三原康裕│日本モノづくり「第4回 和田メリヤス」(1)
Fashion
2015年3月5日

三原康裕│日本モノづくり「第4回 和田メリヤス」(1)

MIHARAYASUHIRO × Wada Meriyasu × Shinnaigai Textile

第4回 和田メリヤス×新内外綿のスウェットパーカ(1)

ファッションデザイナー三原康裕さんが、日本の誇る工場や職人を訪ね、日本でしかつくれない新しいモノを生み出す画期的な連載企画「MEANING MADE IN JAPAN MIHARAYASUHIRO(MMM)」。
世界中で生産されるスウェット類のなかでも、日本のわずかな工場でしか稼働していない旧式の吊り編み機で編んだスウェットは、最上の肌触りと風合いを備えるといわれている。今回三原さんはそんな貴重なスウェットをつくるため、まずは和歌山のメリヤス工場へと向かった。

写真=溝部 薫(ホークアイ ヴィジュアルワークス)、jamandfix構成・文=竹石安宏(シティライツ)協力=萩野 宏

rumors|通販サイトへ

和歌山に残る旧式の吊り編み機

私たちが普段着用する衣料のなかでも、伸縮性に富むニット(編み地)素材はアンダーウェアをはじめ幅広い衣類に用いられており、現代生活に欠かせないものになっている。そんなニットの国内生産シェア1位を誇るのが和歌山県である。和歌山のニットの歴史は、明治42年(1907年)に導入された5台のスイス製編み機からはじまったとされる。

その後、丸編みという輪状に編んだニット生地の生産が急速に拡大し、大正8年(1919年)には大阪を抜いて生産高が1位になった。現在も丸編み生地の国内生産は40%前後を和歌山が担っているが、その原点とされるのが吊り編み機である。

その名の通り、「吊り編み機」とは天井から吊り下げる構造になった丸編み機のこと(写真上)。円筒状の編み機には“ひげ針”という特殊な針が輪状に取り付けられており、それに沿ってシンカーホイールというパーツがゆっくり回転しながら編み立ててゆく。編み上がった編物は重力によって垂れ下がっていくが、そのために余計なテンションがかからず、またひげ針は糸に負担を与えない形状のため、まるで手編みのような風合いを表現できるのだ。

だが、最新の「シンカー編み機」に比べると生産効率が非常に低いため、1960年代以降は衰退。現在は世界的にみても和歌山の2社のみでしか稼働しておらず、そのひとつが今回三原さんが訪れた和田メリヤスである。

同社は昭和32年(1957年)に創業し、現在二代目の和田安史さんが社長兼職人として吊り編み機を稼働させている。

327_03_Meriasu_022

327_06_Meriasu_019

職人技が不可欠ゆえの後継者問題

和田 和歌山のニットはすべてメリヤス(おもに肌着類の編物)からはじまりましたが、高度成長期に大量生産へシフトしたために、吊り編み機は廃れていってしまいました。吊り編み機を扱うには専門的な技術とセンスが必要であり、機械まかせにできる最新の編み機とは違い、一人前の職人になるには時間がかかります。そのために、現在稼働しているわずかな編み機を引き継ぐ後継者もあまり育っていないんです。職人のなかでは私が一番若いくらいですからね。

三原 そうなんですか。つぎの世代が育たないという問題は、僕がかかわっている日本の靴業界も同じです。どの職人の世界も一人前になるまでは大変だと思いますが、この連載では若い世代にモノづくりならではの充実感も伝えていければと思っているんです。

和田安史さん

日本の強みでもある職人的なモノづくりが抱える問題は、吊り編み機の工場にも例外なく影を落としていた。だが、そうした業界内で生き残ってきた和田メリヤスには、ここにしかないノウハウが蓄積されている。

和田さんは吊り編み機にコンピューター制御を組み合わせるなど独自の改造を施し、一般的な吊り編み機では不可能な生地を編むことに成功しているのだ。

尽きることのない吊り編み機の可能性

和田 弊社は吊り編み工場として昭和32年に創業し、当時はゴム長靴の芯材やクルマ用のウエスなどをつくっていました。その後は裏毛(パイル状の裏面を起毛させたスウェット素材)やパイルなどを生産してきましたが、それらは季節に左右されるため生産量が安定しなかったんです。

そんなとき「ボーダー柄なら季節や流行にもあまり関係なく、毎年売れる」という妻のアドバイスをキッカケに、吊り編み機を改造しはじめたんですよ。いまでも吊り編みのボーダー柄を編めるのは弊社だけですが、ほかにも弊社にしかつくれない生地がたくさんあります。

三原 改造によって吊り編み機の可能性が広がったということですね。それにしても、旧式の吊り編み機でこれほど多くの生地を編むことができるとは知りませんでした。独自に生地を開発して提案されているんですね。

和田 そうですね。取引先に言われて改造したわけではないですから、生地もオリジナルで開発しています。昔のままでいいところもありますが、変える必要のあるところは積極的に変えるべきでしょう。旧式の吊り編み機はモーターを動かす電気代がかなりかさむため、けっしてエコロジーではなかったのですが、最新のインバーターとギアモーターを導入することで電気代は月3万円台に抑えています。

三原 つねに新しいことを考え、実践されているんですね。

和田 他人からは変わり者に見えると思いますけどね(笑)。とにかく工場を見てみてください。

           
Photo Gallery