<ザ・ノース・フェイス>が挑む、 地球との新しい関係。by PLEASE|THE NORTH FACE
FASHION / FEATURES
2021年6月1日

<ザ・ノース・フェイス>が挑む、 地球との新しい関係。by PLEASE|THE NORTH FACE

THE NORTH FACE|ノースフェイス

第一回 河田フェザーと取り組む再利用ダウンに鳥への愛を感じた!

<THE NORTH FACE>のダウンが使用済みのダウンを再利用していることを聞いて、早速その現状を知りたいと思い、連絡をした。その噂は本当で、ほぼ100%が再利用ダウンだった! その源動力である「河田フェザー」の工場見学をした!

Text & Phote by KITAHARA Toru

環境のために「循環」や「持続可能」という言葉を使うけれど、ペットボトルを溶かして別のものにする。そのときに溶かすための熱や再生するためのエネルギー、そこで排気される空気、二酸化炭素。再生のためにはさまざまなロスが生まれる。どこまで環境に貢献しているのか、まるで「言い訳」のように繰り返される「サスティナブル」や「再生」という言葉に疑問さえ抱く。
 
そんな宿題をする小学生のように行われるサスティナブルに対して<THE NORTH FACE>は一歩も二歩も前を行こうとしている。地球や人間以外の動物(結果的には人間に還ってくる)に優しくいられるか、という哲学が感じられるのだ。そのひとつの取り組みが再利用ダウンなのである。

コロナ禍という非常に制限の多い状況だったが、どうしても現場を拝見したいと思い、取材をお願いしてみた。消毒など衛生面の確保、社内への立ち入りをしない、取材は工場のみでインタビューは室外(車の中含む)という厳しい条件ではあったが、河田フェザーの工場見学を許可していただいた。
<THE NORTH FACE>のプレス・宮﨑浩さんとぼくは三重県にある松阪(まつさか)で待ち合わせた。松阪という駅に降りたのはもちろん初めて。おわかりになる方も多いと思うが、かの松阪牛の街で、駅前には牛像(こんな言葉あるのかな?)がコロナ対策のマスクを着けていた。のどかではあるが、海が近いことを感じさせる、魚の市場や魚屋さんが多い街でもあり、意外だったのはうなぎ屋さんの穴場でもあるらしい。少しネットで調べてみると1954年に伊勢湾台風の打撃を受けるまでは三重県の津を中心にうなぎの養殖が盛んだったそうだ。うなぎの養殖は水の綺麗なことが第一条件でもあるとあった。水の話は今回の河田フェザーさんのお話にも無関係ではないようだ。

我々は第二名物のうなぎを食べ、タクシーでさらに海に近い(お伊勢さまにも近づきます)河田フェザーに向かう。取材の基本である、タクシーの運転手さんに話しかける。
「このあたりは田んぼも多いんですね」
「お客さんが向かう明和のほうがこのあたり(まだ駅に近い)より米が美味しいって評判なんですよ」
「水が良いとかあるんですかね?」
「海も近くなるけれど、明和のあたりは水が良いとは聞きますね」

松阪の街でもコロナ禍で店が閉店を余儀なくされていることや、運転手さんの行きつけの飲み屋さんが店を移転縮小していること、一日運転した後の一杯のために働いているとか世間話が続くうちに河田フェザーに到着した。

工場見学に来たのだから当たり前のことなのだが、河田フェザーは工場だった。
河田敏勝社長が笑顔で出迎えてくれた。

挨拶もそこそこに社長の話が始まる。
「鳥の話ということで良いのかな? まず、鳥の歴史はジュラ紀に遡り、鳥類の祖先は恐竜なんですね。だから、爬虫類のような体をしていたわけではなく、恐竜には羽毛が生えていました」

と、ダウンジャケットの話がジュラ紀の話に至るとは! と思うのだが、この話は大学の講義を聴講している感じではあった。今回この話は割愛させていただく(笑)。そこでわかったことだけを上げさせていただくと、河田社長はまず、「鳥愛」が半端ない方だということ、もう鳥が好きで好きで仕方ないのだ。もうひとつは河田社長が医学博士号を社長になってから授与されているほどの勉強家だということ。だから、お話は常に学術的であり、講義のように体系的な内容なのだ。

ジュラ紀から現在のダウンの話に辿り着くまでおよそ1時間強(笑)。鳥の歴史を伺うわけだが、写真も撮らないといけないし、話の腰も折ってはいけないしという四面楚歌の中で頭にはなかなか入ってこなかった。すみません。

河田社長が「私たちは羽屋なんですよ」と始まる話。実はこの話は興味深く、羽にまつわることをいくつか教えていただいた。中でも先代である河田社長のお父さんが神社の縁起物「破魔矢」を考えたという話は興味深かった。破魔矢は古来からあるものとばかり思っていたが、まだ歴史は50年そこそこというアイデア商品。余談ですが。
 さて、やっと本題のダウンの話(すみません、筆者の余談も多くて……)に突入。河田社長はダウンの話でまず知ってほしいことがあると。

「ダウンのために飼育されているダックもグースもいないのです。ダウンは食品産業のなかで育てられた水鳥の、あくまでも副産物でしかないのです。生きた鳥から羽をむしることが問題視されますが、鳥の羽はアポトーシス(髪の毛が抜けてまた生えるなどの細胞の新陳代謝の一種)であり、特に水鳥の中でもヨーロッパグースだけは、羽を一気に生え揃わす特性を持ちます。それは1000年以上前に確立された食肉用グースの飼育技術に由来します。水面下に入る胸から腹の部分だけに生え揃った羽毛を軽い力で抜き取り、グースに刺激を与えることによって免疫力を高め、病死を減らし、かつ食が細いグースの食欲も刺激し、小さい水鳥を均一のサイズまで成長させます。この飼育技術は1000年前に確立させられ、その採取された羽はずーと捨てられていましたが、100~200年前から少しづつ使われ始めました。現在ではヨーロッパグースも飼育日数が半分以下になり、羽毛を採取する機会も無くなりました。もちろん、現在では全ての生きた水鳥から羽毛を抜き取るようなことはありません」
そして、今回の目的ダウンの再利用に関しても具体的に教えてくださった。

「おいしい鴨肉の羽毛は上質なのです。先ほど食用の副産物と言いましたが、日本やフランスのような一部のグルメの国を除き、最近のダックやグースは成長が早いものに品種改良されて、これが美味しくないのですよ。昔は食用としてダックは120日以上、グースは200日以上飼育されていたのです。それが今では安い鴨は28日、グースは60日前後で出荷されるように食肉用の需要が価格優先に変化しているのです」

この間も改良に関しての交配による遺伝の医学的な講義が挟まるのだけれど、ここでも大きく割愛。美味い肉の水鳥から良いダウンが取れることだけ覚えておいてください!
「28日で育った肉は成熟していないわけです。その肉を覆うダウンだって成熟しきれてないわけです。だから、今のダウンより、昔のダウンの方が保温性もあるし、質が良いのです」

なるほど! 成長しきっていない鳥と成長した鳥では肉のみならず羽毛の成長に差があるというわけだ。未成熟な鳥の羽毛はやはり未成熟なのである。
「もちろん、環境問題などもあり、羽毛のリサイクルは大切なことなのですが、羽毛そのものの質から言ってもリサイクルの方が良いのです」

これは本当に理に適っている。河田社長によると羽毛はきちんと洗浄して回復作業をすれば、羽毛は復活する。さらには羽毛は本来とても耐久性のあるもので200年くらいはリサイクルできるという。長く着られるということは地球に優しい。ダウンはとても環境に良い素材ともいえる。

「だけれど、リサイクルを初めた当初は大変だったのですよ。鳥の短期飼育が進んで羽毛そのものの質が下がるのを、鳥を見て、食べているとわかる。さらには異常気象により2000年代前半から羽毛の品質も大きく影響を受け始めた」
環境問題はさまざまな分野に影響する。そんな中で河田フェザーは1983年からホテル用の羽毛ふとんからリサイクルさせることを始める。

「ダウンのリサイクルはヨーロッパでは100年以上前から行われているものなのですが、日本はそこについてこられない状況でした。2011年の時点でも日本でリサイクルのダウンを売るといったら、非常識だと思われたのです」

さらには廃棄物の扱いは国、県、市町村、など自治体を含めて、入り組んだ問題があり、廃品の回収には困難を極めるが、河田社長はここでもまた独学で調べ、勉強し必要な免許を取り、行政に掛け合う。その結果、めでたく羽毛のリサイクルができるのであった!

「今、20社くらいのアパレルにリサイクルダウンを提供しているけれど、2014年にビジネス展開して、13年にはTHE NORTH FACEが羽毛のリサイクル可ラベルを国内で最初にダウンジャケットに付け始め、17年にはTHE NORTH FACEは再利用ダウンを起用してくれています。現在ではほぼ100%再利用のダウン(グリーンダウンと称している)という取り組みをしているのです」

閑話休題。1976年に誕生して1980年代に日本で爆発的なブームになったアメリカのスキーウエアブランド「Liberty Bell」をつくっていたのも実は河田フェザー。あの頃は猫も杓子も着ているおしゃれアイテムだった。うろ覚えだけれど、白いエナメルの「Liberty Bell」のダウンジャケットにベージュでスエード素材の膝上丈の巻きスカートに紺のハイソックスっていう女子大生がたくさんいた気がします。
話はダウンのリサイクルに戻ります。

河田社長は独学で地質学も研究されている。それはダウンのリサイクルに必要なものを探すためだった。その必要なものとは「きれいな水」。羽毛を傷めず回復させるには電気分解された還元力のある水が必要だったのだ。水の旨み成分でもあるミネラルは羽毛を傷めるので、ミネラルのない活性水素水を求め、河田社長はさまざまな地形を見ながら、山と谷の差が激しく雨量の多い屋久島と紀伊半島の大台ヶ原からの水に辿り着く。花崗岩の圧力もあり、河田フェザーのある場所で採取される水は硬度が3という凄さ!(凄さがわかっていませんが……)活性水素水としても予想の10倍!(どれほどのすごさかわかっていません……)この水は人間にも良いようで河田社長は毎日飲んでいらっしゃるそうです。筆者もいただきましたが、うまいというより何もないスムーズな水でした。河田フェザーでは近隣の方が飲めるようにしているそうです。
工場内に潜入!

結論的なことから先に書かせていただくと河田フェザーは工場というよりは大きな洗濯機と乾燥機だと考えるほうが正しいと思う。そして、入り口というべき新しい羽毛の倉庫は動物の臭いがしているのだけれど、洗浄以降は臭いがほぼない状態になる。工場内に「ダウンは無味無臭」という貼り紙があるように事実洗い上がったダウンは無味無臭なのだ。

「洗いが悪いとダウンはダメなのです。臭いのです。特にうちの水は還元力が強く、ダウンを洗うのに適しているんです。ダウンについた皮脂や垢、汚れなどを落としながら、水が浸透することでダウン自体が回復していくのです。折れ曲がったダウンも元のシャキッとした状態に戻るくらいです。安いダウンは大体洗いが悪いのと不純物が混ざっています」

と話をしながら、河田社長は工場内を案内してくれる。聞くと工場内の機械類はほとんど河田社長の元、社内でつくったオリジナルのものばかりなのだそうだ。さらに進化させ、さらに新しいことができるようにしている。

「この中で超軟水で羽毛を研ぐように洗います。そして、たっぷりの水で計3回すすぎます。そして、十分な乾燥をさせます」

この乾燥もダウンの軽さを活かしているようで、送風により軽い羽毛は宙を舞う。重い不純物は取り除かれるという徹底した仕組みなのだ。
敷地内の倉庫には使い古された羽毛ふとんやダウンジャケットが堆く(うずたかく)積まれている。それを障がい者福祉サービス事業所「ありんこ」の皆さんがひとつづつカッターで裂いていく。ダウンだけが吸い込まれていく。そのダウンを洗って、ダウンのパワーが回復するとまたダウンジャケットや羽毛ふとんになってみんなの元に届けられる。水の中で回復するというのを見ているとなんとなく『ドラゴンボール』のベジータたちが水に浸かっている回復装置「メディカルマシーン」を思い出した。
鳥を愛し、医学的にも羽毛のことを考え、それを最良に持っていくために地質学を学び、最適な水を求めて紀伊半島に工場までつくる。新しいダウンより昔のダウンのほうが保温性含め機能が良いからという理由で洗浄して再利用することを選ぶ。そのすべての行動は能動的なものだ。SDGsを悪くいうつもりはないけれど、目標を持たされて受動的にやることよりも自らの興味を発展させて、ビジネスにつなげる河田社長の取り組み。その取り組みにいち早く反応する<THE NORTH FECE>。

本当の意味で環境問題を自分のこととして取り組んでいる気がした。自分たちに良いことは地球にも良い、そんな思いがある気がした。


余談ではあるが、筆者が「飛ぶ鳥の体温は、飛ばない鳥の体温より1度以上高いらしいですよ」と豆知識を話した後、河田社長の目は爛々と輝き、あれだけしゃべり続けていた口を閉じ、じっと考え込んでいた姿が忘れられない。

どれだけ鳥のことばかり考えている人なんだ! と。

※本文中「羽毛」と「ダウン」が混在していますが、ニュアンスでわけています。ご了承いただけると幸いと存じます。
                      
Photo Gallery