MARGARET HOWELL|赤峰幸生氏が語るマーガレット・ハウエル
MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル
日本を代表するメンズファッションディレクター 赤峰幸生氏が語る
マーガレット・ハウエル×フォックスブラザーズ
楷書体の生地、楷書体の服(1)
メンズファッションディレクターの赤峰幸生氏――デザインカンパニー「インコントロ」を主宰し、自らのブランド「Akamine Royal Line」では、顧客と向かい合い、さまざまな対話のなかから「そのひとの生き方を反映し、そのひとのオーラとバランスを見極めた」一着をつくりあげていく。30年来、マーガレット・ハウエルと交流がある赤峰氏に、インコントロのアトリエで話をきいた。
Photographs by SUZUKI Shimpei Text by KAJII Makoto (OPENERS)
マーガレット・ハウエルは“クラシックな生活者”
昨年ロンドンでマーガレット・ハウエルのコレクションを拝見しました。デザイナーのマーガレットとの出会いから30年近く経ちますが、彼女のモノの考え方は私と似たようなところがあります。それは、司馬遼太郎的とでも言いましょうか、時代を正しく検証をして、そこから自分のクリエイションをつくりあげていくところ。
たとえば、私の「Akamine Royal Line」の服地では、原毛を決めて、糸の太さを考え、どこの織機で、どれぐらいのスピードで織るかをもっとも大切にしています。ユーザーもそういうローテクなことや味を求めています。
マーガレットのクリエイションも、私のこの考え方や表現ととても似ていて、彼女はデザイナーというより“クラシックな生活者”なんですね。日々の暮らし方をカタチにしている。世間はデザイナーという言葉を使いたがりますが、マーガレットの服づくりは、時代に沿って、基本のモノを取り出す、いわゆるマイナスの美学。引き算での服づくりに向き合っていることに、すごく納得できる。そして、最後に残るのが素材の良さなんです。
生きることの「基本のキ」をよく知ること
フォックスブラザーズとは現在のダグラス社長と懇意にさせていただくほどよく知っていますが、魅力は、時代が変わっても変えないことの良さに尽きます。日本では変えることがファッションでトレンドだと考えられていますが、変えないことこそ美しく、変えないことを継承していくのが本当の老舗。フォックスブラザーズはまさに“楷書体”だと思っています。
皆さんも字を習うときは楷書体から習いますよね。楷書で書き順などを覚え、その基本にのっとって行書体がある。それとおなじように、衣食住、人間の五感にもすべて基本があります。たとえば食べることの“基本のキ”は、ご飯をおいしく炊けるか、味噌汁をうまくつくれるかですが、服づくりでいえば、美しい白のシャツができたら一流。柄でごまかすシャツは誰にでもつくれます。
マーガレットの服づくりには、いいものを長く着てほしいという基本があって、20代から70代までの幅広い人たちに服を楽しんでほしいとつくりつづけている。そういうなかに、時代の気分としてミリタリーや、1950~60年代の人びとの暮らし方などを取り入れて表現している。そのものづくりのフィロソフィーはとても共感できるし、彼女はイギリス人、僕は日本人として表現しています。
私の服づくりの基本は、understatement(アンダーステイトメント)。控えめだけど、何気にカッコイイねというもので、デザインはできるだけ省いて、目立つ服はつくりません。トレンドはまったく介入しませんが、色など自分が感じる時代の気分はくわえます。
男のスーツとは、1910年代から今のカタチに決まり、大きく変わっていない“百年服”。世界の男たちが着つづけることによって、男の普遍的なカタチになっています。スーツを着ることは、知性や教養を問われ、そのひとなりがすべて見えること。男が生きていく“基本のキ”として、真面目に着こなしに取り組んでください。(談)
MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル
日本を代表するメンズファッションディレクター 赤峰幸生氏が語る
マーガレット・ハウエル×フォックスブラザーズ
楷書体の生地、楷書体の服(2)
赤峰幸生氏のファッション巡礼
1910年代からのミリタリー、サヴィルロウのジェントルマンズスーツ、スポーツとしてのハンティング、テニス、フィッシングなど、貴族たちのひまつぶし――そういう英国伝統の紳士のスタイルを正しく知りたいと思い、イギリスの服飾の考え方に傾倒していきました。
20代はニューヨークでアメリカの服飾を学び、28歳で独立して立ち上げたブランドが「WAY OUT(ウェイアウト)」。そこで、歴史の本で知ったフォックスブラザーズの“フォックスフランネル”を日本で初めて取り寄せました。それを横浜・馬車道の「信濃屋」がとても気に入ってくれて、信濃屋オリジナルのネイビーブレザーを仕立てたりしました。その何年か後に、当時ビームスにいた重松 理さんや栗野宏文さんがサンプリングして作り上げたのが「BEAMS F」です。
30代中盤にブランド「GLENOVER(グレンオーヴァー)」を立ち上げて、“アメリカのルーツはイギリスにあり”と思い、イギリス通いがはじまりました。ウェイアウト時代にバラクータのG9モデルを日本で初めて仕入れたり、当時は製品を仕入れることがほとんどでしたが、グレンオーヴァー時代には英国のニットメーカーなどを精力的に回って、海外でオリジナルを作って輸入するということも話題になりました。
グレンオーヴァーの後期には、いわゆるアルマーニなどのブランドブーム、日本ではDCブランドなどができるバブル以前でした。私は、イギリス的な構築的な服を経て、イタリア的アート思考のファッションに触れ、イタリアの手作り(ファットアマーノ)的魅力に惹きつけられて、イタリアにはまっていきました。
こういうふうに時系列的にお話しすると、国にこだわってファッションを見てきているように思われるでしょうが、これまで国に限定してファッションを考えたことは一度もありません。英国のフォックスブラザーズや、フランスのシャルベ、ドーメルの服地を好むように、日本の生地の産地である一宮や浜松、西陣などの工場を巡って、日本人の手の良さも十分認めています。私のベースはあくまで日本です。
素材から見つける、自分のスタイル
マーガレット・ハウエルの今シーズンのルックで好きなのは、まず、リネンのニットのシックな着こなし(上写真・中)。“グレーに勝る色はなし”で、ブリティッシュふうに袖と裾のリブが長いのも特徴、すべて好きなルックです。ほかに、白シャツのコーディネイトでは、映画監督の小津安二郎的なラフな格好で、全体の雰囲気が日本の昭和的というスタイルが好みです。
また、エポーレット付きでカッタウェイのフロント、ポケットの位置が高いなど、ハンティングジャケットの基本の着こなしもいいですね。デザイナーのマーガレットがとらえたのは、1950~60年代のスコットランドのレイク・ディストリクトでの避暑。湖水地方でイギリスのファミリーがハイキングするスタイルが連想されます。
いずれのスタイルも“素材”へのこだわりがマーガレットらしい。みなさんも自分の好きな素材、あるいは季節に適した素材をしっかり定めることができれば、トレンドに左右されて消費的な買いものをすることもきっと減っていくでしょう。“本当のおしゃれ”とはそうやって磨かれてゆくものです。
赤峰幸生|AKAMINE Yukio
一貫して日本人の紳士道とは何かを、服づくり、服語りを通して訴え、「真のドレスを求めたい男たちへ」を自らの生き方としてさまざまな活動をおこなう。「Akamine Royal Line」で自作服づくりのほか、朝日新聞beの連載、百貨店、セレクトショップ、大手アパレル、テキスタイルメーカー、レストランなどと国内外の雑誌を通じた場で、紳士道論を訴えつづけている。
http://www.incontro.jp
http://j-gentlemanslounge.com
アングローバル
Tel. 03-5467-7874
http://www.margarethowell.jp