島津由行が語るマーガレット・ハウエルの美的感覚|MARGARET HOWELL
MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル
YOSHIYUKI Shimazu talks about MARGARET HOWELL
「マーガレット・ハウエル」の2015-16年秋冬メンズコレクションを熱心に見るのは、スタイリストでファッションディレクターの島津由行さん。このブランドとの出会いは「1977年、僕が東京に出てきて間もない18歳のとき」だと話す。長年に渡り、マーガレット・ハウエルのクリエーションを見続けるなかで、いま、島津さんが感じていることとは。
Photographs by KOBAYASHI Takashi(ITARU studios)Text by KAJII Makoto(OPENERS)
濃紺のスウィングトップに一目惚れ
――初めて購入したマーガレット・ハウエルのアイテムを覚えていますか。
地元・熊本を飛び出して、18歳のとき原宿のアパートに住んでいたのですが、表参道に「ペーパームーン」というセレクトショップがあって、そこで初めて「マーガレット・ハウエル」のシャツに出合いました。当時の自分にはとても高くてそのときは買えませんでしたが、1978年、栗野宏文さんが店長だった「ビームスF」でマーガレット・ハウエルのスウィングトップにひと目惚れ。表地が濃紺で裏地がサックスブルーのもので5万円ぐらいしたとおもいます。いまでもストックのなかにあるはずです。
――当時はどのような印象をお持ちでしたか。
シャツやツイードのスーツなど、メンズのイメージが強かったですね。当時の原宿には、映画『さらば青春の光』(79年)のようなモッズの人、パンクの人、レゲエの人など、格好いい大人がたくさん遊んでいました。僕もマーガレットのスウィングトップを着て、真っ白のベスパに乗っていました。それから79年に初めてロンドンに行きました。いま思い出しても熱くて刺激的な時代でしたね。
――現在のロンドンのファッションはどのように捉えていますか。
メンズコレクションを見ていると、ファッションシーンが動き出しておもしろくなってきていますよね。その中核を担っているのが、生粋の英国人ではない若手のデザイナーたちが、やっとパンクなどの過去の遺産の呪縛から解放されて、あたらしいデザインをつくり出しつつある。その根底には、マーガレットをはじめとするデザイナーたちの活躍もありますが、とにかくオリジナルを出そうとクリエーションしているのが素晴らしいですね。個性と熱気を感じます。
――今シーズンのマーガレット・ハウエルのコレクションの印象を教えてください。
ランウェイショーのルックを見ると、一見ベーシックな着こなしに見えますが、詳細に見ていくと絶妙なアレンジを加えているのがわかります。“イギリスらしさを出さないカジュアルさ” というか、デザインにエッジが立っていない分だけ、その “着こなしの妙” があたらしい。
―― “着こなしの妙” というのは。
白のタートルネックのニットなど、ベーシックなものを上手く使っていますね。特に、タートルにシャツやニットを重ねて、タックインして着こなすレイヤードが美しい。シャツをアウトして着る時代が長くつづきましたが、これからはタックインの方がエレガントに見えます。また、ノースリーブのニットにトラウザーズを合わせたコーディネートは女性デザイナーならではの表現方法。男性のデザイナーからはこういう発想はなかなか生まれません。
色彩感覚とスタイリング
――島津さんは以前にマーガレットとお会いになっていますね。
アトリエを訪ねたことがあります。彼女はデザイン画を描くとき、美大でファインアートを専攻していただけあって、墨で描いて色をのせていくんですね。今シーズンは、濃紺や黒が多いけれど、カーキやオレンジなどのアクセントカラーを含めて、どこか “日本の伝統色” に近い色彩感覚を感じます。絵に描く感じで、デッサンっぽく、ダンディでもあり色っぽい。
――島津さんはランウェイショーのスタイリングも手がけていますが、ステージで見せる技、何か秘訣はありますか。
一番大事にしているのは、ソックスと靴ですね。メンズのルックは足もとの見え方で決まります。実際にリハーサルでモデルに歩いてもらって、トラウザーズの裾を細かく調整したり、服を馴染ませるために、モデルに朝から着てもらったり。マーガレットのルックの足もとは絶妙で、「トリッカーズ」のがっちりしたダービーシューズから上手くソックスを覗かせています。この丈感と色の見せ方で、全体がグッと軽快に見えるのです。
――今シーズンのマーガレット・ハウエルのレコメンドを教えてください。
何より素晴らしいのは、「マッキントッシュ」や「バブアー」、「ジョン・スメドレー」、「トリッカーズ」、そして「フォックスブラザーズ」の生地など、イギリス生まれのベーシックをコレクションに取り入れながら、全体のスタイリングで軽やかなあたらしい風を感じさせるところ。これからもマーガレットのクリエーションは変わらないとおもうけど、時代に合わせた変化を僕たちが受け取って、彼女の服を着こなしたいですね。
SHIMAZU Yoshiyuki|島津由行
スタイリスト、ファッションディレクター。1959年熊本生まれ。高校を卒業後、東京に上京。81年から86年まで渡仏。ロンドンを始めとするヨーロッパやアフリカの各地を巡りながら、さまざまなカルチャーに触れ、見聞を広める。帰国後、スタイリストとしての活動をスタート。現在では、国内外のエディトリアルや広告を中心に活躍するほか、性別を問わず多くのタレントやミュージシャンのスタイリングを担当。また、ランウェイショーのディレクションや、ファッション雑誌のクリエイティブディレクションも手がけている。音楽に造詣が深く、選曲家としての一面も持つ。