさの中に新しさがある、骨太なコラボアイテムに注目

時代とともに移り変わるファッションというものに興味があって、僕はスタイリストという仕事を選んだ。東京は今、世界に誇るファッションシティで、そこで仕事ができるというのは大いなる幸福だと思ってはいる。でも日本だけじゃなくて世界のファッションを見たいという思いがあり、僕は毎シーズン、パリやミラノ、ロンドンやニューヨークへとコレクションを観に出掛けている。観るだけではどうにも気が済まない性分なので、気に入ったものがあれば迷わず買って着てみる、ということを永年やってきた。そんな生活が、25年も続いている。

が、だからといってビンビンにトレンディな服を着たいかというとそうではない。トレンドは気にはなるが、「トレンディなもの着てるね」とは絶対思われたくないのだ。面倒くさい話だが、お洒落はするくせに、「お洒落してる人」には見られたくない。たとえ流行最先端(!)の服を着ていたとしても、どこのブランドかわからないような、さり気ない着こなしに見せたいと思っている。我ながら面倒な奴である。

SUKEZANE Tomoki
 talks about MARGARET HOWELL

1995年と1996年の2年間、僕は仕事でもプライベートでも、ロンドンへ頻繁に出掛けていた。年に6回は行ったと思う。それ以前のロンドン体験は、1980年代後半と1990年代はじめに数回行っただけ。まったくいい思い出はなかった。が、1995年のロンドンは違った。それまでのミラノやパリのファッションとはまったく違った価値観がそこにはあった。ロンドンの洒落男たち、それに一部の女性たちは、新しい服を着るのを良しとしていなかった。

なんというか、たとえば新しい流行の服を着る場合、ミラノやパリなら胸を張って「どうだ!」という感じになるが、ロンドンの男たちはそうではなく、むしろなんとなく気恥ずかしい気持ちで新品の服を着ているような気がする。今や東京でも僕の周りにはそういうタイプの人が多いし、「そんなの当たり前」と思うかもしれないが、少なくとも約20年前はそうではなかった。だから当時の僕には、ロンドンのそんなセンスがすこぶる新鮮に感じられたのだ。

お洒落に無頓着ではないが(いや、むしろバリバリにファッションコンシャスだが)、さも気を使っていないように振る舞うスタイル。それは、本で読んだ「江戸っ子の粋」にも通じる気がする。僕もかなり世界中のいろんな街を見てきたが、そういう「さり気なさ」を追求するバランス感覚に関しては、ロンドンの男たちが圧倒的に長けていると思う。日本でも雑誌のファッションスナップに撮られたお洒落さんたちが「頑張り過ぎていない感じがテーマ」とよくコメントしているが、まさにそれはロンドンの男たちが永らく追求してきたテーマだと思う。そこらへんに僕はシビれ、ロンドンが大好きになった。

SUKEZANE Tomoki
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JOHN SMEDLEY

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TRICKER'S

さて、マーガレット・ハウエルのメンズウェアには、そんな英国男子のスピリットがしっかりと受け継がれていると思う。今シーズン、マーガレット・ハウエルは「バラクータ」「ジョン・スメドレー」「トリッカーズ」といった、英国を代表するトラディショナルブランドとコラボレーションしたアイテムを発表している。一見、“モード” とは無縁に思えるが、実際に着てみるとすぐさまモダンな雰囲気が湧き出てくる。さり気ないお洒落を目指すなら、これ以上のアイテム群はない。

まず「バラクータ」のG3は、襟もとはG9に似ているが裾はリブ無し。ショートコートのような軽やかさが魅力だ。ラグランショルダーの軽快さも春らしくていい。ちなみにこのG3は、最近では稀少なメイド・イン・イングランド。淡い色目のセーターとともに、このバラクータで初春の肌寒さを乗り切りたい。「ジョン・スメドレー」のマリンニットはショルダーボタンが特徴。30年もの長きに渡ってコラボレーションしているだけあって、双方のテイストがプラスオンして相乗効果を生み出している傑作である。腕まくりなどして、Tシャツ感覚で着こなしたい。

長年のコラボといえば、「トリッカーズ」とも30年来の付き合いだそうだ。一見、遊びが目立つカラーだが、チャッカブーツの普遍的な魅力はそのまま。ロングノーズのラストの美しさに魅了される。ショートレングスのチノパンツに合わせ、ソックスをチラ見させると春らしい爽やかな印象が光る。コレクションルックでは裾はダブルで提案されていたが、シングルもシックでおすすめだ。

マーガレット・ハウエルと英国のトラディショナルブランドのコラボレーションは、派手さこそないものの、お互いの物作りに対するリスペクトが「ありそうでない」ものを生んでいる。そこには作り手の心意気が見え隠れする。トレンドに左右されず、かといって無視するわけでもなく、自分たちのスタイルをひたすら貫く姿勢こそが生み出す逸品揃いだ。僕も春になったら、G3とチャッカブーツをさり気なく身につけてみたいな、と思う今日この頃である。

マーガレット・ハウエル

BARACUTA

祐真朋樹|SUKEZANE Tomoki
1965年1月25日、京都市生まれ。マガジンハウスの『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は『Casa BRUTUS』、『GQ JAPAN』、『UOMO』、『MEN’S NON-NO』、『ENGINE』、『Web Magazine OPENERS』などのファッションページのディレクションをするほか、アーティストやミュージシャンの広告やステージ衣装のスタイリングを手掛けている。パリとミラノのメンズコレクション取材歴はかれこれ25年。

アングローバル
Tel. 03-5467-7874
http://www.margarethowell.jp

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